映画『長崎―閃光の影で―』で深めた絆と自分らしさへの理解
菊池日菜子×小野花梨×川床明日香が振り返る“支え合い”の日々 重なる人生観に3人が思うことは
2025.08.05 17:30
2025.08.05 17:30
題材が題材だけに、作品を語る彼女たちの表情は真剣そのもの。けれど最近ハマっているエンタメの話になった瞬間、賑やかなガールズトークに花を咲かせる。そのくだけた笑顔に心が緩む反面、こうも思った。きっと映画の中の少女たちも、本当ならこんなふうに笑い合える日々を過ごせていたはずなのだと。だけど、それを戦争が奪った。
映画『長崎―閃光の影で―』は、日本赤十字社の看護師たちによる手記『閃光の影で-原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―』を原案とした物語。1945年8月9日、長崎に原爆が投下された。一瞬で瓦礫の山と化した故郷に愕然としながら、人々の命を救おうと奔走した若き看護学生たち。その苛酷で痛切な戦いの日々を、菊池日菜子、小野花梨、川床明日香という3人の女優が演じている。
心さえもすり減る撮影の日々で、彼女たちを支えたものとは──。
お互いの存在が撮影を乗り切れる理由だった
──原爆投下直後の長崎の廃墟のような街並みが、生々しく再現されていました。あの場に立ったとき、どんな思いがこみ上げてきましたか。
菊池 遺体として使用される人形が運び込まれてきた瞬間、一気にそこが長崎の焼け野原のようになった感覚を今でもすごく覚えていて。あのときはずっと呼吸が浅かったです。まともに立っていられないような状態でした。
小野 原案となる手記を読んだり、原爆ドームに行ったり、クランクインの前から準備を重ねてきましたが、現場に立って、あの焼け野原を目の当たりにしたときに湧き起こる感情というのはまた別のもので。アツ子を演じるにあたって、衣装やメイク、小道具や美術に助けていただいた部分も多くありました。
川床 なんだか本当に80年前の長崎に迷い込んでしまったみたいで。あの広い空と、永遠に広がっているような焼け野原が、演じるミサヲと自分をリンクさせる助けになってくれました。
──今にも命が果てそうな人たちが「助けて」と手を伸ばし、救護所では「水をくれ」という呻き声が切れ目なく続く。お芝居とはわかっていても、何か自分自身にこびりついて消えないものがある気がしました。
菊池 技術部さんが原爆投下後の世界をリアルに再現してくださったおかげで、五感に訴えかけてくるものはすごく大きくて。体で覚えた記憶から自分を離す作業というのは、確かに少し大変でした。
小野 とても恐ろしい現場でした。物語上は8月の設定なんですけど、現場がすごく寒くて。あれ、撮ったのはいつだっけ。
川床 10月だったかな。だから季節的にはまだそんなに寒くないはずだったんだけど、救護所の撮影場所がすごく寒くて。
菊池 ちょっと標高が高めだったんだよね。それもあるかもしれない。

小野 恐ろしく寒かったのを覚えています。夏の設定なので薄着で、しかも汗をかいてるように見せるために霧吹きで水や油分を足すので、余計に体が冷えていく。だけど、とても寒いなんて言っていられる状況ではないですし。そういう現実的なことも含めて、心身ともに疲弊するような毎日でした。
川床 毎日、心がギュッとするようなシーンが続いたので、自分が認識している以上に疲れはあったと思います。でも、実際の現実はもっと辛かったはずなので、あっちゃん(小野のこと)の言う通りあれこれ言ってる場合じゃないなと。どこかで苦しさを押し殺していたところはあったかもしれないです。
菊池 いちばん辛かったのは、睡眠がうまくとれなかったことです。寝ようとしても30分ごとに飛び起きてしまうというのが1ヵ月間続いて、すごく辛かったです。
小野 その日が無事に終わった安堵を噛み締める前に、それを上回る次の日への恐怖がやってくる。1日の撮影が終わっても、頭を切り替えるというより、明日のことを考えなきゃって常に気持ちが張りつめていました。
菊池 惰性でできるシーンなんて1つもなかったもんね。
小野 毎日が大変でした。

川床 眠れないっていう話は現場でも結構しましたよね。
小野 したよね。あっすー(川床のこと)から、聞こえるか聞こえないくらいの音量でラジオを流すといいよと教えてもらって、私も一時期やったのを覚えている。
川床 本当にキツい状況ではあったけど、そこは3人とも同じだったから、逆にそこで心がつながったというか、一緒に頑張れる理由になった気がします。
菊池 わかる。二人がいるから乗り切ることができたし、高め合えた。
川床 お互いの存在自体が乗り切れる理由だったよね。

菊池 撮影帰りの車の中で花梨ちゃんと話したのを今でもすごく覚えていて。ボロボロになっている私に対して、わかるよと共感を伝えてくれたんです。一人じゃないと思ったし、今こうしてもがいていることが役者として間違っていないんだと思えました。隣にいてくれるだけで、私も食らいついて頑張ろうと思える存在でした。
小野 ありがとうございます(照)。こういう作品と本気で向き合うと、どんな気持ちになるのかは、きっと他の部署の方よりわかり合えるものが多いと思うんですね。特に(菊池が演じる)スミちゃんって、しんどいシーンがあまりにも多くて。日に日に日菜ちゃんから生気がなくなっていくのが、そばで見ていても明らかでした。スミという役と向き合って、作品に全エネルギーを注ぐ毎日が続いて。出し切っても出し切っても明日がやってくる絶望感というのはすごくよくわかる。今日も日菜ちゃんは大丈夫だろうかということは、私だけじゃなく、あっすーも、監督も、スタッフさんもずっと気にかけていました。
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