今年も熱かった夏を1万8千字ロングレポートでプレイバック
計30組を堪能した庄村聡泰のフジロック滞在記、パート別で選ぶ個人的ベストアクトは?
2025.10.21 17:30
VULFPECK(「FUJI ROCK FESTIVAL '25」より)©︎Taio Konishi
2025.10.21 17:30
DAY2(7月26日)
観たアクト:
CA7RIEL & PACO AMOROSO/離婚伝説/EVRAAK/YHWH NAILGUN/STUTS/JAMES BLAKE/山下達郎/VULFPECK
今年のフジ注目アクトの筆頭株でありこれは見逃すわけには行くまいと多くのオーディエンスが詰めかけた朝イチのグリーンステージ。登場するのはアルゼンチン出身の今1番ホットなポップデュオ、CA7RIEL & PACO AMOROSOである。大所帯のバンドを引き連れて両雄が登場。ステージ中央の椅子にどっかりと腰を下ろすかと思えば服が膨らんでいく……? なんと2人揃って空調服を衣装としてセレクトしているではないか(日本のブランド、ANREALAGEのものであったそう)。これにはのっけからもう、やられた(笑)。

ハイスピードかつメロディアスに展開される楽曲の数々に翻弄されっぱなしであったが、バックスクリーンには全て字幕で歌詞の日本語訳が用意されているではないか。そこから読み解くに内容は少々お下品でエロ、酒、ドラッグが頻発。そこかしこに急にメチャクチャに売れてしまった自身に対するメタフィクションやアイロニーなども散見され、それをしっかりと日本の地にも伝えるべくしての字幕、そして字幕越しの奇妙な装いの2人、そんなシュールで周到なユーモアセンスにもやられた。個人的には、そこに愛してやまないRIP SLYMEの「熱帯夜」だったり「黄昏サラウンド」なんかも重ねながら楽しんでいた。さらには引き連れたバックバンドの腕前が凄まじく、特にモヒカン、サングラスでキメたドラマーEduardo Giardinaはその激渋カッコいいイケオジ具合も含め、個人的ベストドラマー賞を贈りたい。軽妙なメロディと笑えるリリックと超テクニカルなバンドサウンドが渾然一体となり、ラテン由来の軽やかなグルーヴでもって駆け抜けていくのだ。フュージョンラテン歌謡ポップスという、未体験の音楽。とんでもなくカッコよかったし、とんでもなく楽しかった。ラストは2人がステージ中央で熱い抱擁からの熱烈なキス!やられたよ。やられまくりました(笑)。

ラテンなノリに身体はすっかり“A Chi Chi A Chi(郷ひろみ「GOLDFINGER ’99」)”となってしまった。なのでそんな身体を国産メロウチューンで冷ましたい。というわけで直後はマーキーにて離婚伝説。だってそりゃあ、「愛が一層メロウ」したいじゃない。との目論見は大きく外れる。いやもちろん「愛が一層メロウ」はプレイされた。割とあっさりめに。あっさり度合いはどのくらいかというとアウトロが次曲と繋がるアレンジでもあったぐらいにあっさりめであったのだ。代わりにとばかりに展開されていたのは、ブルースロックかと紛うくらいに灼熱のグルーヴ感あふれるバンドサウンドだった。こんなにも硬質で硬派なバンド(本来はデュオ編成だがあのアツすぎるライブを観たらこれはバンドと形容しうる他にない)だったなんて。先日魔界へと還っていったオジー・オズボーンへ捧ぐフレーズをソロに盛り込みつつ、終始弾きまくっていたギタリスト別府純はサイコーにロックしてたし、サイコーのギターヒーローっぷりであった。個人的ベストギタリスト賞を贈りたいぜ。

