実写化で向き合った課題と作品観、そして「人をわかる」とは
真木よう子×今泉力哉、2人のバランスが生んだ映画だけの『アンダーカレント』
2023.10.06 17:30
2023.10.06 17:30
映像化における課題は「セリフ」だった
──原作を読み直すと「こんなに言葉の多い漫画だったんだ」って思いました。かなり含みを持たせて、観る人に想起させるような描き方だったと思ったのですが、どう整えていったのでしょうか。
今泉 そうなんですよね。通常の漫画からの映画化って、どうそこにある描写や漫画的な表現を映像にするかが課題なのですが、「アンダーカレント」においての課題はセリフについてでした。この漫画が独特なのは、豊かな隙間や空気がたくさん漂っているのに、圧倒的なセリフ量もある。あのセリフ量って漫画だから成り立つというか、あのセリフを全部トレースして俳優さんに言わせたら「ずっと喋ってるぞ」みたいになる。そこを面白いまま、減らしてバランスをとって脚本をしあげるのにめちゃくちゃ時間がかかりました。現場に入ってからも、真木さんが「原作のこの言葉って大切じゃない?」って言ってくれて戻したりとかもありました。終盤の悟(永山瑛太)とのシーンなどがそうです。意味が変わらないよう気にしつつ、ただ、言葉で埋まらないようにもする。あとはロケ場所一つとっても天候一つとっても、みんながこだわって作ってくれたから、その空気になったかもしれないですね。
──真木さんは漫画を俯瞰して読んで、全体のバランスを考えて演じていたら、こんなに深みのある演技ができなかったのでは、と思うくらい、間や表情が印象的でした。
真木 そのへんは監督に全部委ねていたかもしれないですね。私はかなえちゃんを演じるっていうことしか考えてなくて。私の得意技って爆発的な芝居をすることだったりするんですけど、この作品では全員の声が耳障りが良くて、細野さんの音楽も大きかったんだなってことに予告編で初めて気づいたんです。「だから監督はあのとき“そこまで取り乱さなくていいよ”って言ったんだ!」とか気づいたりしました。説明セリフとかだったら自分の意見を言うと思うんですけど、そこまでセリフ量とかは私は考えていなくて。それよりも、気持ち的なことのほうが考えることが多かったですね。この気持ちになったときに「このセリフ抜かされたら、原作ファンとして“ん?”ってなっちゃうな」っていうところがあったら監督に言ったりとか。でもそれも多かったわけじゃなく、私はかなえちゃんの一番の理解者であることが大切だったので、それを意識してたって感じですかね。
──余談ですけど、劇中で着ていたフレッドペリーのジャージとかめちゃくちゃ可愛いなと思いました。
今泉 あ、それ。余談の余談ですけど、水色とグレー2つ使うか、1つにするかずっと議論して、結局2つ使いました(笑)。2つ持ってていいのかな? まあいいかみたいな。
──そこもリアリティがある印象だったんですよね。あの街のどこかに、渋谷から流れたフレッドペリー売ってそうだなって(笑)。
今泉 衣装は大事です。作品世界のトーンに関わるので。
真木 そうですね、確かに。
今泉 かなえって、たまにお出かけするじゃないですか? 山崎(リリー・フランキー)と会う時とか。衣装を決める際、僕はまず、基本的におしゃれな人かそうじゃないかで分けるんです。きちんとした格好も本当にきちんとした格好なのか、古着とかも着る人なのかとかをみんなで考えて、そのトーンで衣装を組んでいきます。あとは堀を演じた井浦さんが、原作の空気で着せてもかっこよくなっちゃうので、衣装さんの提案で作業着方向に全振りしました。サイズ感や柄もちょっとかっこ悪くして。
──ひたすらインナーシャツ出てますよね(笑)。
今泉 そう。あえてダサくするって日常生活ではしないことですけど、映画ではよくやる作業ですね。俳優さん、みんな整っているので。この間やってた現場でもポロシャツからTシャツ出てるみたいのがあって。あり得る? って思うんですけど、やっぱり大事な落とし方というか。
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