2023.11.08 17:30
「AIMYON TOUR 2023 -マジカル・バスルーム- Additional Show」2023年10月31日 東京ガーデンシアター公演より(撮影:永峰拓也)
2023.11.08 17:30
最新曲を導いたのは観客の盛大なコール
「皐月」「ミニスカートとハイライト」と全身を揺らしながらハンドマイクで爽やかにポップソングを歌唱すると、夕焼けのイメージを与えるミドルナンバー「ハルノヒ」をきっかけに、内省的な「二人だけの国」と少しずつ会場を夜のムードに包んでいく。そしてその温度を保ったまま、MCでコロナ禍でのライブ活動を振り返った。「みんながここにいてくれることは、酸素がここにあるということで。みんなのいろんな表情を見られることがわたしにとってのライブやと思っています」と話すとコロナ禍での楽曲制作に触れ、「この3年間でシンガーソングライターとして新しい道が切り開けた」「次に歌う曲も、自分の音楽人生において特別でありつづける曲になると思う」と語り、「裸の心」を披露した。
この曲がデジタルリリースされたのは2020年5月。コロナ禍で最も世の中が「この先どうなっていくんだろう」と不安に包まれていた時期だった。当時この楽曲によって心が和らいだという人も多いだろう。願いや感謝の気持ちを込め、一言一言を優しく撫でるような歌声が会場を満たした。その後も弾き語りで幕を開けた「風のささやき」、柔らかいアコギのアルペジオが舞う「ポプリの葉」、ミステリアスなムードが刺激的な「強くなっちゃったんだ、ブルー」など、ミニマムな空間を描く。それはひとりで湯船に浸かっているときの、熱に包まれながら様々な思考がとめどなく巻き起こるひとりの時間に似ていた。彼女の歌を通して自分の心の中を覗き込むような感覚に陥る。
バンドメンバーのソロ回しが楽曲のエモーションをより引き立てた「ペルソナの記憶」の後、「お風呂ですから、もっと会場の温度を上げていきたいと思っています」と言い、クラップの練習からそのまま「彼氏有無」や「マシマロ」など軽やかに心地よいメロディをテンション高く繰り出す。「夢追いベンガル」をパンクバンドばりにエネルギッシュに、「マリーゴールド」を包容力たっぷりに届けると、ワルツのリズムに乗せて「愛の花」を壮大に彩った。様々なタイプの楽曲が次々と舞い込むことで、たちまち心は安らぎ澄み渡る。彼女がいつも自分の心に湧き上がる切ない感情から目を離さず、かつ自然と上を向ける音楽を作り続けてきたのだと痛感した。そして目をそらさず、聴き手をまっすぐ見つめるような歌声があるからこそ、彼女のメロディも詞世界も輝くのだ。
「みんなの声が聴けるのは、この3年間頑張ってきた自分へのご褒美やと思う」というあいみょんの言葉に、観客は「君はロックを聴かない」でその思いに応えるように誠実な歌声を響かせる。「姿」は自分自身が歌詞中の“君”と錯覚してしまうほど、彼女に語り掛けられているような臨場感をおぼえた。「いちばん新しい新曲をやって終わりたいと思います。みんなのタイトルコールで曲にいきたいです」と話すと、観客による盛大な「ノット・オーケー」の声で同曲を歌唱し始める。未来はどうなるのかわからないし、歌詞の通り《ダメに成る時は成るでしょう》。そんな現実をこわごわと受け入れながら《せめてそれまでは》と願い、歩みを進めていく。そんな彼女の人生観も反映された同曲は、陽だまりのようなわびさびとぬくもりに満ちていた。
この日は新旧様々な楽曲が披露されたが、なかでもコロナ禍にリリースされた楽曲が彼女のライブに新しい趣をもたらしているところも印象に残った。コロナ禍で楽曲制作を続けてこれたのは、観客の表情を見ながら歌える日を、会話のキャッチボールを楽しむことを夢見てきたことが一因であるように思う。この日ずっと彼女の表情が柔らかかったのは、あの日求めていた景色がそこにあったからかもしれない。3年越しの思いを叶えた全国ツアー「マジカル・バスルーム」。あいみょんと観客の間に生まれた愛を丁寧にあたためていくような、健やかな時間だった。
セットリスト
あいみょん「AIMYON TOUR 2023 -マジカル・バスルーム- Additional Show」
2023年10月31日 東京ガーデンシアター セットリスト
01. 貴方解剖純愛歌~死ね~
02. ふたりの世界
03. 初恋が泣いている
04. 愛を伝えたいだとか
05. ら、のはなし
06. 3636
07. 空の青さを知る人よ
08. 皐月
09. ミニスカートとハイライト
10. ハルノヒ
11. 二人だけの国
12. 裸の心
13. 風のささやき
14. ポプリの葉
15. 強くなっちゃったんだ、ブルー
16. ペルソナの記憶
17. 彼氏有無
18. マシマロ
19. 夢追いベンガル
20. マリーゴールド
21. 愛の花
22. 君はロックを聴かない
23. GOOD NIGHT BABY
24. 姿
25. ノット・オーケー