生き方を見つめ直すきっかけをくれた映画『雪風』を語る
奥平大兼が受け継いだ救いのバトン 21歳俳優として思う、戦後80年を生きる“僕らの役割”とは
2025.08.19 18:00
2025.08.19 18:00
終戦から80年。あの悲劇を決して忘れないために、映画界でも戦争に関する作品が多く発表されている。映画『雪風 YUKIKAZE』もその一つだ。何度戦場に駆り出されようと、決して沈むことなく最後には多くの仲間の命を助け必ず日本に還ってきた実在の駆逐艦「雪風」を舞台に、「雪風」から見た戦争の風景とそこで生きた人々のドラマが描かれている。
「雪風」の艦長・寺澤一利役に竹野内豊、先任伍長・早瀬幸平役に玉木宏、そして奥平大兼が若き水雷員・井上壮太を演じている。
Z世代の奥平に80年前の戦争はどう映ったのか。21歳の、正直で、まっすぐな言葉が、溢れ出す。

今の僕の生活では味わえない絆があった
──本作は、奥平さんにとって初めての戦争映画です。
これまでやってきた原作があるものだったりオリジナルのものとはまたベクトルが違う、実際にあった出来事ならではの重みがあったし、その重みは感じるべきだと思いました。そもそも「雪風」の存在自体知らなかったんです。なので、まずはいろんなものにふれてみるべきだなと思って、広島の江田島にある旧海軍兵学校にお邪魔させていただきました。そこでは当時の海軍に関する資料だったり、実際に戦時中に使われていた道具が展示されていて。戦争を体験した方のインタビュー映像もあって。そういったものを通して、当時の背景を知ることから始めました。
──戦争体験者の方たちの声を聞いて印象的だったことはなんですか。
みなさん、そのときのことをすごくよく覚えているんですよ。たとえば、積んでいた魚雷の大きさは何メートルくらいだったとか、数字まではっきりと覚えていて。もう何十年も前のことなのに鮮明に覚えているということは、つまりそれだけ忘れられない出来事だったんだなって。それがすごく心に残っています。
──「雪風」は、駆逐艦です。その機動性の高さから「海のなんでも屋」とも呼ばれ、沈没する僚艦から海に投げ出された仲間を救う役割を果たしました。
僕みたいに詳しくない人間からすると、海軍の艦といったらやっぱり大和のような戦艦がまずパッと浮かぶと思うんですよ。でも「雪風」のような駆逐艦があることで、助かった命がたくさんあった。縁の下の力持ちじゃないですけど、そういうカッコよさがありますよね。駆逐艦という名前は聞いたことがあったけど、どういう役割を果たしていたかまでは知らなかったので、今回詳しく知ることができて良かったです。
──奥平さんが演じた井上壮太は、まさにその「雪風」によって命を救われた一人です。
井上は「雪風」の乗員の中でも若くて、先輩方から何かを継いでいく存在だと思うんです。特にそれがはっきり表れるのが、ラストのモノローグ。艦長と先任伍長に向けたあの言葉は、二人から受け継いだものを次の世代へとつなぐものでもある。そういう役割をちゃんと果たせたらと思いましたし、お客さんにとっていちばん視点が近いのが井上だと思うので、観客のみなさんをしっかりこの物語へとナビゲートできればという意識はありました。
──いつ敵軍が襲来するかわからない中、海軍のみなさんは艦上で生活を送っています。彼らの生活って、どういうものだったんだろうと想像されましたか。
そこはやっぱり実際に体験してみないとわからないことなので、どれだけ演じたところで本当の意味で理解することはできないと思うんですけど、あの小さな艦の中で、年齢は違えど、同じ仲間同士、日々を送ることから生まれる団結力というのは、僕も撮影を通して共演のみなさんに感じました。
きっと当時の海軍のみなさんも同じことを感じていたんじゃないかなと思います。辛いことは一緒に慰め合い、艦の中で起きる小さな幸せは一緒に共有する。今の僕の生活では味わうことのできない絆があったような気がしています。

──戦争=悲惨というイメージがあって、それは間違いなくそうなんですけど、でもそこで生きていた人たちにもちゃんと生活があって、笑う日もあったんだということを、この映画を観て感じました。
家族からのお手紙も楽しみに待っていたり、艦の中でみんなでお酒を飲んだり、小さな幸せももちろんあったんですよね。そういうことを感じるからこそ、余計に戦争というものについて深く考えさせられました。
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