1960年代と80年代を中心とした全9作品を上映
「追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭」が4月28日より開催
2023.03.28 18:00
2023.03.28 18:00
4月28日(金)から5月18日(木)までヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて「追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭」が開催されることが決定し、全9作品のラインナップと予告編が解禁された。
2022年9月13日にこの世を去ったジャン=リュック・ゴダール。『勝手にしやがれ』で世界を驚愕させて以降、“ヌーヴェル・ヴァーグ“の旗手として作品を発表するごとに注目を浴びた映画監督だが、本特集上映「追悼 ジャン=リュック・ゴダール映画祭」では、1960年代と80年代を中心に滅多にスクリーンでは観ることのできない下記の全9作品がラインナップされる。
『小さな兵隊』(1960年)は極右のOAS(秘密軍事組織)およびこれと対立する組織FLN(アルジェリア民族解放戦線)の間で翻弄される男女のスパイを描いた長編第二作。60年に完成していたが、アルジェリア戦争を主題とし、両組織による拷問を批判的に描いたことで63年まで公開されなかったいわくつきの作品。アンア・カリーナが初めて出演したゴダール映画でもある。二人は本作完成後に結婚した。
『カラビニエ』(1963年)の題名は「歩兵たち」の意。イタリア人作家ヨッポロの同名舞台劇に基づく寓話的反戦・反帝国主義風刺劇となっている。前年に同劇を演出したロッセリーニが、脚本家の一人として名を連ねる。架空の国の貧しく学のない若者二人が、世界の富をわがものにできるとの甘言に釣られて「王様」からの徴兵に応じ出征、破壊と略奪の限りを尽くす本作は、ジャン・ヴィゴに捧げられている。
『はなればなれに』(1964年)は先頃邦訳が刊行されたアメリカ人作家ヒッチェンズの小説に基づく作品。若者二人組とナイーヴな娘が織りなす三角関係と彼らの犯罪計画を軸とした、奔放な悲喜劇となっている。物語の内と外を自在に出入りする、ゴダール自身の声によるナレーションもユニークな一作だ。
『ウイークエンド』(1967年)の主人公は各々愛人がいて、密かに互いを殺す機会をうかがうプチブル夫婦。二人は遺産相続のため妻の実家へと車を走らせるが、この長旅はトラブルや奇妙な人物たちを通じて次第に混沌とした非現実的なものへと変貌していく。性と政治の季節に作られたポストモダン的黒い喜劇であり、交通渋滞を描いたくだりの移動撮影は、映画史上最も長いものの一つだとされる。
『パッション』(1982年)の主人公は欧州古典絵画の数々を活人画として再現した、芸術映画製作に取り組む野心的ポーランド人監督。国際的製作班による「(完成しない)映画作りを描いた映画」としての側面を備える本作は、夏の陽光に満たされたかつてのゴダール映画『軽蔑』を冬の光の中で再創造する。
『カルメンという名の女』(1983年)はテロリストと思しき集団と共に銀行を襲撃する美貌の娘カルメンと、彼女と恋に落ちた警備員ジョゼフがたどる数奇な運命を描く。そこにカルメンのおじで精神病院に入院中の元映画監督ジャン(ゴダール自身が演じている)およびベートヴェンの弦楽四重奏曲を練習する演奏家集団が交差しつつも、悲喜劇的なラストですべてが合流する、ゴダール流“カルメン映画”と言われる。
『ゴダールのマリア』(1985年)は聖母マリアをスイスの女子学生マリーへと変換し、イエスの処女生誕の物語を現代に置き換えて語り直した挑発的な作品。カトリックの教義に言及しつつ、マリー役のルーセルが全裸となる場面があるためヨハネ・パウロ二世に批判され、上映禁止措置がとられた国もある。また抗議活動や爆破予告の対象となった劇場もあり、各国で物議を醸した。
『ゴダールの探偵』(1985年)は探偵と刑事、ボクシング関係者、飛行士夫妻、老いたマフィアらが滞在中のホテルで交差する姿を、スター俳優を起用して描いた犯罪群像悲喜劇。『マリア』の完成資金を稼ぐためにゴダールが引き受けた企画で、カサヴェテス、イーストウッド、ウルマーに捧げられているのもそれぞれ商業的要請の中で見事な犯罪劇を撮った彼らへのオマージュと受け取れる。
『ゴダールの決別』(1993年)では、ある男がスイスの小村で数年前に起こった出来事を調査する。一連の回想を通じて明らかになるのは、夫が出張中、妻のもとに夫の姿を借りた神が訪れた、という摩訶不思議な話だった。ギリシャ神話中のゼウス神が夫に化けて人妻と時を過ごす伝説に想を得た、人間の欲望、苦悩、歓びを巡る真実を経験したいとの神の願望を巡る物語だ。
本映画祭のメインビジュアルでは、アンナ・カリーナが初めて出演したゴダール映画でもある『小さな兵隊』や各国で物議を醸した『ゴダールのマリア』はじめ全作品のスチールがデザインされている。併せて解禁された予告編は『カルメンという名の女』での使用曲で印象深いベートーヴェン「弦楽四重奏曲」にのせたオープニングから始まる。そして『小さな兵隊』からアイコニックな『はなればなれに』のダンスシーン、「最も美しいゴダール映画の一本」とも評される『ゴダールの決別』まで上映作品を各シーンごとに紹介している。