2026.03.03 18:00
2026.03.03 18:00
無意識のうちに他人を観察しちゃうんです
──山谷さん自身はコロナ禍がやってきたあの当時、現実の社会をどのように捉えていましたか?
映画を観ている気分でした。
──映画、ですか。
この映画の劇中で起きるようなことが実際に起きていて、目の前の出来事に対して実感がわかない。だから、映画の世界のようだなと。「いつ終わるの?」みたいな。

──まるで超長尺映画を目の前にしているような。
そうですそうです。その感覚が強かった。家から出られなくなったり、仕事がストップしてしまったり。急に外部との関わりを断たれたとき、何が真実で、何が嘘なのか確かめようもないですし。
──改めて、恐ろしい時代を生きていましたよね。
あの時期に、良くも悪くもSNSが一気に盛り上がりました。私自身、SNSの情報を頼りにしていたし、オンライン環境に助けられもしました。時代が変わる瞬間に立ち会っている感覚がありましたね。でもそのいっぽうで、この現実を受け入れるのにも、実感を得るのにも、かなり時間がかかるだろうと思って過ごしていました。
──けっこう冷静だったんですかね。不安や焦りはありませんでしたか?
焦ったところで家からは出られないし。ちょっとドライだったというか。俯瞰していましたね。
──それは普段から、何事に対してもそうなんですか?
何事も俯瞰して見るのが好きですね。人間観察もすごく好き。ついつい無意識のうちに、他人が何を考えているのかを想像しながら様子を観察しちゃうんです。
──幼少期からお芝居の世界に身を置いていることが影響しているんでしょうか。
そうかもしれません。そもそもこの世界に入りたいと思ったきっかけもけっこう変わっていて。

──お聞きしたいです。
テレビを観ていると、ドラマやCMなどで同じ人が次の瞬間にはまったく別人になっていたりしますよね。基本的にどれも収録されたものだから。でも子供の頃は、すべてが生放送だと思っていたんです(笑)。それで、この謎を解きたいと思って。自分がテレビの中に入っちゃえば、この謎が解ける。そう考えていたところがあるんです。
──ユニークな動機ですね(笑)。
他の人は気にも留めないようなことを疑問に思うタイプでした。植物に話しかけていた子供時代だったので、ちょっと不思議な子だったのかも(笑)。
──自分の中の「なぜ」や「どうして」を大切にしてきたんですね。
好奇心旺盛なんでしょうね。ちっちゃな頃からずっとそうです。
──じゃあ、“ヤバい状況”に出くわしたとき、この状況を面白がれたりしますか?
基本的に面白がります。何かハプニングが起きたり、他人に嫌な気持ちにさせられたとき、ドギマギしてしまう状況であってもです。心をザワつかせたり、思い悩んだりするのって、時間の無駄だなって思うんです。

──また『#拡散』のほうにお話を戻したいのですが、この映画の構造的に、明希って特殊なポジションですよね。
そうなんです。彼女は序盤で退場してしまいますから。そして、明希の遺影だけが登場し続け、彼女の死をきっかけとした物語が展開していきます。
──“遺影”がすごく象徴的だと感じました。
私もです。正直、あそこまで登場するとは思いませんでした。
──脚本からイメージしていたものと違ったんですか。
私がイメージしていたものとは違いました。台本の読み込みの甘さを反省しているところです。遺影としてあれだけ登場することが事前に分かっていたら、明希が生きている序盤のパートでのお芝居はもう少し違うパターンもあったなって。
──なるほど。ある意味、ちょっと逆算するというか。
生きていれば自分がどういう人間なのかを提示できますよね。自分の言動に関して肯定も否定もできるし、修正だってできる。でも死んでしまった後では、その人間のイメージだけが生き続けていくことになります。完成した作品を観ていて、改めてそんなことを思いました。

──周囲の人間たちによって、彼女のイメージが形づくられていく。
(夫の)信治との関係性や、彼に対する言動がその後の明希像に影響してきます。彼女は彼に対してどれだけ自分の本当の気持ちを伝えられていたのか。目の前の相手に対して言葉で想いを伝えることの難しさも実感しました。
──本当にそうですね。
言葉って難しいですよね。心の中で思っていることを目の前の相手に伝えるのって、すごく大切なことのはずなのに、どうしてかネットでのやり取りに頼ってしまう。不思議です。LINEだとあんなに簡単に言えるのに。
──コミュニケーションツールが発達すればするほど、直接的に伝えるのは難しくなってくると思います。
人と人とが出会ったり関わったりすることは簡単になっているけれど、向き合うことはみんなヘタクソになってきてますよね。そしてこれこそが、この映画が描いていることだとも思うんです。
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