ヒップホップで社会を生き抜く! 第17回
ゴリラズの1stシングルをヒットに導いたデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンから学べること
2023.04.22 19:30
Gorillaz
2023.04.22 19:30
一つのきっかけが生んだ成功の連鎖
ラップをレコーディングしたデルはこの楽曲のことを忘れており、リリースされたことも知らなかったようだ。
「近所の人たちに“お前の新曲は最高だな!”って言われて、俺は皆がなんの話をしているのかわからなかった。“ラジオでずっと流れてるぞ! 自分の曲も知らないのか?”って多くの人に言われたけど、何のことかわからなかった。そしたらそのうちの一人が、“ラジオではゴリラが云々って言ってたぞ”と言ったから、“え、あの曲がこんな話題になってるの?”って思った。そこであの曲が話題になっていることを知ったんだ。その後、ジェイミー・ヒューレットによる最高のミュージックビデオがMTVで公開されて、さらに売れたんだ。曲もクールだけど、あのビデオは曲そのものより何倍もクールだよ。
自分が参加した曲が100万枚以上売れて、プラチナ認定されたけど、俺は別人になったわけじゃない。でも印税で今住んでる家を買えたからよかったよ。俺にとってはスターはジェイミー・ヒューレットだよ。彼にとっての成功にもなって嬉しいね」
元々は参加には乗り気ではなかったが、「Clint Eastwood」がきっかけでアンダーグラウンドヒップホップファン以外にも多くのファンを獲得したデル。とデルはどのトラックに参加しても、一聴すればデルだとわかる独特の声とフロウをしており、彼のラップがなければここまでのヒットになっていなかっただろう。彼は「ジェイミー・ヒューレットが好き」という理由だけでこの曲に参加したことにより、アンダーグラウンドシーンだけではなく、100万枚以上のヒットとなり、プラチナ認定もされるようになる。デルのこの事例は、あまり乗り気ではなくても、一つ興味深いことや、良いと思った点があった場合、参加してみることで得るものがあることを物語っている。
また、Phi Life Cypherのオリジナルバージョンと、デルのバージョンを聴き比べてみても面白いだろう。Phi Life Cypherは“上手い”ラップでスキルを見せることに拘っているようにも感じるなか、デルは“曲”としての流れとストーリーが思い浮かぶようなスタイルでラップしている。「Clint Eastwood」のライブでは、今まで数多くのラッパーがゲストとして参加しており、各々が自分のリリックをラップしているが、デルのバージョンを超えるバージョンは出てきていないようにも感じる。その場で30分で「Clint Eastwood」を書いたデルだが、必ずしも時間をかけたものが良いというわけではなく、その場の勢いで作ったものが素晴らしい作品になることもあるという事例でもある。