ヒップホップで社会を生き抜く! 第5回
今最も熱いラッパーJ.I.Dのカムアップストーリー 夢破れつつも全力を注いだ天才リリシスト
2022.09.04 13:30
J.I.D「Kody Blu 31」
2022.09.04 13:30
8月26日にニュー・アルバム『The Forever Story』をリリースしたJ.I.D(ジェイ・アイ・ディー)。今ではヒップホップ業界に欠かせない最高峰のラッパーJ. コールに才能を見出され、2017年に彼の〈Dreamville Records〉と契約した凄腕ラッパーであるが、今最も熱いラッパーと言っても過言ではないだろう。誰もが認めるリリシズム、そして音楽的な教養とクリエイティビティを感じる多彩なフロウはまさに唯一無二である。そんな彼のキャリアをおさらいしつつ、ニュー・アルバム『The Forever Story』のアウトロとして収録されるはずであった楽曲「2007」で語られたインスパイアリングなストーリーを紹介したい。
伝説的なヒップホップデュオ、アウトキャストを始めとし、数多くのヒップホップスターを輩出したアトランタ出身のJ.I.D。彼はラップを始める以前、奨学生として大学のフットボールチームに在籍していた。しかし怪我でフットボールの道を絶たれ、さらには大学を退学になった彼はラッパーとしてのキャリアを歩み始める。学校にはいかずにラッパーとして生きていくと父親に伝えたところ、彼は家を追い出され、車での生活を余儀なくされる。その後、同じくアトランタ出身のヒップホップデュオ・アース・ギャングの2人の家に住み込み、コールセンターや宅配ピザの仕事をしながら音楽活動に励んだ。
短期間で4つのミックステープと『Dicaprio – EP』をリリースし、2014年にはJ. コールのレーベルに所属していたBasとともにアブ・ソウルのツアーのオープニングアクトを務める。そのツアー中にJ. コールと出会ったJ.I.Dであるが、2017年についに 〈Dreamville Records〉と契約することになる。
楽曲「Never」でヒップホップファンの間でブレイクアウトし、特にビートスイッチ後のフロウとリリシズムで評価された彼は、2017年に1stアルバム『The Never Story』をリリース。2018年には2ndアルバム『Dicaprio 2』をリリースし、2020年には〈Dreamville Records〉のコンピレーション『Revenge Of The Dreamers』でグラミー賞にノミネートもされた。
ヒップホップ業界では誰もが認めるリリシストとして活躍しているJ.I.Dであるが、彼の名がメインストリームで爆発的に広がったのは、イマジン・ドラゴンズとのコラボ「Enemy」であろう。ネットフリックスで公開された『Arcane』の主題歌としてメガヒットとなった「Enemy」は、J.I.Dにとって初のBillboard Hot 100トップ5曲となった。
2022年の8月26日に満を持してリリースした待望の3rdアルバム『The Forever Story』。このアルバムでは自身のルーツである家族について、そして現代のアメリカにおけるブラック・エクスペリエンスが語られている。自分のレガシーが「永遠」に確立され、さらに家族に残せるものを提供したいという意味で名付けられたアルバムであるが、「Kody Blu 31」のMVでは実際に家族が過去に住んでいた土地を買い戻し、家族とともにMVに出演している「Kody Blu 31」では、ラップだけではなくJ.I.Dのソウルフルな歌声を聴くことができる。
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