映画『フロントライン』の報道記者役で重要だった視点とは
「誰かの心の支えになりたい」桜井ユキが演じ続ける理由と“演じられる日常”に思うこと
2025.06.23 18:00
2025.06.23 18:00
「私が演じることで救われる人がいたら」と語る彼女の演技に惹かれるのは、そこに真心があるからなのだろう。
映画『フロントライン』でも重要な役どころを担った桜井ユキ。本作は日本ではじめて新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を舞台に、その第一線に立つこととなった災害派遣医療チーム「DMAT」の奮闘を描く物語だ。桜井は、スクープの匂いを嗅ぎつけたニュースディレクターの上野舞依を演じている。
そんな桜井に撮影当時の心境だけでなく、コロナ禍をどのように過ごしていたのかも振り返ってもらった。そこから浮かび上がってきたのは、役を演じることにかける強い想いと、「人と人の触れ合う時間や場が好き」という一面だった。

脚本を読んで動悸が止まらなかった
──コロナ禍を題材とした作品はすでに数多く存在しますが、「ダイヤモンド・プリンセス」のことが映画化されるとは思いませんでした。
私も驚きました。あの出来事を映画にするんだと。「ダイヤモンド・プリンセス号」の中で何が起きていたのか詳しい事までは知らなかったので、なかなかうまくイメージできないところもありました。でも、作品の概要や私が演じる上野舞依というキャラクターについてお聞きして、ぜひお引き受けしたいと思いました。
──オファーの内容を知って、即決だったと。
そうですね。すぐにそうお返事をさせていただいたと思います。ただ、脚本を読んでみたら動悸が止まらなくて……。
──理由をお聞きしたいです。
私の姉が看護師をしているんです。コロナ禍がやってきたばかりの2020年のあの頃は、新型コロナウイルスに感染した患者さん専門の病棟で働いていました。姉からいろいろと話を聞いていたので、脚本を読むのがとても苦しかった。医療従事者の方のお子さんが保育園に来ないでほしいと言われるシーンが劇中にあるのですが、実際にそういうことが多々あったそうなんです。
──聞いたことがあります。
自分の家族が社会から敬遠されてしまう現実がありながら、目の前の患者さんたちに寄り添わなくてはならない。あの当時の医療従事者の方々の心情を思うと、とても胸が痛みました。私の姉は実際にそのような立場に立たされていたわけで、改めて尊敬するのと同時に、あの頃どれだけ理不尽な思いをしたのか考えさせられました。
──医療の最前線に立つ方が身近にいるというのは、脚本の受け取り方に影響してきそうですね。
はい、そうなんですよ。

──当時は医療の現場の状況を聞いたりしていましたか?
聞いていました。テレビの報道やネットのニュースでは目にするものの、実際にそれがどういうものなのか分かりませんでしたよね。最初の頃は本当に得体の知れないウイルスという扱いでしたから、それが蔓延している場に自分の家族が身を置いていることに対する心配もありました。生存確認をするように、数日に一度は連絡をしていましたね。
──現場の混乱が叫ばれていましたから、いまこうして聞いているだけでも不安な気持ちになってきます。
医療従事者ということで、会うこともできませんでした。なので、何か渡したいものがあっても、すべては非対面でのやり取りです。いただいた『フロントライン』の脚本に綴られている出来事に触れ、あの頃の困難を改めて実感しました。
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