本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第7回 ヒグチアイ(前編)
ヒグチアイと考えるアーティスト人生、一歩ではなく半歩先を行く難しさ
2022.12.27 12:00
2022.12.27 12:00
俯瞰になるってすごく難しい(ヒグチ)
本間 クラシックをずっとやられてたから、きっと今までの自分に自然に戻っちゃうんですよね。それが個性だし。色んな耳を持っていらっしゃるから、よりこうしたい、私もこういうのやってみたいとか思うわけで。
ヒグチ 思いますね。それこそAdoちゃんとか聞いてても声色いっぱいあるなとか。
本間 syudouくんに聞いたら「うっせぇわ」は音源を送って、返ってきたのがあれだったって。全部Twitterでやり取りして一回も会ったことなかったって。
ヒグチ へえ、すごい!
本間 それこそ新世代だなって。もう直接コミュニケーションをとりながら音楽は作るものじゃないんだって、受け入れないとって思ったんですよね。
ヒグチ 20代前半ぐらいの子と対バンすることがあって、どこで覚えたんだろうっていうくらい、アリーナクラスの雰囲気でMCしたりするんですよ。私の場合は小さいライブハウスからずっとやってるから、絶対そんなMCができない。でもその地続きじゃないMCに感動したり、相手の大きさみたいな、「もっと夢を見せてくれるんじゃないかみたいなのが感じられるような気がして。
本間 いえいえ、そんなことないですよ! 一緒に上がっていくほうが最終的に強いと思いますよ。女性の弾き語りは代弁者みたいなところもありますし。
ヒグチ 女性のシンガーソングライターが今難しいと思っていて。YUIさんや絢香さんがいた時代から、なんでこんなに変わってしまったのかなって。
本間 なんでしょうね。アンジェラ・アキさんが引退してアメリカに行っちゃって。あのあたりから、ひと呼吸置いた感じがありますよね。それぞれのやり方をいったん休憩してから見つけ出している時期なんじゃないかなっていう。
ヒグチ 実際自分が結婚したり子供ができたりしたときに、自分の中が変わってしまうのがめちゃくちゃ怖くて。今まで歌ってきた「孤独って強いものなんだ」っていうのが、一気に変わってしまうのが怖くて、そっちにいけない自分がいます。
本間 すごいわかります。リアリティがなくなっちゃうんですよね。うまい形で、結婚や考え方の変化をちゃんと表現できてる人はいいかもしれないけど。ステージに出て「キャー」って言われてる人が「結婚します」という勇気って、すごいなと思いますよ。
ヒグチ その賭けに出れないっていう怖さは、男性も一緒なんですね。
本間 一緒ですね。歌詞とかサウンド、声などから感じるものがあって、実生活と照らし合わせて、共感を得られたものがポップミュージックだと思うんですよね。それをガラッと変えていく難しさっていうのはある。
ヒグチ 聞きに来てる人たちって、一番求めてるのは共感なんですかね?
本間 人にもよるんですけど。映画スターのように、作品によって共感が持てる役柄をやったり、ものすごい悪役をやったり。アーティストもそういう部分があってもいいんじゃないかなって思うんですよね。裏では別の自分がいるみたいな。今、主観で作ってる良さは残しつつ、どっかで一回俯瞰を意識してみるっていうのも面白いかもしれないですよ。
ヒグチ 俯瞰になるっていうのがすごい難しくて。それって何目線なんだろうっていう。
本間 そうですね。自分が曲を作るときは、アーティストのライブを見に行って、どんな曲に対してお客さんがどう反応しているかっていうのをずっと観察してて。自分がやりたいことを一旦置いておいて、っていうのをやってみたことがあるんですけど。
ヒグチ その時は、自分のやりたいことっていうのはどこに置いてやっていたんですか? お客さんのためにやっていたんですか?
本間 アーティストのためにやっていたんですよね。そのアーティストにとって一番いいことは何なんだろうと思いながらやるようにしているんです。
ヒグチ なるほど。一番いいことっていうのはお客さんを増やすことだったんですか?
本間 多くの人に聞いてもらいたい気持ちもあるんですけど、それよりも彼らが前に進んでみえるかっていうのを考えて。あまりにぶっ飛んだことをやってしまうとお客さんが全くついてこなくなるんで、バランスですよね。
ヒグチ ちょっと先にいるみたいな。
本間 一歩先に行っちゃうとお客さんついてこれなくなっちゃうから、半歩先なんだよっていう。
ヒグチ 半歩、難しいですね。
本間 そう(笑)。その感覚を見つけて調整するっていうのが、セルフプロデュースだと難しいと思います。それが俯瞰ってことなのかなっていう。
ヒグチ セルフプロデュースの私は、どうしたらいいんですかね。
本間 一回振り切ってから、戻るっていうのが面白いとは思いますよ。スタッフの皆さんに意見を聞いてもいいと思いますし。面白いのが、そういう意見を聞いたところで、曲がらないんですよね、アーティストは(笑)。
ヒグチ そんな気がしてならないです!(笑)
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