2023.10.14 17:00
2023.10.14 17:00
人と人とのコミュニケーションの中心がSNSに移行し、リアルとバーチャルの境界が曖昧になった現代。どこか「映画内の世界」と割り切れない、“半バーチャル”の世界にフォーカスした映画『鯨の骨』が10月13日に全国公開を迎えた。
主演は落合モトキとあの。落合は結婚間近だった恋人と破局し、無気力に生きるサラリーマンの“間宮”、あのは架空のARアプリ、通称「ミミ」のカリスマ的存在“明日香”を演じている。監督の大江崇允をして表現力、身体力、感受性など、演技への素養や才能を絶賛された両者。共演は初だったという2人に、現代人特有とも言える“孤独”を演じた感想や互いの印象、そしてSNSとの関わり方などを聞いた。
私服で臨んだ1週間の“セッション”リハ
──映画『鯨の骨』は会話劇でもあり、人物の謎を説いていくミステリーでもあるというトリッキーな物語でした。足跡を辿っていくという意味ではロードムービー的な側面もあるのかなと思いながら見ていたんですが、脚本を読まれた感想はいかがでしたか?
落合モトキ(以下、落合) 僕はクエスチョンが多かったですね。読み終わった後に自分の中で「ここどうなってんの?」みたいな感じで、“王様の耳はロバの耳(通称「ミミ」)”っていうアプリがあるっていうのは分かったんですけど、その中で明日香と会話したり、触れそうになるまでいく描写があったので「え?明日香って存在するのかな」とか「僕の中の幻想なのかな」とか思ったりして、クエスチョンマークが多くて。見終わってからは「こういうことだったんだな」って気づくことが多かったかもしれない。
──撮影中にクエスチョンをどんどん自分の中で解消していった?
落合 そうですね。この撮影に入る前に1週間リハーサルがあったので、そこで分からないところは監督にちゃんと話したりして。そこで噛み砕いて現場に行ったんですけど、情緒がいろいろと振り回される立場だから、現場で監督と話しながら進めて、今回の作品ができたというところはあると思います。
──本編では他者とあまり関わらないまま、ずっと悶々としながら進んで行く人物でもあったから、そういう意味で孤独な作業でもありましたか?
落合 孤独で、自分の内側に入っていく芝居だったかと思います。でも、橋の上で凛ちゃん(横田真悠)と会って「これが私のアトリエなの」ってシーンは、安らげるというか、構ってくれたってところで憩いの場だったのかな。そこからまた明日香を探す一人の旅が続いたという感じですかね。
──あのさんはいかがでしたか?
あの 僕も初めて読んだ時は1回だけじゃ分からないようなところが結構あった感じで。何度も読んで、入り込むっていうより吸い取られる感覚が近かったかなって。僕も稽古とかで大江さんに分かんないところは聞いたりして、どんどん照らし合わせていきました。
──あのさんはあのさんで、落合さんとは別軸の孤独な世界の人物を演じられましたが、孤独感みたいなものはどういう風に演出されましたか?
あの 最初からずっと孤独なんだけど、ちょっとフィルターかけてる感じで、仮面を被るように明日香を演じるべきかなと思って。僕は演技のことは何も分からないですけど、そこらへんも監督と話しながら何とか明日香を演じていました。
──お2人は初共演ですよね。
落合 そうですね。初めてです。
──お互い出会う前の印象とかってあります?
落合 僕が見てるバラエティ番組に出られていたんですけど「どんな子なんだろうな」って思ったのが正直な感想だし、初めてお会いするまでは構えてたところあったかもしれないですね。でも会ってみたら一生懸命台本を読んでるし。一生懸命考えて、次の日は変わった芝居を持って来るし、真面目な子だなという印象になりました。
あの 演技を長く続けている方とメインで絡んでいくっていうのはプレッシャーで、「どうしよう、怖い人だったら」とか思いました。でも会ってみたらめっちゃ気さくだったし、バラエティも見てるって言ってくれて。実際に作品に入っても安心感があって、ついて行こうと思いました。
落合 1週間ジャージを着てお稽古するってわけじゃなく、私服で集まってセッションしていったんです。現場に行くと衣装に着替えてその場でカメラの前に立つことが絶対だったんですけど、今回その1週間であのちゃんの私服のいろいろなレパートリーも見れたので、人としてこういう格好するんだなっていうのが分かったりとかして。「それどこで買ったの?」とか、そういうセッションの一手にもなって、分かり合えたのかなと思いました。
──それは大きそうですね。お互い役として会って、カメラが回って「どうぞ」ってなるとこういう映画にはならなかったかも知れないですね。
落合 これだけ各々が単独で行動してる映画だからこそ知っていた方が良い傾向が出たんじゃないのかなと思います。
──あのさんは、落合さんの私服を見た時に「意外とこういうところがあったんだ」みたいなのありました?
あの おしゃれだなって思いました(笑)。
落合 やった!
あの おしゃれだし、僕も服好きで。それこそ1週間のうちにめっちゃ女の子らしい服を着ている時もあれば、古着っぽかったりもして。それは全然何も考えずにやってたけど「それどこの?」とか言ってくれて。
落合 編み物☆堀ノ内(ニット作家)を教えてもらいました(笑)。
あの そうそう。そこで「こういうの好きなんだな」とか思ったり、こんな僕でも分かり合える共通点があることもすごく嬉しかったです、はい。
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