ヒップホップで社会を生き抜く! 第21回
フジロックにも出演する若手アーティストd4vdのカムアップから学ぶ「とにかくトライする精神」
2023.06.18 17:00
D4vd「Petals to Thorns」
2023.06.18 17:00
ケンドリック・ラマーの楽曲「PRIDE.」もプロデュースし、ソロアーティストとしては「Bad Habit」で大ヒットしたスティーヴ・レイシー。彼のEP『Steve Lacy’s Demo』がiPhoneで制作/ミックスされたのは有名な話である。The Internetのギタリストとしても活躍し、バンドとソロでグラミー賞にノミネートされている彼がiPhoneで制作しているという事実は大きな話題になり、プロフェッショナルな機材がなくても音楽が作れるという希望を若い世代に与えた。
そんななか、iPhoneで音楽を制作しバイラルヒットを生んだ新世代のアーティストがd4vd(デイヴィッド)だ。今年18歳になった彼が昨年リリースした「Romantic Homicide」はTikTokで話題になり、Billboard Hot 100で33位にチャートイン。ビリー・アイリッシュが所属するレーベル「Darkroom」からメジャーデビューも果たした。彼は先月5月11日に日本テレビ系列「DayDay.」に出演し、7月にはFUJIROCK FESTIVAL’23にも出演が決まっており、日本でもその人気が高まっていることがわかる。連載「ヒップホップで社会を生き抜く!」第21回では、d4vdの経歴から学べることを紹介したい。
何に対しても大志を持つ
若くしてトップアーティストと肩を並べるリスナー数を誇っているd4vdだが、クリスチャン家庭で育った彼は15歳まで世の中で流行っているポップスなどを聴いたことがなかったと明かしている。彼はそれまでゴスペルしか音楽を聴いたことがなく、コーラス隊に参加していたことで歌のスキルを獲得したようだ。そんな彼がアーティストになる前に最初に志したのがプロゲーマーである。一見音楽と関係がないように思えるが、彼はプロゲーマーを目指したことがきっかけで音楽制作を始めるようになる。
d4vdがプロを目指したのは全世界で3億人以上のプレイヤーがいる人気ゲーム『Fortnite』。彼はプレイ中のラグを減らすためにゲームのサーバーがあるヴァージニアに引っ越すことを目標に、ゲームのプレイ動画を配信するYouTubeチャンネルを開設したのだ。友人3人と誰が最初に登録者1,000人を超えるか競っていたが、他の2人は早くから諦め、d4vdはTwitterで頻繁に動画を投稿していたため最初に1,000人を達成したという。
彼が音楽への愛に気がついたのも『Fortnite』のおかげとも言える。d4vdの音楽性を語る上で欠かせないインディーロック/インディーポップだが、彼はYouTubeにアップされている『Fortnite』のモンタージュ動画から多くの楽曲を発見し、The Neighborhood、アークティック・モンキーズ、Wallowsなどのバンドのファンになる。そんななか、彼は順調に登録者を増やし、『Fortnite』のプレイ動画で月に10万〜25万円ほどの広告収入を得ていた。しかし既存の楽曲を動画に使用していたため、彼のアカウントにおける収入は激減。お金を稼げなくなり、母親に相談したところ「既存の曲じゃなくて、自分で曲を作って動画で使えばいいのでは?」という提案を受けて、彼は音楽活動を始める。
彼の音楽活動は、本気で戦略的にプロゲーマーを目指していたからこそ広がった世界とも言えるだろう。若くして『Fortnite』でお金を稼ぐという目標を立て、そのゴールに対して自分が毎日すべき細かいKPI(重要業績評価指標)にコミットした結果とも言える。本気で目指す上で、生じた問題を解決するための事業展開としての音楽活動だったのだ。『Fortnite』における大志を抱き、本気で活動していたからこそ気がついた才能だ。
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