2023.10.27 17:30
2023.10.27 17:30
学生の頃は社会への怒りがエネルギーだった
──芋生さんは、トワや園子みたいに世の中からちょっとズレている感覚というのはわかりますか。
芋生 ズレているという感覚は自分にもあると思います。ただ、幸いなことに私には役者という仕事があるんですよね。お芝居をしていると、生きている感覚が湧いてくるというか、自分は生きていてもいいんだと思わせてくれる。好きなことができているという意味では、私はまだ救いがある方かもしれません。
倉 そっか。僕はお芝居をしている時間よりも、こうやって作品が出来上がって、お客さんが温かな表情で見守ってくれているのを見るのが好きで。表現するということに対して、まだ大それた考えが自分にはないから、芋生さんがすごいなと思う。
芋生 そうなんですね。今回、倉さんとのお芝居が本当に楽しくて。いい意味でお芝居をしている感じがしなかったというか。ただナチュラルに会話をしていただけという感じだったから、あれは結構私の中でも不思議な感覚でした。
倉 その場を生きるみたいなね。
芋生 いい芝居をしようみたいな肩に力が入った感じがまったくなくて。
倉 台詞も言いたくなったら言うみたいな感じでした。現場にいたときも、わりと今と同じような空気感で、そのまま地続きで役に入っていけて。本当、カメラが回ってるか回ってないか、くらいの違いしかなかった。きっと芋生さんとだからその場を生きられた気がします。
──怒りや悲しみが創作の糧になっていたというお話でしたが、学生の頃は特にどんなことに怒りを感じていましたか。
芋生 私、夢がずっとなかったんです。それがもどかしくて。
倉 同じです。僕も全然やりたいことがなかった。
芋生 あとは、特に学生の頃って、理由なんてわからないですけど、社会に対して漠然とした怒りを抱えていたと思うんですね。それをエネルギーにして生きていたところはありました。
倉 僕は、自分はこのまま何者でもないまま終わっていくんだなって、ぼんやり思っていました。本当、目標とか全然なくて。早く就職して、幸せな家庭をつくって、あとはゆっくり生きていけたらなくらいしか未来のイメージがなかったです。
──劇中、2人も歌を歌う場面がありますよね。あそこなんて、ほのぼのとした曲調は対照的に、歌詞には怒りがぶちまけられているようでした。
芋生 園子もトワも素直な気持ちをそのまま文字にして並べて。だから歌っているというより、ポエトリー的な感じがしました。しかも、トワの誕生日のプレゼントとしてあの歌を歌うところが園子らしいというか。誕生日だから、明るい歌や、幸せを願う歌を贈るわけではなく、そのときの園子の素直な気持ちを言葉にして届けたかった。そして、それが結果的にトワへのラブソングになっているというところが、私はすごく好きでした。
倉 僕も園子の歌のシーンはめちゃくちゃ好きです。きっとあの詩は脚本の高田(亮)さんが思っていることをそのまま書き連ねたもので、それに音楽のモリコネンさんが曲をつけてくれて。すごく辛辣なことを言ってるのに、ノリはイエーイって感じで、そのギャップが面白いというか、一種の化学反応みたいでした。
──歌のシーンに入るときはいかがでしたか。
芋生 2人とも緊張していました(笑)。
倉 最初、ちょっと声震えてたもんね(笑)。撮影も一発撮りだったから、声の震えもそのまま使われてて。
芋生 最初はすごく緊張したんですけど、これはトワに届けるための歌だと思って。で、トワを見たら、トワがすごくにこやかに聴いてくれていたんですよ。その顔を見て安心したというか、トワに届けるという気持ちがあれば大丈夫だって心が楽になりました。
倉 それ、すごくわかります。たくさん人はいるし、キーボードも初めてだし、やべえって感じで。自分の手元を見てると、すごい緊張するんですよ。でも、顔を上げて、みんなの方を見たら、すごく温かい顔をしていて。この映画を観終わったあと、お客さんもこんな顔をしていたらいいなって、そう思ったのをよく覚えています。
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