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INTERVIEW

主演映画『若き見知らぬ者たち』で届けたい思いとは

磯村勇斗が信じる映画の力「自分たちに何ができるだろうと話し合うきっかけになれば」

2024.10.15 19:00

2024.10.15 19:00

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今世の中で大切なのは「声を上げる」こと

──そのプロセスを経て撮影に。クランクインはどのシーンからでしたか。

坂道のシーンです。あの坂がめちゃくちゃきつくて、体重を落とした分、筋肉も落ちていたので、自転車で坂道を上るだけでも結構ハードでした。

──あの坂道は、彩人の人生を端的にビジュアライズしたものでもあります。

そうなんです。だから、あのシーンが初日で良かったなと思って。あとは確か銃を向けるところも初日だった記憶があります。

──この映画において、引き金を引くというのは一つの象徴的な行為に見えました。

たぶんあそこで彩人は1回死んだんだろうなと。今言っている死とは、物理的な死ではなくて、精神的な死という意味ですけど。それくらい彩人はずっと死と近いところで生きてきた。もちろんそこには父親の自殺も関係していると思います。そういう死の匂いを彩人はずっと感じながら生きてきたんだろうなって。

──今この瞬間で引き金を引いたらどうなるんだろうという、ある種の破壊願望のようなものは誰しもに内在しているものだと感じました。

ああいう衝動みたいなものはありますよね。でもどうだろう。すごいポジティブな人が急に引き金を引きたくなるのかと言ったらわからないですけど。

でも、もしかたらポジティブな人の中にもそういうものがあるのかもしれないですよね。引き金を引こうとする人は、やっぱり何かしらのストレスを抱えているんだと思う。彩人はそれくらいずっと追い込まれていたんだと思います。

──その銃口を自分自身に向ける人もいれば、他者に向ける人もいる。この世にはこうした理不尽な暴力がたくさんあります。私たちはどうそれに対抗していけばいいのでしょうか。

最終的には、自分の身を守るので精一杯なのかもしれません。でも、僕はそれだけでは終わらせたくなくて。あらゆる暴力に対し、暴力で対抗するのではなく、ちゃんと口に出して抗議したい。「声を上げる」ということは今この世の中でとても大切なことだと思っているんですね。

SNSを使って発信したり、いろんな方法があるし、実際そうやってらっしゃる方もたくさんいますが、まだまだ自分の肉声を届けられる人なんてほとんどいないのが現実です。だからこそ、埋もれがちな生の声をいかに届けていくかが、エンターテインメントに携わる僕たちの課題だと考えています。

──作品をご覧になった方の中には、彩人はなぜ福祉の手を借りないのかという疑問を持つ人もいるかもしれません。

もちろんあそこで声を上げられたら結末は変わっていたと思います。でも、彩人のように声に出せない人がたくさんいるんだろうなということに僕は心を寄せたいし、そうした現実をもっと重く捉えていかなきゃいけないんじゃないかという気がします。

『若き見知らぬ者たち』より

──彩人を演じていて、SOSを出せない気持ちはわかりましたか。

わかりましたよ。そんな体力も気力もない。仕事から疲れて帰ってきたら家はとんでもないことになっているし、母親は勝手に街歩いて人様に迷惑をかけているし。母の面倒を見なきゃいけないし、生活のためのお金も稼がなきゃいけない。これだけたくさんのしがらみの中で生きていくと、声を上げるという選択肢自体が出てこない。声なんて出せないです。息するだけでやっとみたいな感覚は撮影している間ずっとありましたね。

──そう考えると、苦境にいる人に声を上げればいいのにと言うこともまた無理解の暴力に感じられます。当事者が声を上げられないのだとしたら、周りにいる人はどうしたらいいのだと思いますか。

難しいところですよね。きっと私が代わりにやってあげるよと言っても、そういう人たちは簡単に受け入れないんじゃないかという気がして。結局困っている人がどんどん孤立していく。正直、僕にその答えはまだわからないです。でも、この映画が手助けになったらいいなと思う。

