上遠野太洸、佐野ひなこら共演陣とストーリーの魅力を解説
夏休みの終わりに贈る、これぞ“正統派ジュブナイル”作品!田中樹主演『ぼくらの七日間戦争』開幕
2025.08.27 20:00
2025.08.27 20:00
舞台は1985年だが演出の向く先は“今”
ゲネプロ時のキャストで印象に残ったのはしっかりと舞台の軸になっている上遠野、実は作品中で一番活躍しているのでは? という成績優秀な中尾役を演じた縣豪紀、誘拐されていたので後半からの登場ながら、意外なキャラクターで意表をついた柿沼の北村悠。そうそう、体格もひときわ大きく、乱暴者&落ちこぼれながらも実は根は優しい……という安永を演じた田中彪は田中樹の実兄。舞台上で本当の兄弟が共演しているのもなかなか面白い。

「解放区」には入れない女子たちも、男子顔負けの活躍をするのが頼もしい。佐野ひなこ演じるひとみは菊池への恋心がなんともかわいいし、ゲネプロでは中山莉子が演じた純⼦の家族思い&機転の効く様子や、島ゆいか演じた久美子が抱える、親への屈折した思いなど。キャストはそれなりの年齢ながら、観ているといつしか中学生に見えてくるのが不思議だ。

また今作は大人側のキャストも含めてダブル・トリプルキャストが多いため、どの役をどのキャストで見るかでかなり印象が変わってくるようにも思う。特に体育教師・酒井は物語における屈指のヒール役。ゲネプロ時は山崎裕太がギリギリ完全には憎らしくなりきれない!? コミカルさも含めて演じたため、Wキャストの金子昇だとどうなるかが気になるところ。

実は、ストーリーも意外と複雑だ。“解放区”に立てこもって大人と攻防する……というシンプルな構造かと思いきや、そこには柿沼の誘拐事件と、市長選に絡んだ談合事件も関係してくる。登場人物の多さとスピーディーな展開が相まって、楽しんでいるうちにどんどんと物語が進んでいく印象だ。舞台となっているのは1985年、まだ学校での厳しい校則と教師による体罰がまかり通っていた頃で(劇中には「校内暴力が激しかった学校を立て直した」という言葉も出てくる)、子供たちが戦う相手は「学校と教師」からいつしか「大人全体と社会」になっていく。それでいて単なる「大人はよくない」という結論に帰結するのではなく、子供たちもいつかは大人になっていくという未来を見据えて、7日間の冒険を終えるのがなんとも清々しい。大人たちの態度もただ子供たちに怒ったり押さえつけるのではなく、理解を示すような大人もいる。その辺の演出の匙加減が、きちんと“今”のバージョンになっているという印象だ。


観ながら、いろいろなことを思う。今の子供たちは、廃工場に立てこもるような「反抗」をするのだろうか? 原作が発売された1980年代はまだ全共闘の記憶が生々しい頃で、そういった反抗がまた別の意味を持っていた。今の学校は体罰もなく、理不尽な校則は少しずつなくなっているはず。ただ、それでも「大人」になったら忘れてしまうものというのは必ずあって、子供の心では昇華しきれない大人へのモヤモヤが反抗という形になるのなら、どんな時代でも子供は反抗するものなのだろうな、とも。今、まさに「子供」時代を過ごしている人も、かつて「子供」だった事がある人も、だれもが思い当たる部分がかならず1つはある……そんな良作だ。
