映画『ぶぶ漬けどうどす』が描く京都文化に3人は何を思う?
「全部さらして言う本心に価値がある」大友律×若葉竜也×冨永昌敬監督の同調社会での振る舞い方
2025.06.17 18:00
2025.06.17 18:00
フォトグラファーの前でポーズを決める大友律に、若葉竜也が自前のカメラを向ける。そんなイタズラめいた遊びの中に、二人の信頼関係が覗き見える。
10年以上の付き合いだという大友と若葉がスクリーンで名を連ねた。それが冨永昌敬監督の最新作『ぶぶ漬けどうどす』だ。2017年の『南瓜とマヨネーズ』で初めて三人揃って映画をつくり、翌年『素敵なダイナマイトスキャンダル』でも再び顔を合わせた。3度目となる本作は、京都人の本音と建前を題材としたブラックコメディ。空気を読めなければうっかり取り違えてしまうハイコンテクストなコミュニケーション文化は、今や京都に限らず日本中で求められている。
迂闊に本心も言えない現代社会に、3人は何を思うだろうか。

いいものを届けたいばかりに、現場で無理をすることには疲れてきている
──お三方が揃うのは、本作で3度目。冨永組の現場は、俳優にとってどんな魅力があるのでしょうか。
若葉 自分がホン(脚本)を読んで想像したところと全然違うところに連れて行ってくれるワクワク感がありますね。普通ならまあここに落ち着くかなみたいなところから、どんどん外れて行かせてもらえる。そこは、やってて面白いです。
大友 僕も同じですね。事前に考えもしなかったことが現場で起こるんです。『南瓜とマヨネーズ』ではリハのときに「稲川淳二さんみたいにやってくれる」と監督がおっしゃって。どういう意味か掴めなかったんですけど、衣装合わせでヒゲを伸ばすことになって、「ヒゲということで稲川淳二さんなのかな」と思いつつ、「いや、そういうことでもないな」とも思いつつ、グルグルしながらそのまま迷走して終わりました(笑)。
冨永 それは悪いことしたね(笑)。
大友 いえいえ、そんなことないです。そういう思ってもみない角度から演出をしてもらうのは、冨永さんの現場ならではだと思います。
冨永 僕としては現場が楽しければいいという気持ちが一番で、それ以外のことはあんまり望んでいないんですね。現場で俳優やスタッフが楽しんでいれば、きっとお客様にも楽しんでもらえるものができると思っていて。逆に言うと、お客様にいいものを届けたいばかりに、現場でちょっと無理をするみたいなことに疲れてきているんです。だから、今回の現場でも予定時間より早く終わるように無駄なことをしないとか、みんなが疲れないようにすることは特に意識していました。

──無駄なことをしないとは?
冨永 たとえば俳優に対しては演じる役の役割をわかってもらえるように事前に説明をして。本来監督は俳優を迷走させちゃいけないんです(笑)。
大友 (笑)。
冨永 でも、単に無駄をなくすために、こうしましょうと最短距離の筋道を示しても隙間が生まれないわけで、そうするとやっぱり映画としては面白くない。だから、管理はするけれど、そこに遊べる“ゆるさ”が出るような現場にすることが今回のテーマでした。
──ちなみに、大友さんは今回の現場でも監督から思ってもいない角度の演出は飛んできましたか。
大友 終盤でまどかの持ってる鳥居を奪うシーンがあるんですけど、「この鳥居をとてつもなく卑猥なものだと思ってくれ」と演出を受けました。稲川淳二はピンと来なかったんですけど、鳥居に関しては、なるほど確かにと思って。
──じゃあ、今回は迷走じゃなかったんですね(笑)。
大友 はい。迷走じゃなかったです(笑)。

──若葉さんはすごく特徴のある喋り方でしたけど、あれも監督から事前に何か話があったんでしょうか。
若葉 本読みのときに何回か読んでいくうちに、冨永さんから「〜〜なんですよという語尾にしたらどうかな」と言われて。そこで冨永さんがイメージしているものがキャッチできたので、わりと20分ぐらいで、ああいう出口に向かった感じですね。
大友 僕は若葉さんとは本読みの日程が別だったんです。なので、あとで中村先生は「〜〜なんですよ」という喋り方になったという話を聞いて。その時点で僕が台本を読んでイメージしたものと全然違ったんですけど、初号を観たら驚きがあった。他にも、脚本を読んだだけでは予想もつかないシーンがいっぱいあった作品でした。
──大友さんと若葉さんはもう長いお付き合いだと聞きますが、作品を通してお互いの芝居を見て、改めて面白いなと思ったところはありますか。
若葉 なんでしょうね。存在感が類を見ない感じなんで、その異質さみたいなのは面白いなあと思いますけどね。
大友 本当ですか? ありがとうございます(照)。10年以上の仲なんですけど、もう憧れが半端じゃなくて……。
若葉 いや、そのわりに全然違う方向に突っ走ってるけどね(笑)。
大友 自分は若葉さんみたいにはなれないからこそ、真似をしちゃいけないと思っているからで。何も考えずにやったら、真似しちゃいそうになるぐらい魅力的な、役者としても人間としても最高な方だと思っています。なんか、軽くなりますね、言葉にすると……(笑)。
──おっしゃる通り、映画の中で見る大友さんにはなんとも言えないおかしみがあります。
若葉 僕は人の演技がうまいとかってあんまりわかんないですけど、存在が面白いというのは強いなと思いますけどね。彼は僕みたいにはなれないと言ってくれますけど、僕も彼と同じことはできないというか、持ってないですから。

冨永 大友さんとは『南瓜とマヨネーズ』のときにベースを弾ける俳優ということで知り合いまして。その後、3本の作品に出てもらってるんですけど、以降、ベースを弾いているところは見たことないんですよね。なので、なんのためにこの人はベースを手にしたんだろうという疑問がずっとありました(笑)。
若葉 昔、一緒にバンドを組んでたんですよね。で、彼がベースをやってて。
大友 そうなんです。アーティストの友達からベースをもらって。じゃあ、ちょっと練習するかって感じで弾いてたら、『南瓜とマヨネーズ』の話がきたので「弾けます」って言っておこうと思いました(笑)。
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