映画『トリツカレ男』の登場キャラクターと重ねて語る人間観
「憑依はできなくても、同じ心にはなれる」上白石萌歌が思う、役を理解する過程の面白さ
2025.11.13 18:00
2025.11.13 18:00
「眩しくてしょうがない」──ジュゼッペという青年を語る上白石萌歌の言葉には、純粋な憧憬が宿っていた。
作家・いしいしんじの同名小説を原作とした映画『トリツカレ男』は、何かに夢中になることの眩しさと切なさを描いたラブストーリーだ。『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』の髙橋渉監督がメガホンを取り、Awesome City Clubのatagiが音楽を手がけたミュージカル・アニメーション作品として、声優には佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌、柿澤勇人ら魅力的なキャストが集結した。
上白石が演じたのは、異国で孤立し、病気の母のために風船を売る女の子、ペチカ。凍りついた心を抱えて生きる彼女が、何かにとりつかれるようにまっすぐ突き進むジュゼッペと出会い、雪解けのように心を開いていく。
「とりつかれる」という言葉が持つ時にネガティブな色も帯びる響きと、何かに夢中になることの眩しさについて。その二面性を見つめながら、俳優として、一人の人間として、多様な生き方に好奇心を開き続ける上白石萌歌の言葉には、ペチカと同じような静かな強さがあった。

役にとって一番の理解者でありたいし、信頼してもらいたい
──ペチカという役として、ジュゼッペをどのように見つめながら演じましたか?
こんな風にいろんなことに心をとりつかれて、まっしぐらに突き進んでいくジュゼッペという存在が、もう眩しくてしょうがなくて。ペチカはジュゼッペが少年のようにいろんなことに心を躍らせ、自分のことを犠牲にしてまで愛を向けてくれるその生き方に憧れのような感覚を持ってると思うんです。

──ペチカのパーソナリティは陰影と品格と、少し天然っぽいキュートさが同居していると思います。そのバランスをどう意識されましたか?
今回、お話をいただいて、原作を読む前に絵コンテを先に目を通させてもらったんです。それはまだキャラクターが立ち上がったばかりの素描っぽいタッチだったんですが、パッと彼女の姿を見た瞬間に、いろんなことを心の奥に抱えていそうだなというか、まだ何も発していないのに、彼女のことを知りたいと思わせるような魅力を感じたんです。第一印象はミステリアスな魅力を持っている女の子という感じでした。
この『トリツカレ男』の世界の中で、彼女は東のすごく寒い国から異国に移り住んでいて。そこには自分の国の言葉を話す人もいないし、孤独を感じながら、病気の母親のために風船を売っている。その状況を知った時に、生きている中での喜びとか、そういうものを感じるのはすごく難しい状況なんだろうなというのはすごく思ったので、とにかく彼女が心の中に何を抱えているんだろう?と想像することを一番心がけました。
品格みたいなものは、自分であまり意識してなかったので、きっとそれは彼女の立ち振る舞いとか、動き方とか、まばたき一つとか、そういうところできっと感じていただけたのかなと思います。声でも感じていただけたなら嬉しいですね。ペチカはちょっと現実離れしたキャラクター性でもあったのでやってないんですけど、私は役作りにあたってノートに妄想で「こういうことが好きそう」とか「好きな色は何だろう?」って書いたりするんですね。プロフィール帳を役になった気持ちで書くということにハマってた時期もあって、自分が役を愛するためにそういう妄想をすることがけっこうあります。自分が役にとっての一番の理解者でありたいし、役に信頼してもらいたいみたいな気持ちがすごくあるので。

──これまでも今作も、アニメーション映画での声の演技は特有の難しさがあると思います。
そうですね。やっぱり自分の声色によって、そのキャラクターの印象を大きく決めてしまうので、私もたくさん想像力を膨らませながら臨みました。『トリツカレ男』は原作もあったので、脚本の中にはない描写も自分なりに台本の中に書き込んだりして、外側からペチカはどういう人なのかを探る時間を取りました。
いつもはやらないんですけど、今回は台本を読んでる声を自分で録音してみて、自分の普段使ってる声はこれくらいの高さで、こういうスピード感なんだなという確認をアフレコ前にやりました。「ああ、私はこういう声なんだ」って再認識したというか、そのうえでどういう声を当てたいか、監督とも相談していく中で、トーンが決まっていきました。
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