映画『WIND BREAKER』出演の注目株が思う「強さ」とは
今は「一人分の力」じゃ満足できない。役者・濱尾ノリタカが“本気”を誓う理由
2025.12.16 18:00
2025.12.16 18:00
会うと絶対みんなが好きになる、という人がいる。濱尾ノリタカも、そういう人だ。
礼儀正しく硬派。頭の回転は速く、人を見る洞察力に長けている。言葉は雄弁かつ情熱的で、決して自分を繕わない。不器用なくらい正直に、泥臭いくらいがむしゃらに、自分の人生を生きている。だから、つい誰もが濱尾ノリタカにほだされてしまう。
世界累計発行部数1000万部超の人気コミックを映画化した『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』で濱尾が演じたのは、獅子頭連のナンバー2・十亀条。5〜6kgの減量をして臨んだという姿は、まさに原作の十亀そのものだが、ビジュアルを寄せることは決して彼の役づくりの本質ではない。
濱尾ノリタカが追求したのは、どこまでも役に寄り添い、役を理解すること。その妥協を許さないストイックな姿勢の裏側には、弱い自分から“逃げた”過去があった。

役を全うすることが、一番の原作リスペクト
──『クローズZERO』『東京リベンジャーズ』に続く、新しい世代の不良映画が誕生しました。
やっぱり不良に対する憧れというのはあると思うんです。ただ、今って不良と呼ばれる人たちがいなくなりつつあって、不良の形も昔と変わってきている。この『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』はそんな今の時代に合わせた不良映画。拳をぶつけ合うことにもちゃんと明確な意味を持たせてつくっていて、そんな作品の一員に選んでいただけたことがうれしかったです。
──不良に対する憧れという言葉がありましたが、濱尾さん自身もそういう気持ちはあるんですか。
いや、僕はないです。特段不良に憧れることもなくこの年まで来ました。単純にフラストレーションの行き場がどこかということだと思うんです。僕の場合、スポーツでしたけど、彼らはきっと若さゆえのあり余るエネルギーの放出先が喧嘩だった。そこに矛先が向くこと自体はおかしくないし、違和感はなかったです。

──原作に尊敬を込めて演じたとコメントされていましたが、濱尾さんにとっての原作リスペクトとはどういうことを言うのでしょうか。
たとえば話し方を丸写しするみたいなことが原作への敬意なのかと言ったら、僕はわからなくて。僕にとっての敬意は、役の一番のファンであり、一番の理解者であること。この作品の間はずっと十亀のことを考えていました。十亀は普段どんなふうに生活しているのだろうとか、台本に描かれていない部分を想像し、具体的なイメージを自分の中でつくっていくことで、自然とアウトプットがついてくるんです。
制作陣のみなさんがウィッグだったり外見をこだわってつくり込んだりすることは、先生の大事な作品を預かっている身としては大前提。逆に言えば、役者である僕が真にやるべきはもっと別にある。十亀という役に従事し、全うすることが一番のリスペクトだと思って演じていました。
──台本に描かれていない部分を想像するというのは、たとえば兎耳山と二人でどういうふうに過ごしているんだろうとか、そういうことですか。
そこは考えましたね。僕の妄想の世界なので、こういう場で内容は言いたくはないですけど(笑)。携帯のメモとか、こういうノートにとにかく書き留めて。(と、手元にあった手帳サイズのノートを広げる)
──ちゃんと十亀のシールが貼ってますね。
これは(中沢)元紀がいろんなところでガチャガチャをしてて、それで当てたからとくれました。綱(啓永)くんはカードをくれて、それも財布に入れていたんですけど、この間財布から出して台本に貼りました。
──ノートに書くんですね。
一旦自分のシーンだけ書き写して、そこに対して思ったことを書き殴っています。いつでも持ち歩けるように、ノートは小さいサイズにして。
──そういうアプローチはいつ頃からやってることなんですか。
役者を始めたての頃に一度やりました。でも、そのときはただの作業になって意味がなくて。ちゃんとやりはじめたのは、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』からです。
僕はわりと何をしてても、ずっと考えている人間なんですね。 ぼーっと考えていたら、頭の中でふわふわと浮かんでいたものが急に一つの形にまとまることってあるじゃないですか。そのときにいつでも書き留められるものがあるとすごく助かるんです。
僕は器用な人間ではないので、一つのことがまとまっていない状態のままでは次に進めなくて。思ったことを1回書いてまとめておくことで、他のことを考えられるようになるし、いつでも持ち歩いて見られるようにしておけば、ふと見返したときに気づくことがある。とても便利です。

──アクションについてですが、ただ派手に殴り合えばいいわけではなく、拳を通じて役の感情を表現しなければいけませんでした。そのあたりはやってみていかがですか。
やっぱりお芝居としてやる以上、相手に当たらないようにするとか、つながりの関係上、ここは右手を出すとか、そういう安全や段取りも意識しなくてはいけなくて。でもそういうことばかり考えていると、どうしてもリアルな感情が出づらくなる。今回は左脳的な働きをいかに減らして、右脳でやれるかが勝負でした。
──難しいですよね。生の感情でやらないといけないんですけど、この画角におさまる範囲で動かなきゃいけないとか計算してコントロールしないといけないことも多いから。
そこに関してはもう本当に勉強しながらという感じでしたし、もっともっと勉強しなくちゃなと思いました。今回はいろんなサポートのおかげで形になりましたが、アクションに関しては未熟だなと反省する部分がすごく多かった。これをきっかけにもっとアクションに取り組んでいけたらなと思っています。

──水上恒司さん演じる桜と台詞をやりとりするように拳を交えられた実感はありますか。
最後のほうはそうなれたんじゃないかと思います。特に十亀の眼鏡が外れてからは、ですね。本当に何も考えないでやっていました。おかげで全然記憶がないんです。
──兎耳山役の山下幸輝さんとはいかがでしたか。
自分のペースがある人だな、と思いました。もちろんみんなそれぞれ自分のペースがあるんですけど、彼は特に自分のペースを大事にしている人だなと思ったので、僕はなるべくそのペースを邪魔しないように、僕も自分のペースから逸脱しないように関わっていました。そこに早い段階で気づけてよかったなと思います。彼はとても可愛い見た目をしているし、雰囲気も柔らかい。そこだけを見て安易にズカズカ踏み込んでいたら、きっと火傷していたと思う(笑)。お互い気を遣いながら寄り添うことができたんじゃないかなと思います。
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