公開稽古から見えた話題作の注目ポイントをレポート
“コメディ”は“悲劇”から生まれる?劇団四季『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が狙う新たな観客層
2025.03.03 17:30
2025.03.03 17:30
4月6日(日)、JR東日本四季劇場[秋]にて初日を迎える劇団四季の新作ミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の稽古場取材会と合同インタビューが行われ、その模様が各メディアに公開された。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のミュージカルは1985年公開の同名映画シリーズ第1作を基に製作され、2020年にイギリス・マンチェスターにて開幕。その後、ウエストエンドやブロードウェイでも上演され、さまざまな演劇賞を受賞した超話題作だ。
映画版と比べ、よりコメディ色が強いエンターテインメント作品となっているミュージカル版を劇団四季の俳優陣がどう体現するのかも気になるところ。早速、稽古場の様子からレポートしていこう。

(撮影:荒井健)
アトリエには可動式の装置や大道具が置かれ、俳優たちは思い思いにストレッチをしたリ談笑したりしている。そこに本作オリジナル版の演出家、ジョン・ランド氏が登場し、簡単にシーンの説明をしたところでいよいよ稽古がスタート。
1曲目は第1幕第12場のナンバー「Future Boy」。デロリアンで1985年から1955年にタイムスリップしてしまったマーティーが若き日のドクを訪ね、彼に助けを求める場面だ。

ドク(野中万寿夫)が電話である投資話を断っているところにマーティー(立崇なおと)が駆けつけ、なんとか自分を1985年に帰してほしいと頼むのだが、ドクは未来から来たと語るマーティーの言葉をなかなか信じない。「1985年の大統領はロナルド・レーガン!」と訴えるマーティーを「俳優が?」と鼻で笑っていたドクだが、2人しか知らない秘密を聞いたことでデロリアンのもとに向かい、稲妻のエネルギーでこのタイムマシンを未来に送ることができるのでは、と解決策を見出す。
2人のエネルギーが楽曲により次第に増幅していく様子はまさにミュージカルの醍醐味!といったところだし、そこにクラシカルなハットを手にしたアンサンブルが登場し、『コーラスライン』ばりに一緒に歌い踊って、最後にドクから追い出される展開からは、ミュージカル版が映画版に比べ、よりコメディ色強めであることも伝わってきた。また、この日公開されたデロリアンは木材と鉄骨で作られたものだったが、これが本番の舞台ではどうなるのかも気になる。

1曲目の通しが終了したところで、ドク役とマーティー役の2人はランド氏からノート(=演出的なアドバイスや改善点)を受け、アンサンブルには振付のクリス・ベイリー氏からチェックポイントが伝えられた。それぞれが自身の課題を確認をしたところで1曲目は終了。
2曲目は第2幕第4場の「For The Dreamers」。マーティーを未来に帰すための実験が上手くいかないなか、あきらめず夢を信じようとドクが歌うシーン。
ここでドク役とマーティー役のキャスト候補が入れ替わるのだが、先にドクを演じた野中万寿夫と、次にドクを演じる阿久津陽一郎がアクトエリアの外でハイタッチをする様子がとても印象的だった。
1955年が舞台のこの場面で、ドク(阿久津陽一郎)は1985年の自分が死ぬ様子をビデオカメラで見てしまう。そこにマーティー(笠松哲朗)がやってきて、2人は彼を未来に帰すための実験を続けるが上手くいかない。その結果に落ち込むマーティーに対し、ドクは夢を追いかけ未来を信じることの大切さを説く。自らの“死”を知ってしまったドクが、それでも夢を追うことの素晴らしさをマーティーに伝えながら歌うさまが強く胸に響いた。

稽古場が優しい拍手で満たされたところでランド氏のマーティー役に対するノートは「本当はドクにハグしたい気持ちでいっぱいだけどハグはしない。自分の中にある感情とリンクさせて演じて」。
3曲目は「Gotta Start Somewhere」。場所は1955年のダイナー。ビフから嫌がらせを受けたマーティーの父(この時点では10代の)ジョージをダイナーの店員、ゴールディ・ウィルソンが「何事でも為せば成る」と励ます場面。
ジョージ(斉藤洋一郎)の情けない姿を目の当たりにしたダイナーの店員、ゴールディ・ウィルソン(安田楓汰)は「やられっぱなしなんてダメだ」「絶対に俺はもっと偉くなってみせる!いつかは市長に立候補するんだ!」とマーティー(立崇なおと)とジョージに宣言し、床を掃除しながら「ネガティブなんか吹き飛ばせ!」と皆を歌でエンパワーメントしていく。観ているこちら側も元気をもらえるナンバーだ。

ゴールディ・ウィルソン役の安田楓汰(撮影:荒井健)
このシーンでのゴールディに対するランド氏のノートは「ジョージを鼓舞するだけでなく、彼への優しさをもって“ほら、一緒にやろうよ”という気持ちを大切に」。
映画版を観た人は、このゴールディ・ウィルソンが1985年の世界でどうなるかご存じだろうが、未見の方はそのあたりにも注目してほしい。
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