2022.11.23 17:00
2022.11.23 17:00
自分を形成するのは大体別れ
──ドラマ『高良くんと天城くん』のOPテーマ「twilight」も、作品と高い親和性を作っていました。青春時代のきらめきや、恋する繊細な感情が楽曲に落とし込まれています。
原作を読んで、「好き」を見つけたからこそ感じる痛み、苦しさ、好きが故に暴走してしまう感情があるなと思って。それで初めて見つけた好きに対して対処できなくなっていく感覚、好きが止められない感覚を封じ込められたらと思って制作をスタートさせました。
──恋する気持ちに対しての《全部 全部 全部/いや、一つ届けばいいから》という歌詞が印象的で。
「全部じゃなくてひとつ届けばいい」って、ある意味わがままだと思うんですよね。全部知ってほしい、全部届いてほしいって、すごく漠然としてるじゃないですか。だけどこの主人公は「全部」という名の「ひとつ」を届けようしているというか……自分で書いててめちゃくちゃ重いなって思います(笑)。
──(笑)。まさに好きが止められないということですね。「プラチナ」も別れの歌ではありますが、ある意味「twilight」に通ずる重い愛情だと思います。
「プラチナ」は『BREATH』のCDのボーナストラックに弾き語りを収録しているんですけど、この曲を作った時はちょうど周りが結婚ラッシュで、友達が「指輪をプラチナにするんだよね」と話してたんです。なぜ結婚指輪がプラチナなのか調べたら錆びないかららしくて、じゃあもしこのふたりが別れたらそれは永遠に残り続ける呪いみたいだな……と思って(笑)。でもその「錆びない」というのは、人の別れそのものだなと思ったんです。
──確かに、大切な人との別れは心の中に鮮明に残り続けています。
プラチナは土の中に埋めたって、海に落としたって、粉々にしたって錆びない。別れに対する感情も同じだと思ったんです。別れによって生まれた錆びない欠片が、自分の中に残り続けることは生きていくうえでとても大切で、あったかいものになるんじゃないかなって。別れは悲しいけれど、それだけじゃないものも残してくれる。自分を形成するのは大体別れだと思うし、出会った時のこと以上に記憶に残る。別れが教えてくれる大切な宝物を曲にできたらなと思ったんですよね。僕が別れの曲をよく書くのは、こういうことが理由なのかなとも思っています。
──ノンタイアップ曲の「夢日記」、「終夜」、「アビス」は3兄弟のような印象を受けました。歌詞や音もすべて含めて、Sanoさんが日頃どんなことを思って生活しているのかが伝わってくるような、生き方が投影された楽曲だと思います。
自分自身が濃く出た3曲だと思います。僕は名前や外見の印象から「優しいね」と言われることが多いんですけど、全然そんなことないなと思うんです。だからある種の偽善みたいなものがまかり通っちゃうことに気持ち悪さを感じるところもあるし、優しいねと言ってもらうことで自分を満たしている自分もどっかにいて。「あの人の前で見せる自分はこれで、この人の前に見せる自分はこれで、じゃあ自分ってなんだ?」と考えた時に、「もしかすると、俺は全部嘘なのかもしれない」と思ったんです。
──なるほど。斬新だけど、妙に納得しちゃう解釈です。
自分が生きていること自体夢みたいだな、と思ったところからちょっとずつ書き始めたのが「夢日記」です。だからおっしゃっていただいた「生き方が見える」というのは、まさにその通りだと思います。この曲のアレンジャーはCRCK/LCKSの小西遼さんで、僕の家で夜中まで意見交換をしながらアレンジを作っていったんです。だから音に生活感も反映されたんじゃないかなと思っていますね。もともと小西さんの作る世界観は好きなので、シンパシーを感じながら作ることができました。
──以前からSanoさんは様々な編曲家さん、プレイヤーさんを招いて制作なさっていますが、それもSano ibukiなりのポップを作るために必要ということですよね。
僕は結構アレンジに対してああしたい、こうしたいというイメージがはっきりあって、どなたにお願いするかは毎回相当悩みに悩むんです。でもおこがましくも、アレンジャーさんもプレイヤーさんも僕の曲でご一緒してもらう時がいちばんかっこいいと思ってます(笑)。「twilight」や「プラチナ」のアレンジをしてくれている須藤優さんは『BREATH』から引き続きご一緒できたので、コミュニケーションを取る機会も増えていたぶん、曲を作る段階から「須藤さんにお願いするならこういう感じにしようかな」と考えていました。アレンジャーさんやプレイヤーさんと話し合って作っていくので、楽曲には僕らしさの中に皆さんらしさが出ている。やっぱり掛け算は楽曲を立体的にしていくんだなと思いますね。
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