関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ！ 第16回
もし自分だったらと考えるだけで怖い、エンディングのハードさが随一の『オールド・ボーイ』
2023.09.18 12:00
2023.09.18 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ！』。第16回は2003年に日本公開された『オールド・ボーイ』。
主人公のオ・デスは、何の変哲もない男だった。強いて言えば酒癖が悪く、口の軽い男ではあるがそんな彼がある日突然誘拐される。そして何の理由も聞かされずに監禁されて15年、何の前触れもなく解放された。自分が誘拐・監禁された意味がわからない彼は、その理由を解き明かすために情報を集め出す。しかし、すべての謎が明かされた時、それは彼の想像を絶するものだった──。鬱映画としても名高く、パク・チャヌク監督が世界的に評価され有名になったきっかけの作品。そんな本作の恐ろしさを関根勤が語る。
第16回『オールド・ボーイ』
この映画、僕は“逆ショーシャンク”って呼んでいるんです（笑）。『ショーシャンクの空に』は脱出して最高に良い気持ちになるけど、『オールド・ボーイ』は逆だから。本作の後味は何年経っても残りますね。
断片的に忘れている部分があったので、この前久々にまた『オールド・ボーイ』を観たんです。改めて観ると、本当に編集が上手い映画ですね。多分、韓国映画史上一番嫌な話なんじゃないですか？ とにかく主人公が脱出した後からの演出と謎解きが巧妙です。「なんで15年捕まったのか」ではなくて「なぜ15年で出れたんだ」ってところがね。あと、あの廊下のアクションシーンも印象的ですね。
最初に観た時のことは、今でも覚えています。映画館で公開時に評判を聞いて観に行きましたが、気持ち悪くてね。ドキドキしながら観ていました。「ああ、こういうオチかあ……」って、全然読めなかったですね。本作は日本の漫画を実写化した作品だということで、原作を読んだんですよ。でも、結末が映画と全然違うんです。うろ覚えですが、漫画だと確かコーラスをしていた時にバカにして主人公が笑ったんです。それで、「俺に恥をかかせた」ってことで誘拐・監禁される。本当、それだけの理由なんですよ。最終的にはちゃんと説明があって、主人公側も「それは悪かったな」ってなるソフトなエンディングだった印象があります。しかし、映画版は誘拐・監禁された理由も含め、もっとハードなエンディングでしたね（笑）。主演のチェ・ミンスクの演技がうまいんです。冒頭で警察署にいるシーンで、すでに口の軽い嫌なやつとしてちゃんと描かれているのもすごい。僕、この映画よりハードなエンディングは観たことないと思います。たまったものじゃないですよ、結婚して娘のいる身としては。本当に。
しかし、映画としては最初からのめりこんでしまう。一切の無駄がないんです。やはり、良い映画って隙がない。シーンを含め「あそこいらないな」とか、「あそこまでの道のり長いな」とか、「俺が編集したいな」って観ていて思わせる部分が全くありません。余談にはなりますが、スティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスはクランクインの前に『七人の侍』を必ず観るんですって。あれを観て「よし、こういう映画を撮るぞ！ これに負けないものを撮るぞ！」って気合い入れるんです。
『オールド・ボーイ』はやはりストーリーと演出、それから演者が素晴らしかった。日本の漫画をどう土台すれば、あれだけ見事に気持ちの悪い話になるのか。脚本と演出とキャスト、この3つが欠けずにすべて良かったからこその成功作です。本作の鬱さ、酷さに匹敵する映画があるとしたら、『ミッドナイト・エクスプレス』（1978年）ですね。若いアメリカ人がトルコを旅行中に麻薬不法所持で捕まってしまう。普通なら身柄がすぐアメリカに渡されるはずなのに、そういう事件が多すぎてトルコ側が彼を監禁しちゃうんです。だからアメリカ大使館の人が行ってもトルコ側が見せしめとして一切彼を出さない。そしてそのトルコの刑務所で本当に酷い目に遭うんです。もう嫌な映画でねえ、耐えられないですよ。ただ、本当にあった話なんです。でも『オールド・ボーイ』は結末がもっと酷いかな。
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