映画『チャチャ』が発するメッセージを二人はどう受け止めた?
伊藤万理華×中川大志が生きる日本エンタメの転換期 俳優として今、この世界に願うこと
2024.10.17 18:00
2024.10.17 18:00
いろんなことが変わっていかなきゃいけない
──見る人の視点によって世界の印象は変わるということ、そして、人目を気にせず生きるということも本作の大きなテーマです。個々人の視点によっていろいろな自分の印象が生まれて、この人はこういう人とラベリングもされてしまうというのは、俳優という生業の宿命でもあると思います。SNSで言葉の暴力がいとも簡単に飛んでくる時代でもあって、表舞台に立つ人にとって過酷な時代になってしまった。そういう時代に俳優として生きるうえでお二人がどのようなことを大事にしているか教えてください。
伊藤 絶対的に考えることですよね。求められることと、自分が好きなことってどうしてもズレていってしまうところがある。積み上げてきた外側のイメージからお仕事をいただくことがやっぱり多いので。そこは自分のなかで受け入れつつ、一方でそうじゃない要素を、お仕事をしていないときに私は消化していて。日常的にもですし、物作りで消化しているところもあると思うんですけど。でも、正直すべて本当の自分かと言われると、超ナチュラルな、何もしてないときの自分ってそうじゃないなと思って。
プライベートでもどうしても人目につくところではどこかで演じていたりするし、話す人によって会話のテンポ感や展開を変えていくわけで。それを承知したうえで自分を許してあげる。「それだけに囚われないでね」って自分で自分を許してあげるのが一番心にはいいと思います。自分をわかってあげられるのは、やっぱり自分しかいないわけだし。イメージがつくことだってすごくありがたいことでもあるし──でも、どこかではネックになっていくところもあって。ただ、過剰にそこに囚われなくて、人目を気にしなくていいというメッセージがこの映画にあるのかなと思います。
──伊藤さんは、俳優としてマイノリティの側に立つ人を演じことが多いじゃないですか。マイノリティの側にいる人たちを認め、背中を支えるような役が本当に多い。
伊藤 たしかに。考えたこともあります。「なんでこういう役をいただける機会が多いのかな?」って。その疑問が普段から考えていることに繋がって本(『LIKEA』)を作るきっかけにもなったりしました。「なんでこういう役が自分に来るんだろう?」って考えて、日常とのギャップと、自分がいただいた役を演じるときに知りたい、わかりたいって考えた結果、人として男女の境界線を越えたいんだなとか、女性としてという概念だけではなくてちゃんと自分として見てほしいんだと考えて本も作って。
だから、演じることが考えるきっかけをくれる。いつも考えるきっかけをくれるのは作品であり役柄で。チャチャもそうですけど、「伊藤万理華のままでいいよ」って言われたことが今回初めてで。だからこそ初めて自分を俯瞰して見るきっかけになりました。私は今、そういうバランスで生きています。
──中川さんはどうですか?
中川 あと、1時間くらいあったらゆっくり話したいんですけど(笑)。でも、そうですね、僕は子どものころからこの仕事をやってきて、そのなかでいろんな変化がありました。最終的にやっぱり自分が誰かになることも不可能だし、周りの人間も自分になることは不可能なので。想像することはできるけど、本当の意味で100%理解することはできない。それを忘れないようにすることを大事にしています。その人になれないからこそ想像する。それは寂しくも聞こえるんですけど、それって変えられない事実なので。でも、その気持ちがあれば他者にリスペクトを持てるのかなと思うんです。
──今、また日本映画界は新しい才能と良作がどんどん生まれていて、いいフェーズに入ったという見方もあると思います。映画の世界に生きる俳優として、お二人がどのような未来を作っていきたいと望んでいるか、最後に聞かせてもらえたら。
伊藤 映画だけではなく、もっとエンタメの世界が寛容になってほしいです。どうしても限られた時間のなかでギュッと作品を作るのが日本の主なやり方じゃないですか。そうじゃなくて、もっとゆとりを持って、一つひとつの作品にストイックに集中できるエンタメの世界になってほしいと私は願っています。ストイックに作品と向き合えたときにやりたいことが具現化できると思うし、クオリティも上がっていくと思うから。働く時間も含めて、ちゃんとみんなが体力を維持しながらよりよいパフォーマンスを全員ができるようになってほしい。私は本当にそれしか願ってないです。
中川 これもあと1時間くらいほしい話ですね(笑)。でも、伊藤さんがおっしゃるようにいろんなことが変わっていかなきゃいけない転換期でもあると思うんですね。今まで文化としてあたりまえのように受け継がれてきたことも、ふと立ち止まって見たときに「本当に必要なのかな?」ということってたくさんあると思うんです。それはこの業界だけではなくて。すべての世界において転換期でもあると思うし、実際に変わってきているところもいっぱいあって。それを僕はポジティブにも捉えていて。この時代にいられることもそう。
だからこそ、自分も勇気を持っていろいろ行動していかなきゃいけないと思っています。あとは、いろんなコンテンツが生まれたことで海外のお客さんの目に触れる機会が増えたので。だからこそ、海外でもしっかり評価してもらえるようなクオリティとチャレンジ精神を持って、そして、もっと緊張感も持って作品を作っていかなきゃいけないと思っています。