“生きる道”を言葉とスタイルで届けたZepp Shinjuku公演
水曜日のカンパネラ・詩羽が高らかに宣言した人間愛、肯定する強さで到達した次の目的地
2023.07.22 18:00
水曜日のカンパネラ 2023年7月19日「RABBIT STAR ★ TOUR」Zepp Shinjuku公演より(写真・横山マサト)
2023.07.22 18:00
水曜日のカンパネラのワンマンライブツアー「RABBIT STAR ☆ TOUR」が7月19日水曜日、Zepp Shinjukuでファイナルを迎えた。詩羽が初代のコムアイから引き継いで2代目主演・歌唱担当となってから1年10ヵ月。新たなフェーズを迎えた水曜日のカンパネラのスタイルとメッセージが確立されたといっていい、とても完成度の高いライブだった。
今回のツアーでガイド役を務めてきた「シャトル青木ラビット」のカウントダウンとともに、フロアを埋め尽くしたオーディエンスを乗せたロケットが宇宙に飛び立つ。そしてステージがライトで照らされると、そこには赤い衣装を着た詩羽の姿が。そんな印象的な演出とともにスタートしたライブは、1曲目を飾った「赤ずきん」から一気にオーディエンスを自分たちの世界に引き摺り込んでいく。「赤ずきん」ではおばあさんのふりをしたオオカミが登場して詩羽と一緒にダンスを披露。オオカミがかぶっている布団を裏返すと、そこには黒ガムテープで「ファイナル」と書かれている。続く「アリス」ではアタック感の強いビートが気分を高揚させるなか、ブレイク部では詩羽が手拍子を煽ってさらに盛り上げる。もちろん老若男女(キッズもたくさん!)が集ったフロアは大騒ぎだ。
そして3曲目に披露されたのは「シャクシャイン」。イントロが鳴り出した瞬間、大きな歓声が上がる。この曲はもちろん、「ディアブロ」、「アラジン」、「一休さん」などなど、この日のライブでは当然ながらコムアイ時代の楽曲も多数パフォーマンスされたわけだが、そのどれもがしっかりと詩羽のキャラクターやパーソナリティを体現するものになっているのには驚いた。この2年弱のあいだ、水曜日のカンパネラとして表現をしてきた時間が血肉化しているということが、ステージでの佇まいからも伝わってきたのだ。それはもちろん新しい曲であればさらに強靭なものになる。
スクリーンに『エヴァンゲリオン』みたいな極太明朝体で歌詞が映し出されるなか(と思ったのはこの日会場に着く直前に近くのシネシティ広場を通って、翌日からの公開に向けて設置作業が行われていたエヴァ初号機の巨大オブジェを見たからだ)、オーディエンスと一緒に手を振り、叩き、Zepp Shinjukuをひとつにしてみせた「バッキンガム」。段ボールで作られた車が登場して盛り上げた「シャドウ」。ハイライトを次々と更新しながらライブは進んでいく。そしてその「シャドウ」が終わると、その段ボールの車ともども、詩羽がフロアに降りた。
お客さんをかき分けて、フロアの真ん中に置かれた脚立に登った詩羽。「モヤイ」を歌いながらお客さんのスマホを受け取って自撮りをしたりしている。それを取り囲んで手を挙げて喜ぶオーディエンス。ある意味宗教的ともいえるような求心力を、その中心で視線を一心に浴びながら脚立の上でペットボトルの水を飲んで「んーまっ!」と一息ついた彼女が話し始める。「どうですか、詩羽は?」という問いに「かわいいー!」と応えるオーディエンス。「かわ?」「いー!」というコールアンドレスポンスまでやって「そうなんですよ、かわいいんですよ!」と胸を張る詩羽。それこそが彼女が今立っている場所から伝えようとしているテーマなのだ。「ステージの上で自分で自分ことを認めることで、みんながそういうのありなんだなって少しでも思ってもらいたい」。それを表現するために、現在水曜日のカンパネラではライブ前にスタッフもまじえて円陣を組んでこんなコールをしているという。
「みんなかわいい! みんな天才! みんな最高!」
文字通り最高のフレーズだ。そのコールを会場に集まった全員でやろう、と詩羽はみんなに呼びかける。「心の中にいるギャルを起こしてください!」という号令とともにZepp Shinjukuにいる全員で叫ぶ「かわいい! 天才! 最高!」という言葉が、個性を大事にしながら自分だけのやり方で水曜日のカンパネラを前に進める詩羽からのメッセージとなり、その場にいるみんなの心を持ち上げる。そして始まった「鍋奉行」。飴をまきながらフロアを練り歩く彼女にスマホを向けたり手を振ったりしているお客さんは誰もが笑顔だ。その後「ティンカーベル」を終えるとステージに戻った彼女。今度は宇宙船みたいなメタリックなやぐらに乗って「織姫」へ。1年会わないあいだにすっかりギャルになった織姫の姿を見た彦星の心情たるや推し量るにあまりあるが、きっと織姫も自分を信じて、自分を肯定して生きる道を見つけたのだろう。
次のページ