映画『チャチャ』が発するメッセージを二人はどう受け止めた?
伊藤万理華×中川大志が生きる日本エンタメの転換期 俳優として今、この世界に願うこと
2024.10.17 18:00
2024.10.17 18:00
新時代の扉を開く俳優と監督がタッグを組み、「不器用に、でも一生懸命に“今”を生きるヒロイン」たちを映画化する「(not)HEROINE movies」シリーズの第4弾として制作された酒井麻衣監督作『チャチャ』が公開された。
周囲にはまるで野良猫のように映るヒロインのチャチャ役には伊藤万理華。そのチャチャをミステリアスな魅力で惹き寄せる樂を中川大志が演じる。一見ポップな映画作品と見せかけ、シークエンスごとに物語の様相が変化していき、観客を翻弄さえもする本作は、本当に好きなように生きるとはどういうことか? あるいは、この世界における真実の見え方は個々人の視点によって十人十色であるということを投げかける。
果たして伊藤万理華と中川大志は、それぞれこの映画の作品像をどのように受け止め、チャチャと樂をどのように体現したのか?
二人が悩みこだわったアウトプット
──全体的にポップな作品なのかなと思いきや、いざ映画の幕があがるとシークエンスごとに作品像の印象が目まぐるしく変わっていって。最終的な印象としてはかなりアバンギャルドな作品だと思いました。あらゆる物事であり、この世の実相はそれを見つめる人の視点で大きく異なるということも本作のひとつのテーマだと思うし、監督はこのチャレンジングな作品を牽引する役割をお二人に託したんだと思うんですね。まずは、それぞれがこの映画をどのように受け止めて現場に入ったのかを聞かせていただけますか?
伊藤 本当に「これは映像としてどうやって進んで行くんだろう?」という展開が続きますし、映画としてどのように画にしていくかという部分はやっぱり演じる側にとってもすごく重要で。チャチャというキャラクターを私がどう演じるかによって映画の印象が大きく変わってしまうので、それはすごいプレッシャーでした。チャチャ次第で事故る可能性があるし──いや、事故る?なにが事故なのかわからない展開(笑)。それくらい、おもちゃ箱をひっくり返したような世界を描いている映画というのが最初の印象でした。自分もすごく悩みながら撮影に臨みましたし、悩んだ結果、悩んでいるところさえもチャチャとしていい感じに映れたことが幸運だったなと思います。
──悩みながらシーンごとにチャチャを体現していったと。
伊藤 はい。私自身はチャチャをうまくつかめていない印象のまま現場に入ったのですが、監督からは「伊藤さんのままでいい」という言葉をいただいて。でも、「伊藤さんのままってどういうことなんだろう?」ってまた悩んで(笑)。
──何をもって伊藤万理華然としているのか。それこそ、それも人によって解釈が違いますよね。
伊藤 そう。監督にとっては私が無意識にしている仕草がチャチャなんだということだったんですが、そう言われるとまた意識しちゃうじゃないですか(笑)。
──禅問答のようになる(笑)。
伊藤 役を演じる上で私のままでいいと言われることってあまりなかったのでチャチャに慣れるまでかなり時間がかかりました。でも、本当にいろんなキャラクターがいて立ってくれているおかげでチャチャが成立して。その対比で面白くなったと思います。この映画は監督の酒井さんのオリジナル脚本で、当て書きでもないからこそ、自分の責任は大きいと思いましたし、監督と何回も話しながら自分を俯瞰して、観察して、無意識にやっている自分の雰囲気がなんとなくわかってきたのかな、って。最近も第三者目線で自分を見ることが増えました。チャチャきっかけで、ゼロから役を演じるにあたって自分の要素を取り入れながらどのようにアウトプットするのかを考えるようになりました。
──中川さんはどうですか? 現場に入ったときに心持ちについて。
中川 まさしく僕も本当にこの映画は、前半は絵本のようだなと思っていて。でも、最初は絵に見えていたキャラクターや風景がどんどん生々しくなっていく。前半と後半でどんどん空気が変わっていったところが僕も最初に台本を読んでいて引き込まれたところですし、キャラクターに対する視点がこんなに変化していくんだという仕掛けがいろんなところにあって。僕が演じた樂というキャラクターも、自分が今まで演じたことのないタイプの役だったので。ぜひチャレンジしたいと思いました。
──樂を演じる難しさも本当にいろんな側面であったと思います。
中川 ありましたね。自分のいろんな感情や葛藤も樂に変換して出力していくしかない、というか。だから、伊藤さんが悩んでいるところも結果的に全部出していったというこの映画との向き合い方は、自分もすごくわかるんです。監督が思い描く樂のしゃべり方や歩き方にたどり着くまでの道筋とゴール設定をまずいただいて、自分自身にエンジンを積んで、どういうタイヤで走っていくか考えながら撮影に臨んだイメージですね。
──樂はヒロインのチャチャと以上につかみどころない役だし、ある意味では“つかみどころのなさ勝負”をチャチャと樂が展開していると思うところもあって(笑)。
中川 そうですね(笑)。樂のミステリアスでつかみどころのないところは、僕にはない部分だと思っていて。だからこそ、憧れる部分もあるし、開けてはいけないブラックボックスなものでもあって。その危なっかしさも含めて説得力をもって演じたいと思っていました。
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