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INTERVIEW

10代から育む演劇愛で復興祈念舞台『まつとおね』に挑む

演者として、人として。吉岡里帆が手にした信念と手放した完璧さ

2025.01.28 18:00

2025.01.28 18:00

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自分は必要とされていないのだろうかと不安だった

──エンターテインメントを拠り所にしていた10代の吉岡さんにとっては、演劇や劇場はどんなものでしたか。

どんなふうに思っていたんだろうなあ。憧れ、が強かったかもしれないですね。当時は裏方さんがどんなふうにお仕事をしているのかも全然知らなかったから、なんで喋っている人にちゃんと光が当たるんだろうとか、なんで人がハケていったら、後ろの木も一緒にハケていくんだろうとか、舞台で起きていることが全部不思議で。魔法っぽいというか、不思議な世界に迷い込むというか、非日常を体験できる大事な時間でした。

だから、もしあんな場所に自分も立てたら楽しいだろうなって、ずっと憧れていました。そのくせ、緊張しいだったから、人前に出るとすぐ声が小さくなっちゃうんですけど(笑)。

──学芸会のときに何の役をやったとか覚えていますか。

覚えています。今でもすごく覚えている役が二つあって。一つがコックさん。でもこれはできなかったんです。どうしてもコック帽をかぶりたかったんですけど、クラスの別の子に譲ることになり、私はナレーションの役でした。でもおかげで今でもナレーションのお仕事が大好きで。たぶんそれはあのときやってみたら意外とカッコいいなと思ったからかもしれません。もう一つは、おばあさんの役です。誰も立候補しなくて。自分がやらなきゃいけないような気がして、私がやりますって手を挙げました。

──公式のインタビューで、今この時期に舞台をやることが復興に向けて頑張っている被災地の人たちにとって本当にいいことなのか最初はちょっとわからなかったとおっしゃっていましたね。

そうですね。葛藤はありました。

『まつとおね』チラシビジュアル

──個人的には、エンターテインメントは人の救いになるという願望込みの実感があります。吉岡さんはエンターテインメントに救われた経験はありますか。

私は椎名林檎さんが好きなんですけど、「ありあまる富」という曲が本当に名曲で。簡単に説明すると、誰からも何も奪われることはない、自分自身が生きているということこそが富であるという歌詞なんですけど、その歌詞に何度も何度も救われました。

──どうしてその歌詞に救われたのでしょうか。

この仕事をしていると、いろんな感情に迷わされることがあります。作品が評価されないときもあれば、自分自身が否定されるときもある。私はこの仕事をしていちゃいけないんだろうか、必要とされていないのだろうかと不安に思ったこともありました。

そんなときに「ありあまる富」を聴くと、誰かに批判されたからと言って自分の信念を曲げる必要はないんだと思えるというか。たとえ誰かに必要ないとか見たくないと言われても、心折れることはない。信じるべきは自分の生命力なんだと、そう思える強さをこの曲からもらいました。

──今はもう周りの声に引きずられることはなくなりましたか。

そうですね。20代前半の頃がいちばん人の意見に左右されていた気がします。そうやって他者の声に振り回されているうちは自分の人生を楽しめないんですよね。お客様の声を聞くことは大切です。でも、人の目を気にしすぎて元来届けたかった作品の形が変わったり、伝えたい想いがブレることの方がよっぽど危険なこと。そっちのほうがお客様に失礼だなと思うようになりました。

今は「必ずいいものをつくるから待ってて」という想いで作品に臨んでいます。ちゃんと自分に対してもお客様に対しても自信を持つことが、人様の前で演じる者として大事なんだなって。

──『まつとおね』は、まつとおねという二人の女性の友情の物語でもあります。吉岡さんは、友達をつくるのは得意ですか。

どうでしょう。まず何を持って友達というかにもよると思うんですけど。自分から「あの人、友達なんだよね」と言うのってなんだかおこがましい気がして、なかなか言えなくて。だから口に出して言うことはないけれど、勝手に自分の中で友達認定して接する、みたいなことはよくあります。

──わかります。なので、友達ではなく「3回飲んだことがある」とか事実ベースで関係性を説明しがちです(笑)。

遠慮しちゃうんですよね、相手に。3回飲んで意気投合したから友達のような気もするけど、相手に「友達じゃないよ」と思われたら悲しくて言えない、みたいな(笑)。そういう感情があるからなかなか難しいんですけど、友達と仲間ってまた違うと思っていて、個人的にはこの仕事をして仲間はすごく増えたなという感覚はあります。

──そんな友達や仲間の存在に支えられたことはありますか。

多々あります。チャラン・ポ・ランタンのももちゃんと仲が良くて。それこそ、こんな私が胸を張って友達と呼べる数少ない相手の一人なんですけど、すごくアグレッシブなんですよ。出会って間もないのに、今年早速一緒にメキシコ旅行に行ったりして。

彼女のびっくりするところが、何があってもすぐに飛んできてくれるところ。「私はいつでも元気だから、里帆がちょっとでも悩んだり苦しくなったらいつでも私に連絡してきて」と言ってくれたことがあって。そういう言葉ってなかなか人に言えないじゃないですか。少なくとも私はそういうことが言えるタイプではないので、びっくりしちゃって。

ももちゃんって本当にいつでも元気なんです。まず体力がすごくある(笑)。私はそんなに体力があるほうじゃないので、その時点で感動します。あと、常に「楽しい」って言ってくれるんです。たぶん本人も意識して口にしているのかなと思うことがあるんですけど、どんなときも「楽しい!」「幸せ!」って言ってて、「私と出会ってくれてありがとう」みたいなことも会うたびに言ってくれて。うれしいじゃないですか、そんなこと言ってもらえるなんて。業界の中でも、ももちゃんと友達っていう人が本当に多くて。私の知り合いの中で、ももちゃんほど友達をつくるのが上手な人を見たことがない。ももちゃんの存在に癒されてるし、救われています。

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日々の自己肯定感を保たせてくれる存在

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作品情報

令和6年能登半島地震復興祈念公演『まつとおね』

令和6年能登半島地震復興祈念公演『まつとおね』

2025年3月5日(水)~3月23日(日) 全20回
会場:石川県 能登演劇堂
チケット:一般¥7,700(税込)/障がい者¥5,500(税込)

チケットはこちら

キャスト&スタッフ

キャスト:

吉岡里帆(まつ役) 蓮佛美沙子(おね役)

 

ナレーション:加藤登紀子

原作・脚本:小松江里子

演出:中村歌昇

音楽:大島ミチル

企画・プロデューサー: 近藤由紀子

主催:公益財団法人演劇のまち振興事業団

1993年1月15日生まれ。京都府出身。2015年、『あさが来た』でNHK連続テレビ小説に初出演を果たす。第46回 日本アカデミー賞主演女優賞、第49回報知映画賞助演女優賞を受賞。現在映画、ドラマ、舞台などジャンルを問わず活躍している。近作に映画『怪物の木こり』(2023)、『まる』(2024)、『正体』(2024)、ドラマ『ガンニバル』(2022)、『時をかけるな、恋人たち』(2023)、『忍びの家 House of Ninjas』(2024)など。待機作に1月19日より放送開始のTBS日曜劇場「御上先生」、2月7日公開の映画『ファーストキス 1ST KISS』、3月19日配信開始の『ガンニバル』シーズン2など。

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