驚き・批判の声が挙がっている理由を考察
第95回アカデミー賞ノミネーションが発表 その結果は意外なものに
2023.01.26 17:00
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2023.01.26 17:00
1月24日22時30分(日本時間)から発表された、2023年度のアカデミー賞ノミネーション。例年最も注目される作品賞をはじめ、主演男優賞や女優賞、監督賞といった主要部門のほか、音響賞や撮影賞までの合計23部門においてアカデミー会員が投票した作品や人物らがノミネートされた。前哨戦として謳われるゴールデン・グローブ賞も先日執り行われ、その結果や例年のアカデミー賞の結果から、我々はノミネート作品や人物を予想していた人も多いはず。しかし、今年は予想外な結果になったものが多い印象だった。
まず最多の10部門でのノミネートを飾ったのは、ゴールデングローブ賞でも主演女優賞、助演男優賞(ともにミュージカル/コメディ部門)を獲得した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。北米では2022年の3月25日に公開され、ストリーミング解禁後もかなりの話題を呼んだ。日本では約1年遅れとして、2023年の3月3日に公開予定である。気鋭スタジオA24が製作・配給した本作は、破産寸前のコインランドリーを経営する中国系アメリカ人の主人公エブリンが、気弱な夫のウェイモンドと共にある日突然並行世界(マルチバース)にトリップしてしまう、というSF作品。エブリンを演じたミシェル・ヨーはゴールデングローブ賞に引き続きアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、なんとジェイミー・リー・カーティスとステファニー・シューの2名が本作から助演女優賞に選抜された。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に続いてノミネーション数が多かったのは、9部門で並んだマーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』とエドワード・ベルガー監督の『西部戦線異状なし』。続いて、オースティン・バトラー主演の『エルヴィス』が8部門、スティーヴン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』が7部門という結果となった。
どれも受賞候補として力強い顔ぶれが並ぶが、それでも今年は予想外なノミネーションや、逆にノミネートされなかったことが予想外な作品・人物が多く指摘されている。まずは現在国内でも大ヒットしているインド映画『RRR』について。本作はインドおよび北米で3月に、日本では10月に公開され全世界でスマッシュヒットしている。ゴールデングローブ賞で歌曲賞を受賞したが、そのヒットぶりとファン人気を考慮した上で作品賞への選出も予測されていたのだ。しかし、残念ながら本作は歌曲賞のみで、国際長編映画賞にさえノミネートされていない。国際長編映画賞といえば、高い評価を得ていたパク・チャヌク監督の『別れる決心』も本部門に限らず全てのノミネーションを逃してしまった。それに対し、ドイツ製作の『西部戦線異状なし』は作品賞と国際長編映画賞のどちらにもノミネートされ、強い存在感を放っている。
俳優部門に関しては、ブレンダン・フレイザー(『ザ・ホエール』)のゴールデングローブ賞に続くノミネートが喜ばしいことだ。フレイザーは2003年にゴールデングローブ賞の主催団体である「ハリウッド外国人映画記者協会」の会長からセクハラを受けていたことを2018年に告発。実はそのセクハラが原因で、『ハムナプトラ』シリーズなどに出演し人気も高かった全盛期に、第一線から退いていたのだ。加えてうつ状態にもあったが、#MeToo運動が盛んに行われはじめたタイミングで告発に踏み切った。その裏で、「ハリウッド外国人映画記者協会」は彼をブラックリストに入れたり、彼の出演作をボイコットしたりと酷い仕打ちをしていたことも判明している。そんな彼だからこそ、こういったアワードにノミネートされたことが感慨深い。
フレイザーのノミネートされた主演男優賞の部門は、『エルヴィス』でエルヴィス・プレスリーになりきったオースティン・バトラーや、ゴールデングローブ賞で主演男優賞(ミュージカル/ドラマ部門)を獲得した『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレルの受賞も有力視されている。しかし、そこに『トップガン マーヴェリック』で活躍したトム・クルーズの名前がないこと(そして本作が撮影賞の部門にノミネートされていないこと)に対して批判の声も。助演男優賞ではゴールデングローブ賞で受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のキー・ホイ・クァンがノミネートされているが、前哨戦とは少し違う顔ぶれだ。特に『フェイブルマンズ』のジャド・ハーシュや、『その道の向こうに』のブライアン・タイリー・ヘンリーの選出に驚きの声があがっている。
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