本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第13回 矢作萌夏
矢作萌夏に見るハングリー精神、活き続けるアーティスト特有の“嫉妬心”とは
2023.11.24 19:00
2023.11.24 19:00
最新を知りながら昔の研究も必要(本間)
本間 アーティスト生活を過ごしていく上で大切にしている場所や時間はありますか?
矢作 自分に向き合う時間をめちゃめちゃ作るように努力することかもしれないですね。前までは家にひとりでいることがよくないと思ってて、“矢作萌夏”をキャーキャー言ってくれる、例えば女子会に行ってみたりとか、普段会わない友達と会ってみたりして。それで教養が深まると思ってた部分があったんですけど、意味がない時間だったというか、曲に活かせられてないというか。ますます自分が曇っちゃう出来事が多かったので、最近は超仲良い友達としか遊ばないとか、ひとりで映画を観に行ったり、ドライブしたり、超普通なことだけど自分をすごい愛してあげる時間を作るようにしてます。そうしたら、だんだん自分とも素直に向き合うことができるようになってきたなと思います。
本間 どのアーティストに聞いても、風景を見て作詞って本当につらいんですって。
矢作 え、なんでですか?
本間 絞り出さなきゃいけないからって。日々「ドライブして楽しいな」だけじゃなくて、なんか気になるものがないか、常に何かを探してるんですよね。僕なんかはレストラン行って食事してても、流れてる音楽が気になるとShazamをしちゃう。
矢作 わかります! 私も昨日それやった(笑)。
本間 我々って常に音に敏感である必要があるからね。最新のサウンドも知りながら昔の音楽も研究するというのも両方必要で。歌詞を書く上では昔の人がどういう言葉を使っていたのか、国語の授業と同じような感じで知っていくこと。日本作詩大賞というのがあるんだけど、そこで使われる漢字は“詞”ではなくて“詩”なのね。そういうところをちょっと忘れかけられているような昨今だし、サウンドとかインパクトとか、TikTokの15秒とかも大事だけど、1曲を通して伝えるということが矢作さんの声はできそうな気がするんですよ。
矢作 本当ですか! うれしい……。
本間 今作の7曲を聴いて4曲目の「ピーターパン」が特に魅力的でした。スペースがあって、声が前にすごく出てくる感じ。あと言葉がわかる。他の曲も作った経緯とかいろいろあると思うけど、シンプルなのが魅力的でした。
矢作 めちゃくちゃありがたいです。
本間 レコーディングでアレンジを進めていく上で、自分で決めてる順番はありますか?
矢作 最初は家で宅録して、Logic使って音源作って。ちょっと編曲してるのもあれば、メロディとコードと歌だけのもあります。ガチの編曲はできないんですけど、きちんとイメージを伝えたくて。
本間 すごいですね!
矢作 いや全然! 超完成度低いんで(笑)。それをスタッフみんなと共有して。プリプロは宗本(康兵)さんをお呼びして「この曲どう?」という感じで決めて、そこから形にしていきました。宗本さんと話し合って決めたアレンジもあるけど、1曲目の「Shake it」は私が最初にアレンジしたものに色づけしてくれました。「こうじゃね? こうじゃね?」と相談してやっていったらできました(笑)。
本間 素晴らしい! みんな矢作さんがそこまでやってると思ってないですから。それは良くも悪くもAKB48でセンターやってたこともあるし。そこを無理して払拭する必要はないけども、わかる人には伝わるし、メディアで語ればすぐ広がるから。メッセージ性をどう持たせるかが大事かもしれないですね。どの世代の女の子に好かれたいのか、男性に好かれたいのか、年下に好かれたいのか。いろいろあると思うけど。基本的に今やっているのは自分語り?
矢作 そうですね。曲作りは自分語りがほとんどで。大衆向けというか、聴いてる人が自分に当てはめて聴けるような形に変えました!
本間 メジャーでやる上ではセールスが大切なので、いろんな人に共感を持ってもらうというのは必要だけど、無理して共感してもらうのも違う。自分語りでいくならば、自分の中の何をテーマにするのか、ポイントをついて書いていけば共感する女子はいっぱいいると思うんです。出してみたら「こういう曲が人気なんだ」ってデータが入ってきますし。ライブだったら「こういう曲だと盛り上がってくれるんだ」とかね。僕はギターでできる曲はギター一本でやってみるのもいいと思います。ギターでもピアノでもいいけど、弾き語りに勝るものはないんですよね。
矢作 なるほど……。
本間 矢作さんは自信を持っていいと思う。もうアイドルの歌じゃなかったから。自分の声と自分にしかわからない表現があるじゃないですか。どうしても気になるところだけピッチを直すとかすれば、一番響くんじゃないですかね。
矢作 自分で勉強してたとき、メロディラインとか全部直したくなっちゃうんですよ。だから全部直すことしか知らなかったから、逆に今回ナチュラルがいいっていうのを初めて知りました。
本間 この間、槇原敬之と話してね、「ピッチ直しというのはうまい歌をもっとうまくするためなんだ。まずはうまく歌えなきゃいけない。」って。
矢作 おー! すごい。(拍手)
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