2025.03.22 17:30
2025.03.22 17:30
英国を代表するプログレッシヴ・ロックバンドとして君臨したピンク・フロイドの記念碑的フィルムと言える『ライブ・アット・ポンペイ』が最新の映像技術、そしてリミックスで蘇り円盤化され、世界中のロックファンの注目を集めている。
今は世界遺跡になっているポンペイ遺跡の円形闘技場……ロックファンにとっては1971年にピンク・フロイドが無観客ライヴを行なった場所として知られている。無観客というのも当時としては画期的だったが、ウッドストックフェスの真逆をやってやろうという逆転の発想だった。ポンペイ遺跡は彼ら自身、そもそも使用許可が下りるとは思わない中での使用申請だったそうだ。果たしてあの石造りの円形競技場の音響がどこまで重要だったのか……だが、あの荘厳さを醸し出す雰囲気はかなり重要だったはず。
当時最新作だったアルバム「『おせっかい』をフィーチャーしたセットリストが編まれた『ピンク・フロイド ライブ・アット・ポンペイ』は、エイドリアン・メイベン監督により4日間にわたって撮影されたもの。日本では同年、箱根アフロディーテで初来日公演、翌年に唯一となった日本ツアーを開催。さらに1973年にはNHK『ヤング・ミュージック・ショ―』で『ピンク・フロイド ライブ・アット・ポンペイ』の模様が放映。多くの還暦超えロックファンはこのときに動くピンク・フロイドを初めて観たがゆえ、『ピンク・フロイド ライブ・アット・ポンペイ』にロック原体験的な思いを持っている先達が多い。
なお2016年7月7、8日にはピンク・フロイドのギタリストであるデヴィッド・ギルモアが、ソロキャリアを総括したようなセットリストで再びポンペイの円形競技場で演奏。この模様も『デヴィッド・ギルモア ライブ・アット・ポンペイ』として作品化されており、この映像も素晴らしいものだった。幸いにもピンク・フロイド版もデヴィッド・ギルモア版も銀幕も観られた身としては、演奏のクオリティもさることながら、太陽が陰っていく自然の演出をも味方につけた映像が圧巻。神秘的なバンド像を決定づける重要なアイテムだった。

今回発見されたオリジナルフィルムから4Kデジタルリマスターで蘇った『ピンク・フロイド ライブ・アット・ポンペイ』には、今のレストア技術ってここまで綺麗にできるのか!という映像に驚かされる。オリジナルフィルムは長年紛失していたそうだが、未編集状態のフィルムが発掘されたことで今回の発表となった。さらに音源もポーキュパイン・ツリーの中心人物であり、プロデューサーとしても名高いスティーヴン・ウィルソンがリミックスしていることも話題。国内では5月2日(金)にソニーミュージックより2CD、Blu-ray、2CD+Blu-ray、そして2枚組アナログレコード(国内仕様輸入盤)がリリース。海外では4月から劇場公開もされるのだが……日本での劇場公開にも期待したいところ。
残念ながらピンク・フロイドをこれから日本で生で観る機会は不可能だが、『ピンク・フロイド ライブ・アット・ポンペイ』を、2023年に日比谷野外音楽堂などで再現してみせたトリビュートバンドが存在する。その名は原始神母……木暮shake武彦(g/RED WARRIORS)、箱根アフロディーテでピンク・フロイドを目撃している三国義貴(key)、UGUISSの新ボーカリストとしても脚光を浴びている冨田麗香(cho)らを擁する大所帯バンドだ。『ライブ・アット・ポンペイ』で印象的な、銅鑼を打ち鳴らすシーンが野音で観られたのに感銘を受けた。
数多くのトリビュートバンドは、オリジナルミュージシャンと同じ楽器や機材、衣装などを用いてライヴを再現する傾向で、それはそれで見事ではあるが、原始神母が面白いのはシグネチャーモデルなどにこだわるのではなく、各々自分の楽器でピンク・フロイド・サウンドを再現してみせる点。shakeとCASINO DRIVEで活動していたケネス・アンドリューがシンガーとして参加しているのも魅力で、コーラス隊と織りなすハーモニーも大きな観どころ。今や年末は管楽器隊、クワイアコーラス隊、チェロを従えていわゆる“第九”代わりに、「原子心母 Atom Heart Mother」組曲を再現するライヴで締めるのも定番化しつつある。2021年末のライヴ映像を観ていただきたいが、毎年足を運んでいる一人としてこの再現度には感激する。この大編成の中で奏でられる、木暮shake武彦による抒情的なスライドプレイは圧巻の一言。
この2月には“shake Presents 輝ける1970’s 〜 BRITISH ROCKの2日間 〜”と題して日比谷野外音楽堂2デイズを行なったばかり。2024年は歴史的名盤『狂気THE DARK SIDE OF THE MOON』のリリース50周年だったが、2025年は『炎』50周年。先日行われた原始神母による野音公演では全曲再現されたのだが、これに続くツアーにも俄然期待が高まるが……?