関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第21回
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』公開記念、アクションの未来を切り開く谷垣健治との特別対談(前編)
2025.01.20 19:00
2025.01.20 19:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!』。第21回は特別企画として、古今東西のアクション映画に精通した関根と、映画監督やアクション監督として国内外で大活躍の谷垣健治による対談をお届けする。
1月17日より劇場公開中の香港アクション大作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』にて谷垣はアクション監督を務めた。本作の舞台は1980年代、変革の波が押し寄せる激動の香港。不法移民の若者チャンは、黒社会とのトラブルから命を狙われ、逃げ続けていた。そしてたどり着いたのは、無法地帯の魔窟である九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)。孤独に生きてきた自分を迎え入れてくれたこの場所で、かけがえのない仲間と出会ったチャンは彼らと絆を深めていく。だが、その出会いは九龍城砦をめぐる、血で血を洗う壮絶な抗争をもたらすことになるのであった。
関根勤と谷垣健治。同じカルチャーで育った者同士の2人が、香港映画愛やアクション愛について縦横無尽に語りまくる。
第21回 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』スペシャル対談(前編)
関根 これ、原作があったんですか?
谷垣 小説が原作で、そのあと漫画になり、映画になったみたいです。
関根 サモ・ハンが出てたのにビックリしました。
谷垣 もう73歳ですけどお元気ですよ。こないだも来日されてました。
関根 『おじいちゃんはデブゴン』観ましたよ。よかったです。
谷垣 残虐なおじいちゃんでしたね。僕と関根さんは育ったカルチャーが一緒というより、僕は関根さんのカルチャーに育てられました(笑)。『スパルタンX』のベニー・ユキーデはいかにアクションじゃなくて格闘技をやっているか、というのを関根さんが一生懸命に話されていて。
関根 最短距離で打つんですよね。僕が聞いた話では、いつもジャッキーは相手にスピードを合わせていると。本人はもっと速く動けるのに。でも、ベニー・ユキーデのときは全力で打たせた。
谷垣 ベニー・ユキーデのよさを出そうとした、(監督の)サモ・ハンがすばらしいです。そしてベニーの攻撃をがっつり受け止めてみせるジャッキー、そのリアクション芸があって初めてあのピリピリした戦いの緊張感が表現できたんだと思います。
関根 ベニー・ユキーデが強いことは当然知ってるわけですよ、僕らは。あらゆる日本のチャンピオンを破ってきてるので。映画でそこが損なわれてないんですよね、彼の強さがそのまま出てる。
谷垣 だいたい、何かしらのチャンピオンって、アクション映画に出てもダメな感じになるじゃないですか(笑)。ベニー・ユキーデがベニー・ユキーデでいられたのは、撮った人と、一緒にやれた人がちゃんと彼のよさを引き出せたから。
関根 Win-Winなんですよね。ベニー・ユキーデが強く見えるから、ジャッキーも強く見えちゃう。勝つから。
谷垣 僕らでいう“活かして殺す”ですよね。『ドラゴンへの道』でテコンドーの強い人がいたんですよ。『ヤング・マスター/師弟出馬』ではジャッキーとも戦ってる。強く見えるんですけど、それはジャッキーが活かしていたから。ブルース・リーはその人をそのまま瞬殺していた(笑)。ジャッキーはちゃんと活かしてから殺した。だから自分もよく見える。
関根さんはベニー・ユキーデをご存知だけど、ほとんどのお客さんは知らない。でも、知らない人が「なんだ? めっちゃ速い」と。いつもと違うんです。初めてジャッキー映画でファイティングポーズが変わった映画だと思うんです。いわゆる、今までのカンフーポーズと違ってデトロイト・スタイル(と言いボクシングの構えを見せる谷垣)。それとベニー・ユキーデの“眼”。
