2022.12.25 12:00
2022.12.25 12:00
そこは、私の世界を変える入口でした──学校で居場所をなくした7人の中学生の前に突如現れた鏡の向こうの世界で、狼面の少女“オオカミさま”と繰り広げられる、この冬感動のファンタジー・ミステリー作品。直木賞作家・辻村深月のベストセラー小説『かがみの孤城』が劇場アニメ化され、12月23日(金)に全国公開を迎えた。
監督は映画『クレヨンしんちゃん』シリーズや『カラフル』『河童のクゥと夏休み』など数々の名作を生み出した原恵一、制作は『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などを手がけるA-1 Picturesという、アニメ界屈指のタッグ。さらに北村匠海、宮﨑あおい、芦田愛菜ら豪華役者陣が声優を務めており、中でも1,000人以上のオーディションから選ばれた主人公・こころを演じる當真あみに注目したい。
本作では感情の移り変わりが映像美とともにリアルに描かれており、ストーリーを彩る音楽もまた監督のこだわりのひとつだ。そんな本作について、制作の過程で感じた想いやアニメーションに命を吹き込むことへの姿勢などを原恵一監督に語ってもらった。
絶望的な気分になる作品は作りたくない
──本作はほかに類を見ないジュブナイル作品で、ファンタジーでありながらミステリーの要素もあるという物語ですが、原作を読んだときの印象はどうでしたか?
2010年に公開した『カラフル』という作品があって、中学生の自殺を扱った話だったんです。だから悩みを抱えた中学生の物語となると『カラフル』にちょっと似てしまわないかという心配があったのが、最初の印象ですね。でも実際に引き受けてやることになって、絵コンテを描き始めたら『カラフル』とは違うおもしろさを発見することができました。だから、(『カラフル』とは)まったく違う映画になるなと思いました。
──ありがとうございます。『カラフル』が公開されたのは2010年で、そこから12年経ち再び同年代の若者を描くにあたり、この12年の間で変わったなと感じたことはありますか?
うーん、いや、そんなに大きくは変わってないと思います。なんらかの理由で学校に行けない子はいつまで経ってもいなくならない現実があって。たぶん原作の辻村深月さんはそれをわかってるんですよね。だけど、そういう子たちを助けることはできるはずだと信じていると思うんです。だから文学であったり、映像であったりとか、大人たちがなんとかつらさを取り除いてあげるようなことをしないといけないなと思います。僕の場合だと作る映画を観て、観る前と観たあとでいい方向に気持ちが変わっていたらいいなって。青臭い願いはいつも持ってるんですよ。もう、ジジイと言われる年齢ですけど(笑)。
──たしかに救済における選択肢はとても増えたと思います。フリースクールをここまでフィーチャーした作品は珍しいですし、改めて表に出ることで多感な時期の子供たちにとっての大きな進歩にもなり得る描写です。しかもそこに愛と理解がすごく溢れていたなと。
つらい思いをしている子たちの現実を描いた物語って、アニメーションではそれほど作られていないかもしれないですね。むしろアニメーションっていうのは、もっとファンタジーだったり、異世界で楽しむという体験をする見方をする人が多かったり。ただ、そういうテーマを扱ってても最終的には“救い”を伝えたいので、今回それはうまくいったんじゃないかと僕は思ってます。
──そうですね。監督の諸作品を拝見すると、ファンタジーな世界だけでなく、きちんとその作品の現実に対しての向き合い方を描いている内容が多いような気がします。僕の中での監督の作風のひとつになるんですけど、現実に転用できる読後感というか、それは一貫して意識されていらっしゃるんですか?
人を信じる人もいれば信じない人、もしくは現実は厳しいものだと、人生はつらいものだと思う人がいると思うんです。けど、僕は絶対そうじゃないって思いたいんですよね。思いたいんですよ、願望として。だから自分が作るものにも、観て絶望的な気分になったという作品は作りたくないし、物語の中で絶望を描いても、その先に救済があるという作り方をずっとしてきてるんです。
次のページ