2人が語る“本当の怖さ”、新鋭監督が追求したリアリティとは
「これが見たかったホラーなのかもしれない」近藤亮太監督×森田想が初タッグ作に懸ける自信
2025.01.24 18:00
2025.01.24 18:00
森田想の印象は“ものすごく頼りになる方”
──過去の失踪事件を追ううちに、恐ろしい出来事に巻き込まれていく新聞記者、美琴を森田さんに演じてもらうことになった時はどう思いましたか?
近藤 美琴は演じるのが難しいキャラクターなので最後まで悩んでいました。元々は主人公たちより上の年齢に設定していたんですが、なかなかハマるキャストが思いつかなかった。そんな中、森田さんに演じていただけるかもしれないという話になり、年齢設定を下げることを想定し、「すごくありなんじゃないか」と思いました。そこで一部のセリフを変更し、森田さんに演じてもらえたことで美琴っていうキャラクターが「確かにこういう仕事ができる若い記者っているよな」っていうリアリティを獲得できた。お願いできて本当に良かったです。
森田 ありがとうございます。『サユリ』を撮り終わった時期にこの映画のお話をいただいたので「ホラーって続くんだな」って思いました(笑)。『サユリ』をはじめ、これまでは白石晃士監督の作品に複数出させていただいていたのですが、近藤さんとは今回が初めてですし、近藤さんにとって初の長編ということで、どういう映画になるのかすごく楽しみで沸き立つものがありました。実際に近藤さんとお会いして「ホラー映画大賞とはどういうもので」というところから丁寧に説明してくださいました。美琴の年齢設定を踏まえてどういう立ち位置の役かということも話してくださったので、とても気持ち良く演じられましたね。
近藤 前まで森田さんに対して“若手の実力派”っていうイメージを持っていたのですが、実際にご一緒したらプロ中のプロで「こちらから言うことは何もないな」って思いました。撮影に入って最初の3日間ぐらいまでは「監督として役者さんに何か言った方がいいのかな」みたいなエンジンがかかっていて。それで「ここはちょっとこういう感じでやってみましょうか」って森田さんにふわっと言ったら、「それは違うかもしれないです」ってはっきり言われて(笑)。
森田 あははは。
近藤 「そうか……」と思って。でも僕の案より森田さんに提案していただいた方向性の方が間違いなく良かったので「生半可な気持ちで適当に提案しても勝てるわけがないな」と思い直しました。森田さんの印象が“ものすごく頼りになる方”に書き換えられましたね。
森田 嬉しいです。監督と主演の杉田さんと平井亜門さんと私で本読みをしていた時に「どこまでも怖いホラーを作ろうと思ってる」と言ってくださって、その時は「それってどういうことだろう?」と思ってあまり想像がついていなかったんですが、できあがった作品を見たら驚くほど怖かったので、「ビジョンをしっかりと持っていらっしゃるからこそ有言実行できるんだな」と思いました。ブレがないですよね。
──『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は「ノーCG、ノー特殊メイク、ノージャンプスケアのJホラー」と謳われていますが、それと本質的な怖さは繋がっているものなのでしょうか?
近藤 先ほど話したリアリティっていうことに繋がると思うんですが、現場で自分自身が怖いと思えるかどうかを考えると、グリーンバックで撮影して、後から怖いものが映るっていうことをやっていると怖くない作品になるんですよね。リアリティのある怖さを出すために、現場でやれることは全部やろうと思いました。おそらく俳優たちにとってもそういうやり方の方が良いんじゃないかと。
僕は実際に幽霊を見たことはありませんが、現れた時にいきなりドカーン!みたいな音が立つわけじゃないと思いますし、絶叫しながら襲ってくる幽霊も聞いたことがないので、音は静かにした。カラコンみたいな目の幽霊が出た話も聞いたことがないので、CGも特殊メイクも使わない。自分が思うリアリティのある幽霊や怖いシチュエーションをリアルに作っていった結果、ノーCG、ノー特殊メイク、ノージャンプスケアの作品になりました。潤沢な予算がある映画だったらリアルなCGが作れるのかもしれないですが、そうではないのでそこにはベットせずに、そのような演出を選んだんです。
森田 心霊現象みたいなものを信じてる人と、信じてなかったけど出くわしてしまって信じざるを得ないみたいな状況が描かれていて、見る側としてはそこがすごく受け入れやすかったです。ホラーを見るのは苦手なんですが、「これが見たかったホラーなのかもしれない」という気持ちになりました。自分が関わってないシーンが割と多くて、主演のお二人だけのシーンやビデオテープの映像も初見だったので、正直あそこまで怖いと思ってなかったです。
──絶叫マシーンやお化け屋敷のようなホラーが増えていることに対しての危機感を持っていたりするのでしょうか?
近藤 イチ観客としてはそういう作品は楽しく見ています。ジャンプスケアの手法も好きですね。おそらくジャンプスケアをやっている瞬間は楽しいし、めちゃくちゃ面白い作品も多くありますが、本当の怖さには繋がらないと思っているので自分がやる意味があまりないんですよね。今後ジャンプスケアをやる作品を作る可能性はありますが、「本当に怖いものを作りましょう」って言ってくれるプロデューサーの方との作品では安易にジャンプスケアには頼らないですね。
──その考え方には『呪怨』をはじめとするご自身のルーツであるJホラーがジャンプスケアに頼っていないホラーだったのも大きいですか?
近藤 そうだと思います。中学生の頃に『呪怨』や『回路』や『リング』を見た時に感じた怖さを信じているというか。でも、『リング』のリファレンスになっているものとして、ロバート・ワイズ監督の『たたり』やジャック・クレイトンの『回転』があるので、欧米の心理表現の影響下にあるのが日本のホラーだと理解しています。たまたま日本で花開いて広まったと思っているので、基本的には万国共通で怖いっていう感覚があるのではないでしょうか。
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