芸人結成物語 by やついいちろう 第23回
パンプキンポテトフライ(谷拓哉&山名大貴)前編──なんもしない相方と行くしかなかった東京
2024.12.24 18:00
2024.12.24 18:00
山名が谷をスカウトしたきっかけ
やつい 高校で会って、別にすぐにお笑いやろうってわけじゃないでしょ?
山名 進学校だったんです。公立なんですけど、偏差値70近いような地元で一番みたいなところ行ったんで、そこから芸人になるとか、そもそも大学に進学しないっていう選択がない学校だったんですよ。
やつい もともと自分たちもそう思ってたでしょ?
山名 はい、入った時は。谷は普通に早稲田とか慶應とか狙うような感じで勉強してて。
谷 高3の頭ぐらいまで全然受験する気でやってたら、山名に「お笑いやってみない?」って言われて。「いいね、やろう」って。
やつい 全然興味ないのに、何でやろうって思ったの?
谷 教室でウケてたんですよ。ネタとか知らないですけど、面白めの人間でしょう、ぐらいの自信はあったんで。
やつい ネタとか作るんじゃなくて、自由に喋らせたら結構いけるなって?
谷 別に恥ずかしくもないし、とんでもなく向いてないことに誘われたわけではないと思って。
やつい だから誘われたっていうのもあるだろうしね。
谷 山名がネタ書いてきて、ちょっと読んでみたら漫才っぽいんですよ。見たことある「なんでやねん!」とか書いてて。こいつ書けるし、できるんだと思って。僕はあまのじゃくっていうか、この学校で大学行かないっていうのも面白いなって思って、波に乗ってみようっていうか。
やつい 大学行っても出来たのに、行かないことしたんだ。
谷&山名 そうなんですよ!
やつい 自分(山名)も行こうと思わなかったんだ。
山名 僕は進学校入った時から本当に勉強できなくなっちゃって。学年200人ぐらいいたけど下から3番、4番とかばっかりで。ちゃんとやらなくなって、その時にお笑いやりたいなっていうのと、昔テレビで見てた芸人さんがみんな高卒でNSC入ったとか。
やつい はいはい、伝説的なね。
山名 今でこそ大学行ってる芸人多いですけど、当時あんまりそういうのじゃなかったっていう空気をテレビのトーク番組で見てて。あと森田まさのりさんの漫画で『べしゃり暮らし』ってあるじゃないですか。あれがちょうど僕ら高校生くらいの時にやってて、高卒でNSC行くみたいな話で。好きだったから憧れみたいなのがあったんです。で、高校卒業してすぐお笑いの世界行くみたいなのちょっと面白いんじゃないかと思って。
やつい でも(谷は)頭良いわけでしょ?同じぐらい最下位の人探せば良かったじゃん。
山名 そいつらもみんな大学への勉強してるんですよ。谷は一番仲良かったし、こいつクラスでウケてんなと思って誘いました。
やつい 高校では漫才やってなかったの?
山名 1回だけ文化祭出たかな。
谷 僕ともう1人の3人で。
やつい せんたくばさみの超影響下じゃん。
山名 トリオ思考があるわけじゃないですけど(笑)1人でやる勇気はなくて。
やつい どういうウケ方してたの? 覚えてる? 高校時代のフレーズ。
山名 フレーズじゃないんですけど、ある日、谷がお昼休みの時間に帰って来なかったんですよ。「谷、どこ行った?」みたいにざわざわしてたらしばらくして戻ってきて、「なんで帰ってこんかってん」って言ったら「ちょっと川の方まで行ってまして。川に足がはまっちゃったんです」みたいな嘘ついて。嘘やったんですけど、その嘘を本当にするために自分の片方の靴を1個川にジャブンって水つけて、それ持って帰ってきたんですよ。
谷 なんやねん、そいつ。どれ喋ってんの?
やつい スカウトした理由だよ(笑)。それはスカウターしか知らんよ。
谷 欲しいですか?
やつい 欲しい!この話掘られたことないでしょ。
山名 (笑)それ見て、こんなことできる人がいるんやって思ったんですよ。
谷 いやいや、いるいる。
やつい 16か17で思い切ってるよね。その時クラスはどうなったの?「天才や!」みたいな?
山名 地鳴りのような、「すごいすごい」って。
やつい 「とんでもないやつ現れたで!」って。「俺らの世代の松ちゃん現れたで!」って?
山名 なってましたね。
谷 なってへんやろ!
やつい 『Mr.ビーン』しか見てないのに!
全員 (笑)
やつい 『Mr.ビーン』的ではあるけどね。川にはまってたっていう。
山名 確かに影響受けてる(笑)。やっちゃだめなことだと思ってたというか、進学校だし。それやってるやつも誰もいなかったし、ありえへん言い訳するような変なことするやつやなって感じではありました。
やつい なんでそんなに奇をてらったの?
谷 山名がこの話を取材でしたことが1、2回あるんでやった気になってるけど、僕記憶なくて。でも、山名が言うんでやってるんでしょうけど。当時のことを考えるとボケとかじゃなくて、本当に怒られたくなかっただけな気がします。
やつい 何してたの?
谷 僕、当時からルール守りません!みたいな人ではあったんですよ。あまのじゃくで。多分駄菓子屋さんとかでだべってて授業遅れてるだけなんですけど、別にいいわい!って言うわりに、いざとなったら怒られるの嫌だなって。「駄菓子屋にいました。すみませんでした」とかは嫌だから、靴濡らして持ってったら、ほんますぎて怒られないかなとか、心配される方行くんじゃないかなとか思っただけだと思います。
山名 それでこいつスカウトしようと思いました(笑)。
谷 それでなの? だいぶ人手不足。この話二度と話さんでな? 記憶もないし。
やつい 変わったやつだよね。10代くらいで、小ばかにしてるっていうかね。こいつ肝座ってんな?みたいな。
山名 もう本当にその感じですね。よくできるなそんなことって思ってました。
やつい あんまり怒られなかったの?
山名 そうなんですよ。そういうことするけど怒られるタイプじゃないというか。飄々とやり過ごしてるみたいな人あんまりいなかった。
やつい それで卒業する時に誘ったの? 卒業の前?
山名 前ですね。受験するかどうかってなるんで、その時期にどうするっていう話をして。
やつい 書いてきた漫才は2人だったんだ。
山名 そうですね。その漫才やりだした時は、もう高校卒業するぐらいの時だったんで、その時は2人用で書いてました。3人でやってた時のもう1人のやつは勉強して、今関西なんですけど、ABCのアナウンサーになっていて。
やつい 優秀だね!そいつも面白かったんだ。
山名 そいつは……そんな面白くなかったけど、めっちゃいいやつです。
谷 人気者でしたよ。優しくて明るい。
やつい それで卒業して、本当に言われた通り受験せず?
谷 そうですね。高2の終わりで、おかんを説得してる時にドラマの『ブザー・ビート』やってたんで、それでリンクして覚えてるんですけど。僕止められれば止められるほど……
やつい 意固地になって。
谷 そうです。「芸人やってみようかな。受験やめようかな」ぐらいで言ったら、めっちゃ止められたんですよ。「おもんないよ。別にお前」みたいな。こいつに誘われてちょっと考えたぐらいなんで何も思ってなかったけど、反対されたら「いや、絶対大学も行かないしお笑いやる」ってなって(笑)。「やるわやるわ。おかん関係ないもん。別に1人でやるから」みたいになって。最後は「まあじゃあやるなら頑張りよ」って言ってもらいましたけど、反動というか。「行ってきていいよ」って言われたらやってなかったかもしれないですね。
次のページ