2023.03.20 18:00
2023.03.20 18:00
レコーディング中に成長させてもらった
──声優デビューなさってからキャラクターソングの参加も多いですが、それはバンドでの経験を買われたところも大きかったのでしょうか?
いや、それがわたしも歌にはそれなりの自信があったんですけど、まず最初にマネージャーさんから「音痴だな~!」って言われたんですよ(笑)。
──えっ、そうだったんですか。
自覚はなかったんですけど、独学で歌い続けた結果、クセでがちがちの歌い方になっちゃってたんです。その歌唱法でキャラクターソングを歌ったら、全然はまらなかったんですよね。このクセも自分が今まで一生懸命作り上げてきたものではあるんですけど、1回全部取るためにレッスンを重ねて。キャラクターとして歌う感覚を掴むのにもすごく時間がかかりました。でも自分で歌唱法を突き詰めた経験と、キャラクターソングでの経験の両方があるから見えることもあるし、お芝居をしていると歌が上達していたり、その逆もあるんです。
──様々な表現を追求することで、相乗効果が生まれているんですね。
だから声優デビューから6年経ったタイミングで自分の歌を歌えることはすごく意味があると思っています。ただ、キャラクターを背負わず個人で歌うとなると、制限がなく自由なぶん悩みましたね。自分の歌声ってなんなんだろう……と考えるなかで「光ったコインが示す方」のレコーディングを迎えたんですけど、そのときそれを掴んだ感覚があったんです。高校時代のクセ強めの自分も認めることができると同時に、今の自分だから歌える歌を出せた感覚がありました。「ネオ前田佳織里」というか、殻を破った瞬間だったのかなと思っています。
──「光ったコインが示す方」は前田さんの凛々しさと可愛らしさ、パワフルさがどれもクリアに出た楽曲だと感じました。
出演させていただいているTVアニメ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』のオープニング主題歌でもあるので、明るさや物語が始まる前向きさを大切にしたいと思っていました。同時にわたしにとっての始まりの曲だなと感じていて。《夢を叶えたいんだ》という歌詞は自分事として歌わないと薄っぺらく伝わってしまうなと思ったので、今の自分の出せる全力──レコーディングの後にガス欠で動けなくなるくらい気合いを入れて歌いましたね。レコーディング中に成長させてもらえたんです。
──それが先ほどおっしゃった「掴んだ」という感覚ですか?
そうです。1番、2番と歌うにつれて、どんどん自分的にも漲るものもあったし、レコーディングに同席していたスタッフさんたちもそれを感じてくださったらしくて。2番のサビを録っているときは、自分でも「今まで知らないものが自分の中から出てきた!」という感覚があったんですよね。歌詞に書かれた思いを伝えることを大切に歌いました。
──《不安が襲ってきて弱気が顔を出したら/背中押して欲しいんだ》という歌詞も印象に残りました。精一杯の努力を重ねるだけでなく、「人を頼る」というスタンスが素敵だと感じると同時に意外だったんです。というのも、前田さんはあまり人に弱みを見せないタイプのような気がして。
わ、占い師さんみたい!(笑) 確かにそうで、みんなに心配かけちゃうのが嫌なんですよね。だからそういう面は見せないようにしていたんです。でも去年ぐらいからそういう面も見せてもいいのかな……とだんだん思えるようになってきて、「ここをもうちょっとこうしてくれませんか?」とか「ここがこうなるとやりやすいんですけど」みたいに、相手の負担にならない言い方がちょっとできるようになった気がしていて。一歩大人に近づいたのかなと思っています。
──抱え込みすぎてしまうと、いいパフォーマンスも出せませんしね。
アフレコ現場や収録でもそうなんですけど、無理していたら取り繕ったとしてもやっぱり出てきちゃうし、弱い自分も含めてありのままの自分をまず大切にすることはすごく大事なことで。甘えではないし、未完成な自分を受け入れて、「ここがちょっとうまくできないんですけど、どうしたらいいでしょう?」みたいに人の力を借りながら成長していくのは、全然悪いことじゃないと思うんですよね。
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