直後はどうしても一目だけでも数曲だけでも観たかった国産プログレ(筆者はプログレが大好物)のEVRAAKを観に苗場食堂へ。ピーカンの山間部の木漏れ日の中に設置された和風のセットである苗場食堂に「暗黒歌姫」の通り名を持つ瀬尾マリナの声が轟く。初日に続いてのおとぼけビ~バ~かの引用であるが、ここも“めっちゃミスマッチングしてました”の瞬間であった(笑)。フルで観つつその仄暗い世界観と各楽器の妙技を堪能したかったのだが、次のアクトの時間が迫り、泣く泣くステージをあとにする。
2日目の個人的大本命はレッドマーキーのYHWH NAILGUN。怒りや疑問がそのまま叫び、嘆きとなったかというようなパンク/ハードコア由来のサウンドの上になぜか冷たいパーカッションが終始飛び回っているというその異質な音楽性に心を激しく掴まれてしまい、これをいったいどうライブで表現するのだろう、と気になりまくっていたニューヨーク出身の4ピースである。ボーカリストZack Borzonegはステージから登場するや否やストレッチを始めている。シンセやサンプリング担当のJack Tobiasも身体を捻ったりジャンプしたりと、これから何が始まるんだろうと不穏な空気を醸す。そこから急転直下にライブはスタート。のたうち回りながら喚き散らすZack Borzonegと対照的に冷たい、そしておよそギター的ではない音ばかり弾き倒すギタリストSaguiv Rosenstock。音源で最も印象的だったパーカッション的なパートは基本全てドラマーSam Pickardが1人で請け負っていた。ドラムセットフロントに据えられたロートタムを軸とした変則ビートを中心として、つんのめったりこんがらがったりする不可思議なアンサンブル。この日朝イチ出演、筆者は泣く泣く断念せざるを得なかったdownyに通ずる冷徹なロックを叩きつけてくれた。

基本グリーンとマーキーを行き来する流れを選択した2日目。ここからは全てグリーンにてゆっくりじっくり、ライブをフルで観ていた。まずはSTUTSだ。2022年フジロックのPUNPEEが繰り広げてくれた国産ヒップホップ一大絵巻並びに今昔物語といった趣きのライブがあまりにも素晴らしく、そういったものを期待して早めにグリーンへ到着(YHWH NAILGUNのライブが随分巻いて終わったことも功を奏した)。すると雨が降り出す。初日に持っていた防水上着を「昨日も降らんかったしまあ今日も大丈夫だろう」と、たかをくくった自分を嘲笑う様に雨は次第に勢いを増し、一時的には豪雨と言って差し支えないぐらいの降雨となっていた。隣で一緒に観ていた編集長曰く“こんなデカい雨粒くらったことない!”といった具合である(笑)。そんな中で観たSTUTSは期待通りというか。それを遥かに上回る豪華ゲストによる珠玉のコラボ曲の数々を惜しみなくプレイ。枚挙にいとまがないので一部割愛するが、序盤からDaichi Yamamotoに鎮座DOPENESS。からのスチャダラパーとの「Summer Jam ’95」そこにPUNPEEまでもが加わって(着用していたファンタスティックプラネットのシャツ、サイコーでした)の“Pointless5”。
中盤はZOT on the WAVEが参加しSTUTS on the WAVE名義の楽曲を続けてプレイ。終盤ではフジロックオフィシャルスポンサーである大塚製薬への賛辞からのポカリ一気飲み(笑)からのポカリスエットタイアップ曲の「99Steps」。PUNPEEを再び呼び込み、先述の2022年以来となる感動的であり国内ヒップホップの歴史的な瞬間ともなったであろう「夜を使い果たして」の再演がなされ(ぶっちゃけ筆者もこれを1番期待していたので、なんかもう泣きそうだった)、ラストはJJJとの「Changes」を盟友に捧げるといった形でプレイしてくれた。自身の出番の後にはホワイトステージでJJJのステージが控えていることや、彼とは“音のなかでは会える”と宣言してくれたSTUTS。偉大なるミュージシャンの逝去への悲嘆と感謝とそれでも音楽を鳴らし続けるSTUTSのカッコ良さでなんかもうさっきより泣きそうだ。雨が降ってくれていて、本当に良かった。

温かくも切なく、切なくも温かなSTUTSの余韻に浸っていたらあっという間に時間が経っていた。続いてのグリーンステージにはJAMES BLAKEが登場、いや、降臨した。ライブ中に雨はだんだんとその勢いを弱め、やがて止み、そして彼がライブを終えステージから降りる頃には雲間から夕陽が差していたのだ。そんな幻想的な山の天気の移り変わりと共に奏でられる荘厳な楽曲の数々。思い返せば息を呑む様にじっとステージを見つめ、耳をそば立てる様にじっと聴き惚れていた時間が3日間で最も長かったのもこの瞬間だったのかもしれない。これはもう登場、出演ではなくまさに“降臨”と呼ぶにふさわしいであろう。そんな神々しさすら覚えるほどのステージ途中、「Like the End」のミスで曲をやり直す際に苦笑いする束の間の予期せぬ息抜きも含め、なんだかひたすらに神がかっていたライブであった。

