生き方を見つめ直すきっかけをくれた映画『雪風』を語る
奥平大兼が受け継いだ救いのバトン 21歳俳優として思う、戦後80年を生きる“僕らの役割”とは
2025.08.19 18:00
2025.08.19 18:00
80年前の人たちに恥じない生き方がしたい
──彼らは死というものや、敵国と戦うということについて、どんな覚悟を持っていたんだろうと考えましたか。
これは僕の勝手な想像ですけど、どこかで感覚がおかしくなっていたところはあったんじゃないかと思います。たぶん初めて敵を倒したときは怖かったと思うし、追いつめられていたと思う。でも、2回3回と続いていくうちに、どんどん麻痺していったところもあったんじゃないかなって。気を抜いたら、自分や仲間が死んでしまうかもしれない。そんな状況でずっと正気を保っているのは無理で。言葉は良くないかもしれないですけど、どこかで狂ってないと生きていられなかった。自分のやっていることを正当化しないと、もうやっていられなかったんだと思います。
「雪風」の乗組員が海上を漂流している敵軍を倒そうとして、それを艦長が止めるシーンがあったじゃないですか。優しさという言葉で合っているのかどうかわからないですけど、あそこに艦長の武士道を感じましたね。あんな極限状態の中でもそういう精神をちゃんと持ち続けた人もきっといたんだろうなって。

──そんな武士道精神は、奥平さん自身の中にもあると思いますか。
あそこまで芯のあるものがあるかと言われたら、正直わからないですね。僕を含め、同級生とか見ていても、武士道なんて感じることはほとんどなくて。今は娯楽もたくさんあるし、甘えられるものがいっぱいあるから、それこそ武道をやっているような人でないとないんじゃないかな。
あ、でもそこで言うと、僕、空手をやっていたんですよ。そのときから、他人に手をあげないとか、武道で身につけた力は敵を攻撃するためのものではないとか、そういうことは教えられてきましたけど、じゃあ今の僕が武士道と言えるだけの何かを持ち合わせているかというと自信はないです。もちろん暴力を振るうとかは絶対しないですけどね。
──そう考えると演じた井上は実年齢でいえば近いんでしょうけど、人間の中身みたいなところは全然違ったのかもしれないですね。
違うと思います。経験も、見てるものも、井上と僕たちじゃ全然違う。80年でこんなに変わるんだなって思いました。でも、それは僕たちが平和な時代を生きているからで、それ自体はすごくいいことだと思うんですよ。大事なのは、その平和を守り抜くこと。そのためにも、こんな出来事があったんだということを忘れないで受け継ぐことが僕らの役割なんだと思います。

──映画の中で、先任伍長の早瀬の「日本はどんな国になっているんでしょうね」という問いに対して、艦長の寺澤が「普通がいい」と答えるシーンがあるじゃないですか。あそこがすごく心に残って。
僕もすごく好きなシーンです。普通に暮らせるのが、やっぱり一番の幸せですよね。でも、80年前はそれがままならない環境だった。今この幸せがあるのは、80年前に必死に生きてきた人たちのおかげだと思うので、絶対戦争は二度と起こってほしくないし、これからもずっと普通の幸せが訪れる日本であってほしいです。
──早瀬の「日本はどんな国になっているんでしょうね」という問いに、令和を生きる奥平さんはなんと答えますか。
今の日本ってある程度幸せだとは思うんですよ。でもやっぱり人それぞれ不満に思うところがあって、今の日本はこのままで大丈夫かと不安になることもある。正直、僕のような若い人たちがこの映画を観たときに、自信を持って「いい世の中になってるよ」と言えるかといったら、必ずしもそうじゃないかもしれない。
そう思うからこそ、80年前の人たちに自信を持って「いい国だよ」と言える方向に世の中が進んでいってほしいし、これからの国をつくる担い手として僕たち若い世代が、80年前の人たちに恥じない生き方をしていかないとなと思いました。

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──奥平さんが普通の幸せを感じるのはどんな瞬間ですか。
友達とご飯を食べてるときですね。あとは仕事をしてるときが幸せなので、そこの二つがちょうどいいバランスでできることが僕の幸せです。
──最近幸せを感じた瞬間といえば。
最近、なぜか久々に会う友達が多くて。青木柚くんともこの間ひっさびさにプライベートで会って。たぶん1年半ぶりぐらいだったのかな。ただ話をしているだけで楽しかったです。会ってない間に何があったとか、他愛のない話までたくさんできて、なんか幸せだなあと思いました。
──俳優同士、芝居の話をするタイプですか。
しないしない(笑)。というか、絶対できないです。まだ6年目なので、僕自身、わからないことだらけですし。相手から相談されたら自分なりの答えは一応言うようにしますけど、でも絶対「全然参考にしないでね」って最後に言っちゃいます。

──じゃあ、もう本当にごく普通の話を。
ごく普通の話です。何話したっけなあ、柚くんと。あ、そうだ。ちょうどそのとき、恋愛リアリティショーの話をしたんです。これ面白いよって勧められて、観たら本当に面白かった。そういう大学生みたいな話を延々しています。
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