2023.07.04 18:00
音楽はもちろん、動画配信や画家としての活動など、独自のスタンスであらゆる表現活動を展開している小林私が、6月28日、3作目となるアルバム『象形に裁つ』をリリースした。今作はキングレコード内の新レーベル「HEROIC LINE」に移籍しての第1作。じつはこのレーベル移籍の裏側にはいろいろな事情や経緯があったそうで、環境を一新してリリースされる新作は、とてもストレートに小林私という人の姿を伝える1作となったように思う。
『象形に裁つ』という不思議なタイトルにはどんな意味合いが込められているのか、そしてときにディープな内面性を伺わせる楽曲で彼は何を考え、何を記録したのか。じっくり話を聞くうちに、話題は楽曲の内容から小林私の「幸福論」へと進んでいった。
曲を書くのにお金になるならないは関係ない
──今年レーベルを移籍されて。春には個展を開いたりもして、忙しそうだなあと思っていたんですが。
小林 そうですね。こんなはずではという(笑)。もっと暇な職業だと思ってたら、あれよあれよと……。
──配信やエッセイで移籍に至った経緯を明かしていましたよね。結構大変な状況だったようですが、環境が変わったことで何か変化はありました?
小林 一人暮らしを始めてちょうど1年ぐらい経ったんですけど……「楽器可」の物件なんですけど、僕にだけやたら厳しくて、全然音出しができないっていうのはありますけど。僕の隣に住んでいるおじさんの部屋からは夜中にエレキギターの音とか聞こえてくるんですけどね。僕だけ9時までっていうお達しが出ていて。なんか目をつけられているんですよね。
──大変ですね(笑)。でもいろいろ大変な中でもちゃんと活動を続けてきたじゃないですか。それはどうだったんですか?
小林 まあ、音楽で食っていこうっていう意思はもともとまったくないんで。曲書くのは別にお金になるならないとか関係なく趣味でずっとやってたことだったんで、そこはあんまり関わりなかったというか。ずっと実家に居座ってたのもあったんで、一応活動自体はできてましたね。
──小林さんの場合、そういう自分を取り巻く状況だとか、環境だとか、そういうものが創作に影響する部分ってありますか?
小林 バタバタしてると曲書けない、単純に暇がないと書けないんで、引き継ぎとかそういうのも含めてバタバタするとなかなか制作に取り掛かれないなとは思いますね。
──曲とか、歌詞とかに心情が反映されてるなと思うことはあります?
小林 「目下II」はもう金欠の歌なんで、今は読み返しても「こいつすごい金ないな」って思いますね(笑)。
──状況は音楽にあんまり関係ないっておっしゃってましたけど……。
小林 とはいえ状況はあるんでね。あの曲は結構色濃く「金がない」っていう曲だと思いますね。でもそういうのは書いている時に思うというより、後から読み返してみて「出てるな」って思うことのほうが多いですね。
──今回、こうやってアルバムにまとめて自分で見返したときに、結構思い出しますか?
小林 それぞれ「こんなこと考えて書いたっけ」とか。結構書いた時のことをすごい覚えてるやつもあれば、わりと僕は書いてた瞬間のことは忘れていくんで、後から客観的に読み返してみてこんなこと考えてたかとか、結構思いますね。
──僕はアルバム聴かせていただいて、それはいろいろな情報を得た上で聴いてるからってのもあるかもしれないですけど、これまでの作品とは違うニュアンスを感じる部分が多かったんですよね。
小林 うん。
──ご自身では、前作、前々作からの変化みたいなところって、どういうふうに感じますか?
小林 単純に曲を作るっていう経験がどんどん積み重なっていってるんで、より小癪だなと思います。小癪なことしてるなと、後から聴き返してみて思ったりしますね。ここで転調、「うわ、小癪だな」って。
──いい言い方をすると「引き出しが増えた」っていう。
小林 そうですね。
──『象形に裁つ』というタイトルについては?
小林 いろいろ候補を出して、その組み合わせで一番「これかな」みたいなやつを出したのかな。その時にハマってる概念だったり単語だったりが基本反映されるんです。『光を投げていた』(前作)のときも光のことをずっと考えてたんで。
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