2024.05.02 17:00
2024.05.02 17:00
青春映画に必要なのは、瑞々しい感性だ。固定観念に塗り込められていない透明な眼差しが、映画に特別な色彩をもたらす。
『バジーノイズ』がこんなにも胸を打ち震わせるのは、作品の中で描かれる孤独や葛藤に観る者の心が呼応したからだろう。ヒロイン・潮を演じたのは、『交換ウソ日記』の好演も記憶に新しい桜田ひより。監督は、若手最注目株の風間太樹。
二人のエモーショナルな感性が、青春映画の新時代を告げようとしている。
桜田ひよりの無軌道さを役に投影できた
──ドラマ『silent』以来、2度目の風間作品です。演じ手として風間さんの世界のどんなところが魅力ですか。
桜田 ご本人を前にして答えるのは、すごく恥ずかしいです(照)。
風間 僕もひっそり聞きたいです(笑)。
桜田 いちばんは、自分にとってすごく心地がいいんです。風間監督とは、ちゃんと意思疎通がとれている実感があるんです。だから、演技がしやすいんだと思います。
風間 演じ手と考えを差し出し合い、中和させながら作品をつくっていきたいというのが僕の基本的なスタンスなんですね。ひよりさんとは2度目ということもあって、よりお話を聞きながら、それを役に投影させられたんじゃないかと思います。
桜田 私も『silent』のときより、もっと演じていることが楽しくなりました。
風間 ひよりさんって溌剌とした明るさがありながら、一緒に向き合っていると何を考えているのかわからない瞬間があるんですよね。
桜田 それ、よく言われます(笑)。
風間 確かひよりさんご自身から出てきた言葉だったと思いますが、どこか無軌道というか。
桜田 その通りです(笑)。
風間 そういう定まらない危うさみたいなところが、潮と親和性があるなと。ひよりさんの持っている陰の部分──わからなさみたいなものを潮に投影できればと思いながら撮っていましたね。
──清澄の部屋に潮が窓ガラスを割って入ってくる。あそこなんて、冷静に見たらとんでもないシーンなのに、桜田さんの存在感と画の美しさで不思議と成立しています。
桜田 潮ちゃんは、普通の人がとらない行動をする女の子。それを「ちょっと引くな」と思われるのではなくて、「どうしてこんなことをするんだろう」と観ている人が考えられるようにしたいなと思って。きっと潮ちゃんには過去にこんなことがあったんだろうとか、潮ちゃんの言葉や行動の裏側にあるものを自分なりに分析することを今回は意識していました。
風間 清澄は、自己意識が閉じた人なんです。その閉ざされた蓋みたいなものを潮がこじ開けるのが、あのシーン。窓を割るという行為を通じて、清澄の内省にふれることを表現しているんですよね。ある種、ファンタジックなシーンでもあるからこそ、まるで風が吹くような清澄の心象風景に、映像が寄り添えたらと考えていました。
──航太郎(井之脇海)から手厳しい評価を浴びせられ、ささくれ立つ清澄に対し、潮が手招きをします。とてもキュートな仕草でしたが、あれは桜田さんご自身のアイデアだったそうですね。
風間 あの潮にやられた人がスタッフの中にも結構いました(笑)。
桜田 本当ですか。無意識でやってました(笑)。
風間 ずっと足踏みしていた清澄が踏み出す最初の一歩目ってすごく重たくて。あのシーンで大事なのは、強引に手を引くことじゃなくて、清澄自身に行動させることなんですよね。そういう意味でも、良い距離感のお芝居だったと思います。
桜田 そう言っていただけてうれしいです。監督の現場って、すごくナチュラルにお芝居ができるんです。仕草一つ、行動一つに違和感がない。それはやっぱり監督がワンシーンワンシーン丁寧に説明してくださっているからなのかなと思います。
風間 僕が好きなのは、自分がいることで清澄のクリエイティビティによくない影響を与えているんじゃないかと潮が思い悩むシーン。海辺に佇む潮が、海のざわめきと共に不安を表出させる。とても繊細なお芝居ですけど、ひよりさんの表情が抜群に良くて、あの表情を捉えられたときは高揚感がありました。
──清澄を演じた川西拓実さんのお話もぜひ聞かせてください。
桜田 ナチュラルに清澄でしたよね。川西さんもどこか掴めないところがあって。そんな川西さんが演じるから生まれた清澄があったというか。
風間 彼自身、お芝居の経験が他の人より少ない自覚も不安もあって。だからこそ、周りの人と軽やかにコミュニケーションをとって、なんでも吸収しようという姿勢を随所に見せていた。ひよりさんのお芝居を見て、とにかく「すげえ、すげえ」と言っていた姿が印象的です(笑)。
桜田 言ってましたね(笑)。
風間 お芝居をしていると、自分自身に潜って考える時間があるんですけど、そんなとき、川西くんはいつも一人になる。現場の隅っこで、一人で役と向き合っているんです。そういうところが清澄っぽいなと思いました。
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