この窮屈な社会で生きていくために、誰もがどこかで自分を押し殺している。その結果、自分を見失い、自分の顔さえも認識できなくなってしまったら──。

自分の顔が見えなくなる「青年期失顔症」を発症した女子高生・間宮朝葉と、朝葉の痛みに寄り添う優しい同級生・朝比奈聖。二人の脆くて傷つきやすい青春の日々を描いた丸井とまとの人気小説『青春ゲシュタルト崩壊』が映画化された。

聖を演じるのはIMP.の佐藤新。朝葉を演じるのは渡邉美穂。スポットライトの光をはね返しキラキラと輝く二人にも、自分を押し殺した時期はあったのだろうか。

中学生の頃は、男性のアイドルが好きだなんて言えなかった

_{──佐藤さんの演じた聖は一見ぶっきらぼうだけど、実はすごく心の優しい男の子。どんなことを大事にしたいと思って演じましたか。}

佐藤　聖自身、自分がかけた言葉のせいで友達を追いつめてしまった過去があって。その友達と同じ「青年期失顔症」を発症したのが朝葉。だから、朝葉のことをなんとか助けてあげたいけど、また同じように自分の言葉のせいで朝葉を追いつめてしまったらという恐怖がずっと聖の中にある。そういう朝葉に対する緊張感は意識していました。

_{── 一方、渡邉さんの演じた朝葉は、いつも自分の気持ちを押し殺している女の子でした。これまで演じてきた役とはまた随分イメージが違いましたね。}

渡邉　今まで天真爛漫で感情が表に出やすい役が多かったので、本当に今回は正反対でした。自分がやってきた足していくお芝居じゃなくて、朝葉に必要なのは引いていくお芝居。私にとって新しい挑戦で、言いたいことを飲み込む表情ってこんなに難しいんだと思うことが多かったですね。その分、目線の動きにも繊細に気を配りながら演じたので、そこが伝わるとうれしいです。

_{──お二人の思う、聖っていいなというポイントを聞かせてください。}

渡邉　金メダルチョコを頭にポンッと乗っけるところ。あそこ大好きなんですよね。 可愛くないですか？

佐藤　可愛い。

渡邉　しかもそれをちょっと恥ずかしそうに乗っけるところがむず痒くて。

佐藤　あそこいいよね。

渡邉　優しさが漏れ出る感じがすごい。私、あのシーン好きです。

佐藤　僕はやっぱりスプリンクラーを作動させるところかな。

渡邉　わかるな〜。

佐藤　大騒ぎになるのはわかってるじゃない？

渡邉　警報鳴るしね、めっちゃ。

佐藤　でも、朝葉を守るために鳴らすっていう。そこに大きな優しさを感じました。

渡邉　聖って他の人から見たらちょっと近寄りがたいオーラが出てるタイプだと思うんですけど、朝葉を演じていると、「あ、この人、優しいんだな」というのが、言葉ではなく行動や雰囲気で伝わってきたんですよね。しんどい思いを抱えた朝葉にとって、聖は心の拠り所。多くを言わないからこそ、信頼できたのかなと思います。

_{──お二人にも朝葉のように自分の気持ちを押し殺していた時期はありますか。}

佐藤　小中高と陰キャだったので、自分の好きなことを周りに話すのにもすごく勇気がいって。むしろ周りに合わせるのが当たり前。そういう学生生活だったので、自分を押し殺すのはしょっちゅうでした。

_{──人に言えない好きなことってなんだったんですか。}

佐藤　それこそ男性アイドルに憧れているなんて、特に中学生の頃は言えなかったです。言っちゃうと、変な目で見られそうで。周りで流行ってるものに自分もわざとハマりにいって、それで好きになったものもあるので悪いことばっかりではなかったですけど、そういう経験は朝葉と重なるものを感じますね。

渡邉　めちゃくちゃわかる！ 自分もアイドルがずっと大好きで、中学生の頃から女性アイドルになりたいってずっと思ってたけど、誰にも言えなくて。親にも言えないまま、ズルズル高校3年生になっちゃって、「あ、このままじゃ私、やりたいことをあきらめた大人になっちゃうな」と思って、こっそり（日向坂46、当時はけやき坂46の）オーディションを受けたんです。

佐藤　一緒だ。僕も親に内緒で履歴書を送りました。

渡邉　めっちゃ同じ！ バスケ部でキャプテンだったから、キャプテンが急にアイドルになりたいんで部活辞めますとか言ったら、周りは絶対にふざけんなよってなるじゃないですか。だから、オーディションを受けたことも途中までずっと黙ってました。

_{──じゃあ、お二人がちゃんと自分を出せるようになったのは、この仕事に就いてからですか。}

佐藤　そうですね。僕の場合は（IMP.の）メンバーと出会えたことが大きかったです。何でも受け止めてくれるので、そこで変われたかな。あと、メンバーみんなの中で結構印象に残ってる言葉があって。（所属事務所TOBEの）社長がよく「言ってくれなきゃわかんないよ」って言うんですよ。

渡邉　大事！

佐藤　「グループを組みたいですというのも、言葉にしてくれなきゃわかんないよ」とか。その社長の言葉が響いて、少しずつ僕もメンバーもいい意味で自分が出てきて、今のみんなの個性につながってるのかなと思います。

渡邉　私はグループを卒業してからこの3年ぐらいで自分を出せるようになってきましたね。一人で活動しはじめて最初に気づいたのが、自分からコミュニケーションをとりにいかないとダメなんだなっていうことで。それまで現場でも周りの共演者の方や監督と全然しゃべれなくて人見知りを発揮しまくりだったんですけど、それでいいことって何にもないなと思って。

佐藤　うん。

渡邉　より良いものをつくるには、自分の解釈をちゃんと伝えて、それに対する監督や周りの人の意見を聞いて、すり合わせていくことが大事。そう信じて、「私はこう思ったんですけど」って言うようにしたら、現場でもたくさんの方と喋れるようになって。私は、それまでどうせ意見を言っても通らないんだろうなって勝手に思い込んでいたんです。でも、いざ言ってみたら否定せずに受け入れてくれる方がたくさんいた。それがうれしくて、積極的に自分の考えを言えるようになりました。

_{──自分を見失った朝葉にとって、保健室は偽らない自分を出せる場所でした。お二人にも、朝葉にとっての保健室のような場所はありますか。}

佐藤　僕はやっぱりメンバーかなあ。特に鈴木大河くん。というか、メンバーみんな鈴木大河くんに行きがちな気がする（笑）。それぞれ得意不得意があって、話をめっちゃ聞いてほしいときは鈴木大河くんのところに行って、解決策がほしいときは横原（悠毅）くんか影山（拓也）くん。

渡邉　役割ってありますよね。

佐藤　あるある。

渡邉　私の保健室は母親と姉ですね。母親は私が言うことに対して「それ違うんじゃない？」って別の意見をくれるタイプ。で、姉はめちゃくちゃ共感してくれるんです。だから私も、解決策がほしいときは母親、ただただ「わかるわかる」って言ってもらいたいときは姉って思っています。