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COLUMN

宍戸里帆のViddy Well #1

見ることで“それ”を超えてゆけ

2022.11.14 17:00

2022.11.14 17:00

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1895年12月28日、パリのグラン・カフェに生み落とされたそれは、誕生と同時に未来を失った。
この日が所謂、〈映画が生まれた日〉である。
しかしこの日付はカメラが作られた日でもなければ、初めて撮影が行われた日でもない。
なぜか“それ”は、人々の前で初めて上映された日を誕生の瞬間とした。

皆様、はじめまして。
この度、Bezzyにて映画に関するコラムを書かせていただく事になりました、AV女優の宍戸里帆です!
私の事を知らない方は、何故AV女優が映画に関する文章を書くのかを不思議に思う事でしょう。
逆に、既に私の事を知っている方は、私からやっと映画にまつわる話が聞けると思っていただけているかもしれません。

簡単な自己紹介をしておくと、私は今年の3月にムーディーズさんから専属女優としてAVデビューさせてもらいました。
現在も都内の大学に通いながら、学業と性の探求に勤しんでいます。
普通の大学生の私がどうしてAVデビューするに至ったかという詳しい話は自身のnoteにて詳細に綴っているので、気になった方はこちらも読んでいただだければ幸いです。

そして、なぜ私が映画のコラムを書くのかという事についてですが、私と映画、それは宍戸里帆としてAVデビューした時から既に切っても切り離せないような関係にありまして(というより、自分からそうなるように誘導したと言った方が適切かもしれませんが)、クーリンチェより長い私のデビュー作をご覧になられた方は事態を把握されている事かと思います。

そんな私が、もし、映画についての文章を書く事があるのならばその時はまず、映画の死、とりわけ、その誕生にまつわるひどく魅力的な話から始めようと密かに決めていました。
映画の誕生に関する言説は様々あるものの、最も象徴的かつ最もスペクタクルなあの日の出来事をその始まりとするのなら、冒頭で述べた些か悲観的なおとぎ話がまさしくそれであり、むかしむかしあるところに──それが1895年12月28日のパリ、グラン・カフェにて──生まれたばかりの映画がまとうその陰鬱さ、それこそが、映画が私を強く惹き付ける一番の理由なのです。

そんな私が今から皆様にするお話は、死と隣合わせの芸術、映画について。
テレビやリモコンの登場、実際はそれ以前から映画は何度も死を経験しており、むしろ、映画が誕生と同時に歩んできたその道のりには死の誘惑のみが広がっていたとさえ思える。
ベルクソン(※1)によって「制止したイメージの連続は本当の意味での運動をとり逃すだけである」と批判され、コクトー(※2)には「映画とは現在進行形で死を捉える芸術だ」と喝破された。
あの日、リュミエール兄弟(※3)が残したと神話的に語り継がれる「映画に未来はない」という言葉が本当ならば、生まれたばかりの映画は誕生した瞬間から死だけを見つめていた事になる。

幾度となく繰り返されてきた”映画の死”、その渦の真っ只中に私たちは確かにいた。
一時、コロナで無観客となった映画館。
「映画が生まれた日」が同じくして「観客が生まれた日」なのならば、観客が消えた映画館は映画の棺桶も同然であった。
それは死を捉える映画そのものが、まさに現在進行形で死にゆく様。
あの日、誰もいない観客席を見て、映画は何を思ったのだろうか。

そんな映画を巡る日々の中で、ことある事に私が立ち返る先は、やはり「みること」という原体験についてである。
常に映画は、我々が今までなら見落としていたもの、見ようとしてこなかったもの、見えていなかったもの、そして”それ自身が見られる為にそこにいた訳では無いもの”が放つ、無垢な輝きを映し出す。

それは例えば、食事をする赤ん坊を映しただけの映像(※4)における、赤ん坊の後ろで風にそよぐ木の葉が揺れているごく当たり前の光景、その動きのまるで奇跡のような美しさと感動を、初めて映画というものに触れた時代の人々が讃えたように。
ここで強調すべきは、貴方が映画の反復の歴史に埋めいていたとしても、意気消沈する必要は無いという事だ。

今日に生きる我々も、まだこの世に存在しない全ての人々も、127年前の彼らと同じ強度でもってその感動を追体験する事は出来る。
「みること」の真価はそこにある。
映画が映し出す世界と私たちの生きてきた現実が地続きであると実感する瞬間、それこそが「映画をみること」の幸福なのだ。

そんな「みる」という行為に晒され続ける映画が、私たちに提示し続ける一種の情念。
それは、映画を映画たらしめる、そして、観客を観客たらしめる、「みられる」というもう一つの並行世界。
自身が「みられる」存在である限り、映画は何度でも甦る。
そこに不死鳥のような煌めきは無くとも、生ける屍のように再生する。
静かに、ある種、とても無機質に。

