2026.03.10 18:00
2026.03.10 18:00
初舞台という挑戦を前に、長濱ねるは不安と正面から向き合っていた。漠然とした不安を細分化し、ひとつずつ潰していく。そのロジカルな姿勢は、彼女がこれまで積み重ねてきた10年間の表れだ。
今回、長濱は3月11日に上演される海老名香葉子追善公演『東京の空』で1人、舞台に立つ。「逆に1人だからこそ、自分の好きに表現できてしまう。そこは自分への課題でもあり、挑戦でもあります」と、背筋をピンと伸ばして長濱は真摯に言葉を紡いだ。海老名香葉子さんの追善公演という重責を担いながら、長濱ねるは自分自身を解き放とうとしている。

自分への課題であり、挑戦でもある作品
──映像作品での活躍が続いていますが、ここにきて初の舞台、しかも1人での朗読劇に挑みます。
今まで、お芝居は映像作品でしか経験したことがなかったので、自分が表現したものを実際に目の前で受け取ってもらう状況がなくて。いつもは演じてから、ちょっと時間差があって、世間の皆さんから反応をもらえていました。今回は朗読劇として、自分のお芝居を目の前でリアルタイムで受け取ってもらえるということで、どんなふうに反応いただけるのか、今から緊張しています。
──では今、心の中の割合としては楽しみよりも緊張がいちばん大きい?
そうですね。今はまだ楽しみやワクワクというより、緊張……不安かな。不安がいちばん大きいです。でも、稽古をしていく中で少しずつ楽しみが増えてきているところです。
──今まさに稽古中とのこと。台本を読んでみてどんな思いが心に残りましたか?
東京大空襲を描く作品ですが、空襲前後の描写もあります。なかでも、戦争が起こる前の日々の生活だったり、香葉子さんが送っていた幸せな日常だったりの描写があって。そこから戦争の混乱に巻き込まれていく姿を、当時小学生だった香葉子さんの目線で描かれているので、この物語は香葉子さん目線という意識を大事にして届けていきたいなと思いました。語り部というか、ナレーション役になりすぎてしまってはいけないなと。
──そういう思いは、台本を読んだ時点で浮かんでいたんですか? それとも稽古を重ねて見えてきたものでしょうか。
稽古に入ってから、演出の倉本朋幸さんに言っていただきました。
──倉本さんからは、他にどんな言葉をもらいました?
例えば、戦争の描写のところは、自分で感情を入れていくと、どうしても重々しい感じというか、辛い過去を語る感じの伝え方になってしまうんです。でも、倉本さんからは、「実際に当事者である香葉子さんの目線から見ると、何が起こっているかわからないし、今起きていることの先に、どれだけ恐ろしいことが待っているのかもわからないんだよ」と。少しずつ食べるものが変わっていったり、空襲が増えていったりっていう戸惑いの中、日々が進んでいくんだなと思ったので、観てくださる方と一緒に物語の世界に入るためには、香葉子さんの視点を通して届けることが大事なんだなと考えるようになりました。
──先ほど「不安」という言葉がありましたが、その不安の種というのは、舞台上に1人で立つことに対してか、それとも朗読劇という表現方法に対してか。そのあたりはどういった感覚ですか?
役割、という部分ですかね。今回の作品は海老名香葉子さんの追善公演で、海老名さんの思いを繋いで伝えていくための作品です。その役割をしっかり全うできるのか、自分1人で皆さんに届けることができるのか。そこに対しての不安がありますね。
──海老名さんは東京大空襲で家族を亡くし戦争孤児になられている。そこの重みというのは、相当なものがありますよね。
そうですね。しっかり務めないといけないな、と。
──これまでも不安に思う場面を経験されてきたかと思うのですが、不安はどうやって乗り越えるタイプですか?
人前に立つことに緊張するとか、そこに対しての不安は、私の性格上なかなか変えられない部分なので、そこは割り切るようにしています。あとは、漠然とした不安は何が原因なのかを1個ずつちゃんと自分で見極めていく。表現の仕方が不安なのかとか、自分がやる動作がうまくできるか不安なのかとか。細分化すると、1個ずつ潰していける感じがして。そうやって普段はちょっとずつ不安な要素を減らすようにしています。

──感覚派というより、理論派な対応の仕方ですね。
そうかもしれないですね。やっぱり、なんとなく不安っていう状態が、いちばん嫌で。ただただ怖いなとなってしまうので、とにかく潰したり取り除いたりできるものは、解消したいです。
──以前は「準備を重ねて、自分の表現が固まりきった状態で現場に立つことが多い」とおっしゃっていましたが、今回の朗読劇では、どんなふうに作品に向き合っていますか?
映像と違って1日2公演あるので、自分の新鮮な気持ちを忘れないように、慣れすぎてしまわないように心がけています。相手がいるお芝居だと、相手の方がどんな風に表現してくるかもわからないですし、その芝居を受けて自分が変化することも必要だと思うんですが、今回は完全に1人で皆さんを物語の世界に連れていかなければいけない。なので、新鮮な気持ちを大事にしながらも、普段以上にしっかりとした準備が必要なのかなと思っています。
──全部を1人で背負って物語を運んでいくって、想像するだけですごく大変そうです。
稽古しながら、大変だなと思っています(笑)。でも、普段は周りの皆さんに迷惑をかけないようにしなきゃとか、役の気持ちとは違う、私自身の邪念みたいなものがどうしても出てきてしまっていて。今回は逆に1人だからこそ、自分の好きに表現できてしまう。そこは自分への課題でもあり、挑戦でもあります。
──これまでにない、ブレーキを外したお芝居が観られるかも?
そうなれたらいいなと思っています。
──声で表現する朗読劇。どんなところにやりがいや面白さを感じていますか?
多彩に声色を使い分けられるわけではないので、どうなるんだろうと思ったんですよね。お母さんもお父さんも、3人のお兄ちゃんも1人で演じるので。でも、やっていくうちに、いろんな登場人物が出てきますが、その人の外側から演じていく必要はないのかなって。
倉本さんも「お父さんのセリフを声だけそれっぽくしてみよう、ということではなくて、お父さんのその時の気持ちに真摯に寄り添って誠実に伝えていけば大丈夫だよ」と言ってくださって。声色を自在に操るような技術が私にはまだないので(苦笑)、演じ分けに固執しすぎず、ちゃんと人と人との関係性を演じ分けられたらいいなと思っています。
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