2023.08.02 17:30
にしな ライブハウスツアー「クランベリージャムをかけて」Zepp DiverCity公演より(写真:renzo masuda)
2023.08.02 17:30
ソファや本棚、クッションやおもちゃが並べられ、まるで自分の部屋のようなあしらいがされたZepp DiverCityのステージ。そこに静かに登場してきたにしなは、白いドアに赤いペンキで文字を書き始める。「with cranberry jam」──「クランベリージャムをかけて」。今回のワンマンツアーのタイトルであり、ちょうどこのライブの前日に配信がスタートした新曲の曲名でもある。
そんな演出を経て、「ランデブー」からライブは始まっていった。バンドメンバーの奏でるゆったりとしたグルーヴに身を委ねながら、にしなは身体を揺らしながら気持ちよさそうに歌う。先ほどのオープニングで一気に自分の世界へと惹き込んだだけあって、開演前はざわついていたフロアもじっくり聴き入っている。歌い終えると「やったー、最後、何やってもいいらしいから、ハメを外して楽しんでまいりましょう!」と語りかけ「東京マーブル」へ。前回のツアーよりもパワフルさを増したバンドの演奏の上で、にしなの歌声もいっそう豊かな力感をもって響く。歌詞を間違えても「めちゃくちゃ間違えた!」とすぐに言っちゃうあたり、本人もだいぶリラックスしているみたいだ。
ギターを弾きながら「真白」をエモーショナルに披露すると、浮遊感のあるイントロの電子音が夜空へと誘う「夜間飛行」へ。どれも何度もライブで聴いてきた曲たちだが、やはりこれまでとはこちらに届いてくる速度と強度が違う。そもそもソングライターとして特筆すべき個性とセンスをもっている彼女だが、それに加えてパフォーマーとしてもぐっと進化していることがはっきりとわかる。ときに叫ぶように、ときに囁くように、歌声の硬軟を自在に使い分けながら、メロディと言葉に身体ごと預けていくようなパフォーマンスだ。4曲を終えて改めて挨拶をするとフロアからは大音量の拍手が湧き起こった。「ファイナル、めちゃめちゃいい日にしたいですよね。私も頑張りますが、みんなにもかかってるから。最後まで燃え尽きていってもらえたらなと思います」。ライブでの彼女は決して饒舌なほうではないが、短いながらもフレンドリーなその言葉は、なんともいえない親密さを感じさせる。
その親密さゆえに次々と紡がれる楽曲もぐいぐいと胸に迫ってくる。張り詰めたような緊張感と膨れ上がる思いを切々と歌う「夜になって」、オーディエンスの手拍子が後押しするなか力強く刻まれるリズムの上で軽やかに歌声が躍る「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」。続く「U+」では、フロアにマイクを向けてシンガロングを誘うにしな。〈何者になれずとも もうきっと大丈夫〉というフレーズが外向きの共通言語としてZepp DiverCityをひとつにしていく。
そして前半のハイライトといっていい風景を生み出したのが「透明な黒と鉄分のある赤」だ。ギターでの弾き語りから一気にギアを上げて曲に入っていくと、ダンスミュージックのニュアンスもふんだんに取り込まれたロックサウンドがフロアを躍動させる。歌い終えると「ふあー!」と大きく息を吐くにしな。「一緒に歌えるの、最高だ! 声出しライブって最高だ!」と笑顔を見せつつ、「サイ」「コー!」とか「ゼッ」「プー!」とか「トー」「キョー!」とか、単語を分けてコール&レスポンスを展開。即座に反応して声を返してくるオーディエンスも見事だ。その流れでメンバー紹介をしつつ各メンバーも同じようにコール&レスポンスを繰り広げていく。そのなかでもギターの真田徹は「おととい、にしなちゃんたんじょう……」とナイスなコール。そう、このライブの一昨日にあたる7月25日はにしなの25歳の誕生日。もちろんフロアからは「びー!」と大きな声が巻き起こった。
そしてソファに座り、アコースティックギターをつま弾き始めるにしな。そこから立ち上がって歌い始めたのは「春一番」だ。ピンと張り詰めたような楽曲が続く中に穏やかなアコギの音とシンプルなバンドサウンドがじんわりと染み渡る。この曲を境にライブは後半に突入。リラックスした雰囲気で伸びやかな歌声を響かせた「centi」を経て、広がりのあるサウンドが会場に響き渡る。にしなにとってのターニングポイントを刻んだ「青藍遊泳」だ。曲にちなんだ青い光がステージの上を美しく照らし出す。
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