ヒップホップで社会を生き抜く! 第17回
ゴリラズの1stシングルをヒットに導いたデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンから学べること
2023.04.22 19:30
Gorillaz
2023.04.22 19:30
今年の2月24日に最新アルバム『Cracker Island』をリリースしたGorillaz(ゴリラズ)。1998年にBlurのデーモン・アルバーンと、イラストレーターのジェイミー・ヒューレットによって結成されたバーチャル・バンドだが、世界的に人気プロジェクトとして「最も成功したバーチャルバンド」というギネス記録も保持している。Thundercat、Bad Bunny、Tame Impala、Beckなどが参加した最新アルバム『Cracker Island』は全英1位、アメリカではアルバムチャート3位を獲得。米カリフォルニア州で開催された世界最大級の音楽フェス「Coachella 2023」にも4月14日と21日(※現地時間)に出演し、ゲストにバッド・バニー、ヤシーン・ベイ(モス・デフ)、ベック、サンダーキャット、リトル・シムズなどが参加したステージは大きな話題となった。
そんなゴリラズを、2001年にリリースされた1stシングル「Clint Eastwood」で知った音楽ファンも多いだろう。「Coachella 2023」セットにゲストも出演したカリフォリニア・ベイエリア出身のラッパー、Del The Funky Homosapien(デル・ザ・ファンキー・ホモサピエン ※以下、デル)が参加した「Clint Eastwood」はアメリカとイギリスで100万枚のセールスを超え、ゴリラズというバーチャルバンドを世界に知らしめた曲となった。「ヒップホップで社会を生き抜く!」第17回では、ゴリラズとデルの「Clint Eastwood」の制作秘話を紹介したい。
『Cracker Island』がリリースされた際に、Apple Musicの番組Zane Loweに出演したデーモン・アルバーンは「Clint Eastwood」のビートについて明かしていたことが話題になった。こちらのビートは、日本の鈴木楽器製作所が1981年に発売したオムニコードという電子楽器に内蔵されている演奏デモをサンプリングしている。コードのボタンを押さえながら、指かピックで板を撫でるように演奏をする楽器だが、デーモン・アルバーンはこちらの演奏デモをサンプリングし、ヒップホッププロデューサーのDan The Automatorとビートを制作した。
ヒットを支えたラップパート
また、「Clint Eastwood」のヒットにおいて欠かせないのはデルのラップである。ロサンゼルスのレジェンド、アイス・キューブの従兄弟としても知られている彼は、1991年から活動しているアンダーグラウンドシーンのラッパーであり、「Mistadobalina」などのヒットでファンに支持されていた。「Clint Eastwood」のラッパーとしてデルを知ったファンも多いなか、オリジナル・バージョンではデルではなく、イギリスのPhi Life Cypherというグループがラップをしていた。そのオリジナル・バージョンは2002年にリリースされた『G-Sides』に収録されている。
当初、Phi Life Cypherが担当していたラップパートだが、「Clint Eastwood」のプロデュースを務めていたDan The Automatorは、デルがラップしたほうが曲が改善されると感じていたようだ。当時、2人はアンダーグラウンドヒップホップのクラシック『Deltron 3030』を制作しており、Dan The Automatorは デルにラップをするように頼んだが、デルは「Clint Eastwood」に参加することに興味がなく、乗り気ではなかったのだ。楽曲をあまり気に入っていなかったデルだが、彼は以下のように語っている。
「元々、Dan the Automatorが“Deltron3030”と同時進行でGorillazのアルバムを制作していたんだ。彼がGorillazのコンセプト・アートを見せてくれたんだけど、これが“Tank Girl”というコミックをやっている人(ジェイミー・ヒューレット)のイラストだということに気がついたんだ。“Tank Girl”は俺の好きなコミックだった。俺は正直Gorillazに関して音楽に興味がなく、イラストにしか興味がなかったんだ。
俺が“Clint Eastwood”を聴かせてもらったときには、既に曲が完成していた。他のラッパーたちのラップが既に入っていたんだ。最後にブラッシュアップするタイミングで、俺はたまたまスタジオにいたから、Danに“もっと良いリリック書けるよね?書いてくれない?”と頼まれたんだ。俺は、”自分の役割は終えたし、もう帰りたいからやりたくない”と答えた。そしたら“デルだったら30分ぐらいでできるでしょ?”と言われたから、“しょうがない”って感じでラップを書いたんだ」
Gorillazの音楽自体には興味がなく、イラストレーターのジェイミー・ヒューレットが好きで「Clint Eastwood」に参加したというデル。オリジナルのPhi Life Cypherのアグレッシブなラップとは違い、デルは流れるようなフロウで、これから音楽業界を進んでいくGorillazのメンバーをメンタリングしている。実際にデルがレコーディングした後、Dan The Automatorとデーモン・アルバーンはデルのバージョンのほうが良いと判断したようで、正式にリリースしたのだ。
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