声を上げられないくらい困っている人たちが映画館に行くほどの余裕があるかどうかはわかりません。でも、この作品を観て、自分は声を上げられない状態なんだと気づくことで、ただ息をするだけじゃなく、発声するきっかけになったらいいなって。そして周りにいる人たちには、自分の気づかない世界で映画のようなことが起きているんじゃないだろうかと、だとしたら自分たちに何ができるんだろうと話し合うきっかけになったら、いちばんうれしいです。

──おっしゃる通り、本当に困っている人は映画を観る余裕なんてないのかもしれません。劇中にも映画は無力なのかという問いがありましたが、それでも磯村さんは映画に力があると信じたいですか。

信じたいです。絶対あると僕は思っています。どれだけの影響力があるかわからないですけど。だから僕たちは映画をつくるし、これからもつくっていかなきゃいけないと思っています。

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今、俳優に求められている姿勢とは

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作品情報

若き見知らぬ者たち

©︎2024 The Young Strangers Film Partners

©︎2024 The Young Strangers Film Partners

若き見知らぬ者たち

2024年10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給・宣伝:クロックワークス

公式サイトはこちら

キャスト&スタッフ

出演:磯村勇斗 岸井ゆきの
福山翔大 染谷将太
伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良
滝藤賢一/豊原功補 霧島れいか

原案・脚本・監督:内山拓也
製作:小林敏之 宮前泰志 藤本款 Amel Lacombe Sang Wook Kang Catriona Chen 菊野浩樹 本間綾一郎 森田篤 東城祐司
企画・プロデュース:宮前泰志共同プロデューサー:Amel Lacombe 本間綾一郎/プロデューサー:吉岡宏城 佐藤雅彦
監督補:長田亮/撮影:光岡兵庫/照明:阿部良平/録音:小黒健太郎/美術:福島奈央花/装飾:遠藤善人/衣裳:加藤哲也/ヘアメイク:寺沢ルミ 杉本あゆみ/助監督:石井純/制作担当:竹岡実
編集:平井健一/音楽監督:石川快/音響効果:長谷川剛(J.S.A)/リレコーディングミキサー:Lionel Guenoun/VFXスーパーバイザー:堀江友則/カラリスト:Alexander Zolotarev/アクションコーディネーター:小原剛/キャスティング:杉野剛/宣伝プロデューサー:深瀬和美/宣伝:小口心平(TAIRA) 山口慎平(TAIRA) 川口菜生子(TAIRA)
格闘技コーディネーター:新明佑介/格闘技指導:伊藤俊亮/格闘技監修:佐藤ルミナ/特別協力:一般社団法人日本修斗協会/協力:トライフォース柔術アカデミー
協賛:バカルディ ジャパン、イングラム、ムンディネロ、LIMITEST、イサミ、敷嶋醸造元 伊東
The Young Strangers Film Partners:カラーバード、TCエンタテインメント、クロックワークス、PANORANIME、MediaCastle Corp.、Neofilms Ltd、TBSテレビ、ハッチ、UNITED PRODUCTIONS、メディアミックス・ジャパン
企画・制作:カラーバード/制作プロダクション:エピスコープ/サウンドプロダクション:PANORANIME/企画協力:ハッチ
製作:The Young Strangers Film Partners

1992年、静岡県出身。高校時代から地元の劇団に入団し、2014年に俳優デビュー。2017年の連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK)でお茶の間に広く知られると、「今日から俺は!!」(NTV)、「サ道」シリーズ(TX)、大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)、「恋する母たち」(TBS)など話題のドラマに続々と出演。2022年には映画『ヤクザと家族 The Family』(21)『劇場版 きのう何食べた?』(21)で第45回アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。『ビリーバーズ』(22)で映画初主演。『PLAN 75』(22)ではカンヌ国際映画祭のレッドカーペットも踏んだ。2023年は『最後まで行く』『波紋』『渇水』『月』『正欲』と5本の出演作が公開され、『月』で第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。今年はドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS)の一人二役も記憶に新しく、秋には映画『八犬伝』(24)の公開も控える。

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