そんな、誰かに「みられる」事でようやく己の存在を自認出来るもの。
何と高慢で、孤独な存在。
寂しがりで、ナルシシズムに満ちた、“それ”の眼差し。
今まで見落としてきたもの、そして今でこそ見逃してはならないないものとは、映画を通じてあらわになった世界の様態だけでなく、映画それ自身が観客に投げかけるひたむきな視線そのものである。
それは私が「みられる」職業であるAV女優になった理由にも通づる根源的な欲望であり、それらはいつだって「みる」という行為から始まっていて、「みられる」立場にある者だって、あなたの事を「みている」。

私が映画をみている。
映画が私をみている。
その琴線に触れた時、映画の、そして世界の見え方が一新するのだ。

例えばそこは、満席の映画館。
無防備なまま固定される無数の身体に、絶えず浴びせられる映画からの視線。
“それ”をスクリーンで一目見たいと集まった者たちの、圧倒的な呼吸の数。
映画を見るという行為は、まさに同じくして映画を見ている者の、聞こえるはずのない鼓動の高鳴りや、見えるはずのない興奮による紅潮、そして映画館を出たら最期、もう知ることのない彼らの素性の中にその身を置くサスペンスフルな空間で、映画を見ているほんの僅かな時間にのみ仮初の生を体感する事である。

未来はないと何度言われようと、誕生した瞬間から死だけを見つめていた”それ”に私が永遠の命を求めてしまうのは、自身が観客としてその生を体感出来る僅かな時間が愛おしい、ただそれだけの事なのである。
観客という現在進行形の生が、映画という現在進行形の死に注ぐ熱い眼差しを、“それ”は今後も忘れることはできないだろう。

そんな映画の死の瞬間と再生の未来に間に合ってしまった私たちからの追悼と礼賛。
深い闇の中で見る者を待ち続ける孤独な“それ”に、生きた視線を差し伸べて、闇を切り裂く映画の視線を受け止める。
いつだってその目を逸らさないように。
映画、その存在が朽ちるまで。


撮影協力/シネマノヴェチェント

※1 アンリ=ルイ・ベルクソン(Henri Bergson, 1859-1941)
フランスの哲学者であり、同時代に現れた映画に対し自身の哲学的思想の観点から批判を行った。だがその一方で、「ベルクソン」と「映画」の本質的な親和性ないしはベルクソニスムを基点とした映画理論を唱える哲学が主流化したのは、何よりもまず両者が「運動(=持続)」に対する興味という点で通底している事に起因する。

※2 ジャン・コクトー(Jean Cocteau, 1889-1963)
フランスの詩人、小説家、批評家、映画監督等、芸術全般において多彩な顔を持つ人物。

※3 リュミエール兄弟
兄:オーギュスト・リュミエール(Auguste Marie Louis Lumière, 1862-1954)
弟:ルイ・リュミエール(Louis Jean Lumière,1864-1948)
「シネマトグラフ」を発明し、世界初の映画の興行上映を成功させた。
この映画装置が現在の映画鑑賞の原型となる。

※4 『赤ん坊の食事』(“Le Repas de Bébé”, 1895)
リュミエール兄弟によって制作された映画。世界初の映画の上映会にて上映された。

おまけ

最後まで読んで頂きありがとうございました。
モノクロの写真は駅に向かうタクシーの中でまくらさんがふとカメラを構えて撮ってくれた一枚です。
まさか使われると思わなかったので気抜いた顔してますね😂笑

今回は初回という事で私と映画そのものを巡るエッセイのようなものでしたが、次回は皆さんも気になっているであろうこのコスプレと「Viddy Well」というタイトルの意味に迫るコラムになる予定です。

お楽しみに!

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作品情報

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

©️1991 Kailidoscope

©️1991 Kailidoscope

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

1991年製作/236分/PG12
原題:牯嶺街少年殺人事件/A Brighter Summer Day

作品紹介:BBCが1995年に選出した「21世紀に残したい映画100本」に台湾映画として唯一選ばれ、2015年釜山映画祭で発表された「アジア映画ベスト100」において『東京物語』『七人の侍』『悲情城市』などと並びベスト10入りするなど、映画史上に残る傑作として評価されている。

視聴はこちら

スタッフ&キャスト

監督:
エドワード・ヤン

出演:
チャン・チェン『レッド・クリフPartI& PartII』『黒衣の刺客』
リサ・ヤン
ワン・チーザン『カップルズ』
クー・ユールン『ヤンヤン 夏の思い出』『ラスト、コーション』
エレイン・ジン『ヤンヤン 夏の思い出』
ほか

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