幻のミュージシャンをめぐる青春映画『PLASTIC』が公開中
宮崎大祐×小川あん、音楽に心酔する監督と役者が振り返る“奇跡の瞬間”
2023.07.27 17:00
2023.07.27 17:00
その瞬間にしか映らないノイズが大事
──劇中のジュンのギターの音録りにも並々ならぬこだわりを感じました。
宮崎 グラムロックの映画なんですけど、ジャパニーズサイケも好きなので、サイケの灰野敬二のような感じにしようってスタジオで井手さんと話してて。いろんな音色に変えられたので、歪んでいないバージョンとかも作ったんですけど、最終的にはみんなで話し合ってあの音になりました。仕上がりはすごく満足しています。
──(藤江琢磨演じる)ジュンが天文部でギターを弾くシーンが印象深いのですが、どのように演技を膨らませていったんですか?
宮崎 全部ワンカットで行こうと思ったんですけど、直前に『エルヴィス』を2回観て、劇中にあった足踏みを反映させたいなと思っていて。当日やってみたら面白かったので、足踏みの寄りから入ることにしました。あと、決めどころで後ろ姿使いたいっていうのもあって、カメラはちょっとフィックスだと飽きるかもしれないし、彼がギターを切ってアンプのスイッチを押してフレームアウトするところまで撮りたかったので移動しながら撮ることになって……。部室の倉庫の黄色いカーテンは最初からついていて、それも生かしたいと思ったのでああいう演出になりました。確か2テイクしたのかな? 最初の編集だと普通のMVっぽい編集になってたんですけど、そこはどうしても長回しにして欲しいって戻してもらったりして、音の固まり感とか空間とか時間の塊感みたいなのがガーッと押し寄せてくる感じにしたかったです。
──だいぶ肉感的なシーンだったと思います。小川さんはこの映画で印象深いシーンはありますか?
小川 私は基本的に歌が苦手なので、ずっと歌のシーンは苦労してました。だからこそ藤江くんがギター弾いてたりとか、エクスネ・ケディが登場したシーンは本当に心の底から興奮しました。音が流れるだけでも上がっちゃうタイプだから、生で観れたことが本当に嬉しかったです。
──1年ごとに時間軸がポンポン飛んでいくけれど、間を補完するキャラクターの深いところはあえて語らず、みたいなところで、このような手法を取られた意図はありますか?
宮崎 コロナ禍に入って実感として時間が引き伸ばされている気がして。昨日と今日が繋がってる感じがしないし、今日と明日が繋がってる感じがしない。人とも会わないし、ずっと部屋いるみたいな時間の感覚があったので、それを映画で表現したいなと思いました。「昨日あれ本当にやったっけ?」とか「こんな予定あったっけ?」みたいな不確かさみたいなのが、後半にいくにつれて増えていくようにしたくて。どうやら繋がっているようだけど、あまり自信はないみたいな状態を映画の構造としてやろうとしました。
──1年ごとに経過して行くなかで「色々あったんだろうな」っていうイブキの表情の演じ分けも楽しく見れたんですが、小川さんはどのように想いを込めて演じられたんですか?
小川 間隔は空いているけど説明をあまりせず、二人の関係性とコロナとかそういう要素だけなので、そこに女性の変化みたいなものを付けるか付けないか、最初のイブキのイメージのまま引っ張っていくのか、東京出たのはイブキだけなのでその変化が必要かとか考えました。あとは現場撮影中に宮崎さんがチョイスした場所に対するイブキの反応があったので、結果的にああいった変化が出せたのかなと思います。私1人だったらガチガチになりすぎて、変化に意識しすぎてしまったと思うんですけど、宮崎さんの場所のチョイスがあったからそれに反応したかたちになったと思います。
宮崎 自分の映画はロケ地が大事で、そこを記録するみたいなのも映画の大きな役割と思っています。その時そこで何があったかっていうのは、渋谷にしろ、名古屋にしろ、後ろを歩いている人とかもすごく大事な要素で。排除して全部エキストラにするっていう映画の作り方もあるんですけど、その瞬間にしか映らないノイズみたいなものを映画に定着させるっていうのが割と好きな手法で、それがドキュメントっぽく映っているのかもしれないです。
──キャラクター同士の関係はふんわり描きつつも、胸に迫ってくるような、言い知れぬザワザワ感も感じました。そういう意図だったんですね。
宮崎 ロケ地に行って起きたこととかも取り入れようとしますね。わかりやすく変化させてもいいんですけど、場所に行ってどう反応するかとか、現場で雨が降ったとしても、絵としては繋がってないかもしれないけど、そこに立ち会い続けているような映画作りに最近ハマっています。以前は自分の世界を作るために全部クリーンにするのが好きだったんですけど、最近はクリーンにするんだったら家でアニメを作ればいいと思っちゃいますね。
小川 えー!(笑)
宮崎 極端に言うとね(笑)。主人公がノイズを奏でる青年だったこともありますけど、だったら予期せぬ要素を入れたいって思いました。
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