その後にはあれよあれよと、だんだん、そしてどんどんと観衆がグリーンへと集まっていく。気づいた頃には圧巻の光景が広がっていた。さすがのソールドアウトでもあった2日目、先程同様というか、こちらの方こそまさに“降臨”であろう。次のアクトのステージを観るべくして集まった大観衆がグリーンの広大な空間をびっしりと埋め尽くしている。山下達郎、デビュー50周年にしてフジロックに初の降臨である。ライブ後に時計を見ると時間もきっかりタイムテーブル通りの20時10分。そんな時間配分に至るまでいったいどこまで計算尽くしのライブだったかは知る由もないところではあるが、新曲の「Move On」に始まり「甘く危険な香り」、そして大観衆を自由自在に操りつつ大きなコールアンドレスポンスを巻き起こした「ドーナツソング」と新旧と緩急を織り交ぜつつなライブ運び、ギターソロをたっぷり引き延ばしたアレンジなど楽器の見せ所も配置しつつ後半ではまさかの「プラスティック・ラヴ」のカバーかと思いきや、2番では奥様であり当曲歌唱本人である竹内まりやが登場しそのまま歌い、その後はライブ終了までコーラス隊の一員として据えるという、最強最高の身内を共演させる大盤振る舞いまでもが飛び出す。誰もが聴きたかった「RIDE ON TIME」からの「アトムの子」では「鉄腕アトム」のカバーも挟んでラストはこれも誰もが聴きたかった「さよなら夏の日」で堂々の締めである。楽曲、そしてライブのクオリティだけでなく随所に光るちゃめっ気の効いた語り口調や先述の時間配分なども含め、完璧なステージングをこれでもかと見せつけてくれた。

待ち侘びた御大のステージが終了し、蜘蛛の粉を散らす様に次なるそれぞれのお目当てへ移動するオーディエンスたち……という気配は全くなく、多少の入れ替えはあれども大観衆が維持されたままのグリーンステージ。皆その次のアクトも心待ちにしていたことがよく分かる。山下達郎の次はVULFPECKだもんなあ。そりゃあみんなこれは流れで観たいよなあ。インスト中心のファンクバンドがフジのメインステージのヘッドライナーを務めるなんて異形の偉業を達成するのは、きっと彼ら以外に今後現れることはないであろう。しかも初来日・初出演にして初ヘッドライナーである。世界中が愛してやまないVULFPECKが2日目のラストを大盛り上げにやってきたのだ。
こちらはもう語るよりかはSNS上にアップされまくっている動画を観ていただいた方が伝わる至極のエンタメであった。そちらもSNS上の動画をご参照いただきたい次第、という職業放棄な文面(本当に申し訳ございません)であるのだが、個人的に1番エンタメだなと思ったのは、結成時からのオリジナルメンバーであり担当楽器はヴォーカル、ドラム、ギター、ピアノというマルチがすぎるTheo Katzmanがジェイソン・ステイサムに似ていることである。顔がジェイソン・ステイサムなのに声は超スウィートなのが最高の出オチであり、最高のエンタメなのだ。なんて書くとバカにしているようにも捉えられてしまう恐れがあるが、それは断じて申し上げる。違う。なぜなら筆者はこういった顔がムサくて声が甘いボーカリストが昔から大好きなのだ。刺さるのだ。ツボなのだ。ギャップ萌えなのだ。特にBee GeesのBarry GibbとELOのJeff Lynneが個人的2大ギャップ萌えボーカリストなのであるが、双方の顔がムサい所以はその髪型と髭に起因するところが非常に大きく、そういった意味では髪や髭に頼らないけどムサくて声が甘いTheoは新たな萌えに目覚めさせてくれた、言わば初恋の人になったのだ。そんな風に語る輩が1人くらいいても良いではないか。Theoはギャップ萌えの化身であり、Barry GibbとJeff Lynneに並ぶ偉大なる個人的偏愛ボーカリストの1人となったのである。そう。個人的ベストボーカリスト賞は彼に決まりだ。

ちなみにマルチがすぎるといえば中心人物であるJack Strattonの担当に至ってはドラム、ピアノ、キーボード、ギター、リーダー、マネージャー、運営、レコーディングエンジニア、ミックスエンジニア、動画編集である(笑)。でも同じくらいイケメンベーシストも好きだからJoe Dartにもこっそり個人的ベストベーシスト賞を贈ろう。推し増しがバレると嫉妬されちゃうからくれぐれもTheoには内緒だぞ。「Dean Town」のベースラインをオーディエンスがシンガロングするあの光景はいまだに忘れられない。
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