本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第15回
「音楽を突き詰めたい」乃紫と考える、長く活躍し続けるために必要なこと
2024.10.16 19:00
2024.10.16 19:00
常に現状に不安がある人の方が成功する
本間 やっぱりセンスがあるんですよね。子供の頃から聴いてきたものとか、林檎ちゃんとかRADWIMPSとかを聴いてるから、基準が突拍子もないところに行ってない。順番は場合によるということだけど、どれが一番多いですか? 歌詞から?
乃紫 メロディーや歌詞じゃなくてコンセプトなんですよね。例えば、魅力的な年上のお姉さんの曲を作るってなると「先輩」っていう単語からいろんなものを拾ってきたり。ちょっとクールなお姉さんのイメージならメロディーはクールな感じで単調っぽくするとか。
本間 そっか。その世界観の作り方がすごく上手なんだと思う。それ全部自分でやってるんでしょ?「すごいな」しか出てこないんですよね。あのね、「杯杯」のビデオが好きなんですよ。
乃紫 スマホで撮った……(笑)。三茶の中華料理屋で。
本間 三茶の中華料理屋(笑)。その発想の源っていうのはどこから来てるんですか? 映画とか読書とかドラマとか普通に遊びとか。
乃紫 元々写真が好きで。音楽始める前からカメラとか何台も持ってて、写真とか映像を作るのが好きだったんですよね。だから映画も好きだったし。「杯杯」出した時は大学生だったので制作費とかも何もなく、スマホで撮るしかないしみたいな。
本間 歌ってみた系の人とかもこんなふうに全部スマホで定点で撮ってやってるけど、この中華料理屋のアイデアはなかったなと思って。自分もこんなビデオを撮りたいと思っちゃったもん。アマチュアの子と撮影するってなった時に、参考ビデオでこれ出したんですよ。
乃紫 えー!(笑)今見たら恥ずかしいです。
本間 でも歴史ですからね。13曲?
乃紫 オリジナルは11曲ですかね。ライブでは未公開曲もプラスして。
本間 ロッキンとかは何曲ぐらいやったんですか?
乃紫 30分尺で8曲でした。MCなしで。
本間 いいですね。ああいうところのMC難しいですもんね。暑いし。大変だったでしょ?
乃紫 でも暑さというよりかは、フェスに全然慣れてないんで、盛り上げられるか?みたいな不安が毎回ありますね。
古い考え方かもしれないんですけど、例えばライブハウス叩き上げのバンドとかは、フェスに出たら実力発揮できるし、ドカンとはいってなくても根強いファンがいる人たちがいるわけじゃないですか。SNSで一気にみたいなタイプだと、このファンの熱量があるのかどうかみたいなのが不安です。
本間 すごい冷静に見てますね。でもそれがセルフプロデュースってことなんで。現状は、TikTok何億回とかで誰でも聴いたことあるっていうか、歌い出した瞬間に振り向く感じでも5年後どうなっているかってすごく想像するし、不安にもなるかもしれないし、そこまでどういうふうに導いていくかってことじゃないですか。そこを見れずに、分からないうちに「楽しかった」って終わっちゃう人が多いと思うんですよ。
でもその段階ですごいクールに俯瞰して見れるって次のステップに上がっていける一番のポイントだと思うんですよね。僕も長年やってますけど「もうこれで終わりなんじゃないか?」とか「仕事が来なくなったらどうしよう」とか常に考えてます。それを30年くらいずっとやってて、「自分はこの業界のテーブルの上に小指1本でぶらさがってんだ」って。失敗のないように先を見ながら「何が求められているか」「どういうことをやればいいか」とか常に考えちゃうんですよね。
乃紫 やっぱりずっと不安なんですね。
本間 ずっと不安です。でも不安な人の方が成功するらしいんですよ。だから現状に不満じゃなくて不安ですよね。そういう人の方が長続きするんですよね。
乃紫 自分を俯瞰してみた時に、リスナーとしてどれだけ乃紫っていうアーティストにずっと興味が持てるかなみたいな……興味を持たれないことが前提だと思っているので、その中で見てもらう工夫しないとテーブルから落ちちゃうって。みんなは「そんなことないよ」って言うんですけど。
本間 もう時代が違うからフィジカル(CD)は全然出るわけないし。ワンフレーズ聴いただけでわかる曲をいくつも持っていても実体がどれだけ伝わってるかって、アーティストのみなさんすごい不安だと思うんだよね。だからあの手この手で生き残りというか、認知度アップを考える。でも乃紫さんは、ベースとして音楽的なところでの認知度アップを考えてらっしゃる。今の話を聞いてると音楽への興味があるのが、これからの世代で一番大事なことだと思うんです。
乃紫 音楽を突き詰めようとしてますね。
本間 思い続けてないと実現しないんですよね。昔から冷静に、都度いろいろ考え方をバージョンアップしていってるじゃないですか。「やってみたらこうだった」「これがうけたけど次こうしよう」って変わっていって。注目された後にさらに追い打ちをかける楽曲を生みだせるっていうところが、底力があると思う。
乃紫 私的には「全方向美少女」があったから、その余熱というか。
本間 でもそれだけではこれは生まれないと思いますよ。「これ、本当に自分で?」って思ってたの(笑)。
乃紫 考え直しすぎるとよくないというか、ミックスとかはエンジニアさんにお願いするんですけど、上がってきた最初に聴いた印象でフィードバック返すようにしてて。ずっと聴いてるとよく聴こえてくるんですよね。
本間 デモとかもね、聴き込みすぎるとわかんなくなってきますよね。
乃紫 そうですね。これでいいんじゃないかって。でも世の中のほとんどの人は1回しか聴かないので、1回目でいいと思わないと。
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