「全てを説明するようなタイプの映画は好きじゃない」
邦画に造詣の深い『LAMB/ラム』のヴァルディミール・ヨハンソン監督が次作に向けて想うこと
2023.01.06 18:30
2023.01.06 18:30
もう次回作に取り掛かっている
──いつから映画作りを志したのでしょう? 何かきっかけはあったんですか?
いくつからか覚えていないけど、子供の頃から映画はたくさん観ていましたね。ただ、ある時突然、テレビで映画の裏側……メイキングを映すような番組が始まった。そこで多分、興味を持ったんですよね。僕は200人くらいが住むとても小さい村で育ったので、クラスにも自分と女の子が二人しかいないような感じでした。だから確か24歳くらいの頃かな、レイキャヴィーク(アイスランドの首都)に移ってそこにある映画学校に3ヵ月だけ通いました。監督やシネマフォトグラファーが何をする仕事なのか全然わかっていなかった僕だけど、友達と一緒にどんどん面白いなって思って、映画学校が終わると業界に入って働き始めました。そこで、自分が何かを……映画作りをしたいことに気づけたんです。
──そのテレビ番組ではどんな作品が取り上げられていたんですか?
録画して持っていたはずなんですけどね……覚えているのが映画で活躍する動物調教師のエピソードです。その人は確か蜘蛛を扱っていて、蜘蛛をどんなふうにして歩かせたいところに歩かせるのか説明していた記憶があります。ただ、残念ながらテープを無くしてしまい、もう長いことあの番組を見られていないんです。
──残念ですね……! 映画を作り始める前と後で、映画の好みや見方は変わりましたか?
うーん、いや、相変わらず同じ趣味だと思います。ただ今は、よりリスクをとった映画の方が好きですね。安全な方に逃げず、フォーマットで遊ぶタイプ。どのようにして物語を伝えるか、その挑戦が見えるような映画です。
──最近ご覧になった映画でお気に入りは?
ポーランド製作の『EO』という、ロバについての映画が素晴らしかったです。ケイト・ブランシェットの『TÁR』も良かった。昨年の映画に関して言うと『TITANE/チタン』と『アネット』が大好きでした。『アネット』は長い作品でしたが、すごく勇敢な映画だったし、美しいシーンがたくさんありましたね。
──日本映画についてはどうでしょう?
僕は実は日本映画の大ファンなんです! 最近も新藤兼人の『鬼婆』を観たばかりです。素晴らしく美しい作品でした。彼の『裸の島』も好きです。小津安二郎も黒澤明も大好きですし、『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』などのジブリ・スタジオ作品も大好きです。『雨月物語』も最高でした。僕が日本映画を好きな理由は、映画の中で描かれるすべての感情がちゃんと日常生活で人々が扱う、普遍的なものだから。すごくアメリカ映画とも違って、そこが好きです。そして特にアニメ映画におけるカラーパレットも素晴らしい。鎌倉にある小津の墓を訪れることも、今回の来日のやりたいことリストの一つです(笑)。
──白黒時代の邦画をよくご覧になっているんですね。
はい、実はレイキャヴィークの学校のあと、さらにサラエヴォの映画学校(film.factory)にも行ったんです。そこでの僕のメンターが、タル・ベーラ監督でした。私は彼の一番のファンってくらい、大ファンで(笑)。彼の作品がすごく好きでした。スローな映画が好きなんですよね。ベーラ監督は学校に他にも映画人を講師として招いてくれて、アピチャッポン・ウィーラセタクンやアトム・エゴヤン、ティルダ・スウィントンにカルロス・レイガダスなど錚々たるメンバーでした。そして素晴らしいフィルムメイカーたちが、それぞれ全く違う方法で映画作りをしていることが知れて、すごく励まされたものです。
──さて、『LAMB/ラム』で監督のファンになった方も多いと思います。次の作品について少しでも教えてもらえることができたら嬉しいです。
すでに新しい脚本に取り掛かっています。それもまた『LAMB/ラム』のように自分が脚本を書いていないタイプの作品になるわけですが、正直なところ具体的に次に何をするかはまだわかっていません。ただ、新しいプロジェクトを始めることがすごく楽しみです。今回の来日は、僕と『LAMB/ラム』の旅路の終着点のように思えるんです。だからこれが終わったら、もう次に切り替えないと(笑)。
──挑戦してみたいジャンルなどはありますか?
特にないですね、ただ自分にとって面白いと思えるものを見つけたいです。逆にそうしないと、「自分がそれを作りたい」という熱意が生まれないから。これは自分がやらなければ、と思えるものを常に探すこと。それを一番大切にしていきたいです。