関根 やっぱりね、超一流の格闘家は眼が怖い。
谷垣 急にズームでバッ!ときたから。知らなくても、なんか喧嘩慣れしてるなこの男、と。
関根 めちゃくちゃやってるでしょうね、アメリカですから(笑)。
映画における“顔”の重要さ
関根 あれも成功してると思うんです、ドニー・イェンさんのマイク・タイソン(『イップ・マン 継承』で2人は共演)。あれを観たときにマイク・タイソンってやばいなと。ドニーさんもうまく活かしてますよね。
谷垣 香港の役者さんは、強い敵を倒すことに慣れてるから。ドニーはね、タイソンの大ファンでもあるからスタイルをよく知ってるんです。だから、タイソンがどうイップ・マンと戦うか、いろいろアイデアを出した。でも、一発やばかったときがあって……お互いのタイミングが狂ってマジで頭が砕けるかと。ギリよけたからよかったけど、そうじゃなかったら本当に大怪我だった。
関根 タイソンはこないだ復活しましたけど、アメリカで4階級を制覇したロイ・ジョーンズJr.がタイソンとスパーリングをやるのは勘弁してくれと。あの天才がビビっちゃって。タイソンは動きが速いんですよ。ドニー・イェンさんとやったときも速くて。アップになったときの顔を見て、これに皆がKOされたんだと思ってね。やっぱり顔、怖いですよ。
谷垣 顔でKO(笑)。その強さを映画で出せるか出せないか。おっしゃるとおり、タイソンのあれは怖い。
関根 最後は、タイソンを倒すことはまかりならぬということで、3分勝負のドローになりましたね。
谷垣 香港映画のほうが格闘家をうまく使っている気がします。アメリカ映画ではあまり思い浮かばない。
関根 リュック・ベッソンの作品は格闘技が入ってますね。リー・リンチェイ(別名「ジェット・リー」)を使って。リー・リンチェイって“型”の天才らしい。僕は以前、倉田保昭さんと対談したんですけど、倉田さんはジェット・リーと撮影するので、気合いを入れて3ヵ月くらいかけて体を作り直して撮影に臨んだそうです。それで倉田さんは軽く当てたらしいんですよ。そうすると、ジェット・リーが「やめてくれ」って。「え、ジェット・リーってそうなの?」と思ったそうなんですが、撮影が終わったあとのラッシュを観るとものすごい強く見える。
谷垣 僕、その『フィスト・オブ・レジェンド』の撮影現場にいました。カットがかかって、ボクシングみたく、ジェット・リーサイドと倉田先生サイドに戻ったときに先生が「なんだよ〜、ジャッキーのほうが全然タフだよ」と。それはこんなんで痛がりやがって、ということだと思いますけど。
関根 型なんですよね。
谷垣 ジェット・リーは普段、武術の動きが多いから、現代アクションと違って接触が少ないんだと思います。でも、見栄えとキレがすごい。
関根 綺麗ですよね、型が。
谷垣 あと正義感のある顔。それが訴える力。
関根 顔って大事。僕はねえ、トニー・ジャーが大好きなんですよ。アクションでローキックを使った人ってほとんどいないけど、彼はローキックでさばいていく。それにジャンピング膝蹴り。タイ式キックボクシングのムエタイ。すごかったですよね。だけど『マッハ!』は仏像を取り返す地味なストーリー(笑)。トニー・ジャーも女性受けする顔じゃないんですよ、僕は好きなんだけれども。身体能力がすごいですよね。
谷垣 1997年ごろだったかな、『モータル・コンバット2』というアメリカ映画を撮影したんです。最初はイギリスで撮影し、そのあとタイに行きました。そのときイギリスのスタントチームに、のちにダース・モールを演じるレイ・パークがいて。一緒にタイに行ったら、彼を上回るお化けのようなスタントマンがいました。宙返りとかの跳躍力がものすごいんですよ。それがトニー・ジャー。そのあと、数年経って会ったら、いまは俳優になって主演作を撮ってると。それが『マッハ!』でした。あのムエタイアクションは、一時代を作りましたよね。
関根 残念だったんですよ、『マッハ!』ブームきてほしかったのに。トニー・ジャーが『ワイルド・スピード SKY MISSION』に出たとき、ちょっとわからなかった。でも、膝蹴りでわかりましたね。
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