2022.09.13 17:00
2022.09.13 17:00
限りなく精巧な楽曲と、どこまでも自然体のMC
妥協のない曲の良さに浸っていると、MCでの素とのギャップに笑わされるのだが、つまりライブは純正さとうもかを堪能できる場所ということでもある。ドラマのタイアップに初めて挑んだ「魔法」では「途中、迷走しながら半年間くらいかけて40曲ぐらいのメロディを作った。どれがいいか分からなくなってしまったりもしたけど頑張り続けて最後にたどり着いた曲」と語った。今のJ-POPの潮流にある言葉数の多さ、サビ中でも転調するフックなど、キャッチーさでは図抜けた曲だが、演奏は飽くまでもアレンジに主眼を置いた繊細さ。情報量の多い歌をしっかり聴くことができた。
ちなみにドラマ『リノベの魔法』にたびたび登場する“まるふくろう”を抱えたり、次の「アイスのマンボ」ではアイスクリームのバルーンアートが設置されたり、なかなかに忙しい。さらに目覚まし時計のベルから始まる「Mr. pretz」も実物の目覚まし時計を使い、1曲ごとに見せたいもの、聴かせたいものを伝える細やかさ。そして〈恋をすると人間になっちゃうって〉という、さとうもか節が凝縮された歌詞を持つ「Lukewarm」を彼女のエレガットギターの弾き語りが軸にあるアレンジでとても近く感じられた。近さを感じるアレンジから一転、ジャズピアノに乗り、2階のポーチにMC(マスター・オブ・セレモニーの方の)が登場。英語の前説から始まるミュージカルショー的な「April in my memory」がオーセンティックな曲を彩った。
今回のライブのテーマの一つである夏に因んで夏の思い出を語るさとう。アルバム『GLINTS』もそうだと話したあとで、中学時代、ボランティアをすると内申点が上がるのというので、彼女は保育士のボランティアに参加。でもそこで乳児のう○こがついたまま部活に行ったことが後からショックだったとか。そして今後の目標は「パンを焼くこと」と、「え?そこ?」と笑わせたあと、「みんなが座って楽しめるデカ目のホールツアー」と、音楽家の目標を思い出したようだった。
終盤はブルージーなニュアンスもある堂々たるハチロクナンバー、「愛ゆえに」からスタート。本当のことをシンプルなアレンジで歌う曲を持っていることの強みを見せた。続く「My friend」はポエトリーのようなラップ調のメロディが独り言のようにも聴こえ、それが友達とか親友とか確認するのも違うような、存在していることが日常の光になるような誰かをイメージさせる。人との距離に敏感であるからこそ、取りこぼさないように丹念に言葉を選ぶ姿勢がまっすぐ届く「舟」。歌い始める前に「別れで悲しくなっても全部覚えていようと思った時、作った曲です」と紹介してくれたことで、より深く演奏に没入できた。
手作りのエンタテイメントだし、とても楽しいステージであると同時に、ドクドクと自分の心拍を感じ、生き物であることを思い出させるリアリティ。一連なりのストーリーである、恋に落ちる「melt summer」のレア選曲と、代表曲である「melt bitter」を続けて演奏したことはさとうもかを理解する上で大きな役割だったのではないだろうか。彼女のライブに時々登場する巨大な熊のぬいぐるみ“ボス”をぶん回しながら歌う姿に、シンプルに踊れるこの曲を楽しんでほしい気持ちも透けて見えた。
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