2022.11.26 17:00
中央:《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年
2022.11.26 17:00
現在大竹伸朗(1955-)の大回顧展が、今年開館70周年を迎える東京国立近代美術館で開催されている。
大竹伸朗といえば、「大竹文字」と呼ばれる独特な書体で描かれた《ニューシャネル》Tシャツを思い浮かべる人も多いだろう。それは名盤のアートワークがプリントされたバンドTシャツのごとく、古さを感じさせない定番アイテムとして愛され続けている。大竹は、1980年代の初頭に世界で同時多発的に発生したニュー・ペインティングの旗手として、華々しくデビューしたアーティストだ。それまでの時代で主流とされていた、コンセプチュアル・アートやミニマル・アートの削ぎ落とされた表現とは真逆をいく、大胆で荒々しささえ感じる絵画や版画、素描、彫刻作品を生み出してきた。
そして今日に至るまで、日本の現代アート界におけるトップランナーとして精力的に活躍し、映像や絵本、音、エッセイ、インスタレーション、そして巨大な建造物などへと表現の幅を広げながら、おびただしい数の多様な作品を生み出してきた。その活動は海外でも評価され、2012年にはドクメンタ、2013年にはヴェネツィア・ビエンナーレなどの国際美術展に参加。日本でも、国指定重要文化財「道後温泉本館」の保存修理工事現場を覆う巨大なテント幕作品《熱景/NETSU-KEI》が2021年12月から3年間にわたって公開されている。
今回の展示は、幼少期に制作された最初期の作品から、国際展に出品した作品、コロナ禍に制作された最新作まで、半世紀近くにわたる大竹の仕事を、年代順ではなく7つのテーマを軸に振り返る。その展示数はおよそ500点にも及び、大竹がこれまでの制作で手がけてきた、多様な素材やイメージ、手法を、圧倒的な密度とボリューム感の中で見てとれる展示になっている。
会見での大竹は、この密度への向き合い方について、「先にテーマをつくらない。気の向くままにつくっています」と語る。
その理屈を越え、飲み込まれそうなほどのパワーに溢れた展覧会の様子を一部ご紹介しよう。
建築ごと作品。大竹伸朗の世界に没入しよう
東京メトロ東西線・竹橋駅を出て徒歩数分、皇居に隣接する北の丸公園に東京国立近代美術館はある。谷口吉郎氏が設計した重厚感のある建物を見上げると、普段はない「宇和島駅」という古びたネオンサインが設置されていることに気づく。
このネオンサインは、これまでも個展をする際に会場となる美術館に作品として設置されてきたもの。「自分が移動することによって、宇和島駅と東京国立近代美術館の文字が重なったり離れたりする。それは自分にとってはある意味コラージュだし、層だと捉えていて、そこにも一種の密度を感じるんですよ」と大竹伸朗が語るように、「東京国立近代美術館」のサインと、1988年から大竹が制作の拠点としている愛媛県宇和島市の旧駅舎にあった「宇和島駅」のネオンサインが交差することで、建物ごと大竹のフィールドに引き込まれているような感覚を覚える。
会場は3年という年月をかけて綿密に構成を練っていったといい、「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」という7つの展示テーマが掲げられている。しかしそれらは、時代順でもなければ、空間が明確に区切られているわけでもない。テーマ同士がゆるやかにつながり合うことで、大竹がいくつものテーマを繰り返し、折り重ねながら進化してきた様子が伝わる内容となっている。
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