2024.05.19 12:00
2024.05.19 12:00
喪失があらわにするのは、人間の本性か、または時の残酷さか、それとも愛の深さか。
𠮷田恵輔監督の最新作『ミッシング』が5月17日に公開を迎えた。幼い娘が失踪し、心が壊れていく主人公の沙織里。今まで誰も見たことがない姿を曝け出す石原さとみを支え、共に闘った青木崇高もまた「今だからできた表現だった」と沙織里の夫・豊役を振り返る。
石原と同じく、𠮷田組には初参加。自身も親となり、覚悟をもって臨んだ現場で青木が感じたこととは。本作が映し出す現代社会の姿は、現実以上のリアルを観る者の心に焼き付ける。
優先すべき感情は現場にあった
──𠮷田恵輔監督とご一緒に仕事されるのは初めてですよね。
はい。何年か前に釜山国際映画祭でご挨拶させてもらって、一緒にお酒を飲んだんですけど、お仕事は今回が初めてです。もちろん作品はいろいろと拝見していて、本当に素晴らしい作家性をお持ちの監督だなと思っていました。お話をいただけたのは素直に嬉しかったです。
──元々、監督の作品に対してどういったイメージをお持ちでしたか?
皆さんおっしゃってると思いますが、主役であろうが、通行人であろうが、その人生を深く感じられるような演出を付けているように感じられました。現場での撮影時間や期間を考えると、そこまで演出に時間をかけるのはなかなか難しいんですけど、しっかり一人一人と場を共有している。関わるみんなと共有して一つの方向を向いているというところが𠮷田組の独特の雰囲気でしたし、それはとても気持ちよかったです。だからこそ心の奥にグッと突き刺さるような作品が撮れるのかなとも思いましたね。
──“気持ちよかった”という感覚は撮影のときに感じられていたんですか。それとも完成作をご覧になってから?
撮影の時ですね。現場の空気がとてもいいんですよね。こういうテーマの映画だと役者の感情を追い込んだりと、そういった演出をとられる人もいらっしゃったりしますけど、役者のことを信じてくれてる部分があるんじゃないですかね。大変なシーンだからこそなるべくリラックスした状態で向き合えるような、本番前にスッと自分に取り込んでいけるような状況を作ってもらえました。
──辛い心情を抱えた役を演じるにあたって、役作りはどのように?
今回においては、正解はほぼ現場にあると感じましたね。優先すべき感情は現場にあって、石原さん演じる沙織里という核に対して豊としての座標をどこに置くかっていうことを考えてました。きっとそれがこの家の中でのバランスでもあるので。石原さん自身も本当にこの作品に向き合うことはとんでもなく大変だったと思いますし、その大変さを共演者として一緒に作っていくという感覚が、もしかしたら沙織里に対してそばにいる豊という感覚とどこか共通するものがあると思ったので、その感覚を大切にしました。
──豊がいなかったらどうなったんだろうとゾッとするぐらいで。ある意味独特の中立性を持ったキャラクターでもあったと思います。
家庭内でのポジショニングはそれぞれであると思うんですよね。だから、豊がいなかったら……という考えもあるけれど、逆を言えば豊も沙織里がいないと、っていうのもあると思うんです。喧嘩などがありながらも、その家庭における独特のバランスは取れてるわけなので。(娘の)美羽がいなくなったことでそのバランスが壊れてしまうんですけど、その崩れ方が𠮷田監督の表現の世界の中には第三者が見てもヒリヒリするようなところがあって、ご家庭がある方もそうでない方にも、感情のどこかに強く引っかかる仕掛けを作るのが巧みだなと思いました。
──中盤の涙を落とすシーンは、人前でなかなか本心を出さない豊には中立性・客観性があって、自分まで倒れてしまったら……みたいな感情があってのことなのかなって。
結果としてそれはあると思います。「よく冷静でいられるわね」と豊が何も考えてないような感じで言われますが、全然そんな訳ではなく、「そんな感情でいても何も解決にはつながらないでしょ」って冷静になだめるという“立場”なんですよね。豊が誰かに慰められるっていう状況はないですけど、豊としても深くショックを受けていますし、なるべく沙織里の笑顔が戻ってきてほしいとはずっと思っているわけで。そんな状況がずっと続いている中で、ふとかつての自分たちのような、子供と歩いている人を見たらほろっと来てしまうことはあると思いますし、そういうところを台本に差し込むっていう監督の視点の凄さも感じました。僕もあのシーンを台本で見て、本当にウルウルきました。
──いろんな感情を爆発させる沙織里と、基本的に口数少ない豊の対比で、豊の無言がゆえの有弁さがすごく伝わってくる演技でした。
それは沙織里のアクションに対してのリアクションで、できる限り沙織里の気持ちに寄り添うっていうこと以上でも以下でもないんですよ。
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