伝統を守りながら“歌舞伎の革新”を追求
中村獅童、念願の新橋演舞場公演は「日々、戦い」。『超歌舞伎2022 Powered by NTT』開幕
2022.08.23 08:00
2022.08.23 08:00
2022年8月21日(日)、『超歌舞伎2022 Powered by NTT』が新橋演舞場で開幕。その前日の8月20日(土)、劇場では記者会見と通し稽古が行われ、主演を務める中村獅童とその長男・小川陽喜、共演の澤村國矢が登壇した。
そもそも、『超歌舞伎』とはなにかというと、2016年に幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議2016」の一企画としてスタートしたもの。古典歌舞伎にNTTが誇る最新テクノロジーを融合させ、ド派手な演出とともに中村獅童ら歌舞伎俳優と「初音ミク」らボーカロイドのスターが“競演”するというかつてない試みは大きな話題を呼び、一躍「超会議」の目玉コンテンツとなってゆく。2019年には京都南座で劇場進出を果たし、今年2022年は8月4日(木)の福岡を皮切りに愛知、東京、京都の4都市で公演と、念願の全国ツアーが実現。今回の新橋演舞場は、東京では初めての劇場公演となる。
……と。普通だったらここで『超歌舞伎』の内容と記者会見の模様を普通にお伝えするのだが、この『超歌舞伎』、伝えたい情報量があまりにも多い。そのため、ポイントごとにピックアップして出演者の言葉とともにお伝えしようと思う。
①『超歌舞伎』は“参加型”
この『超歌舞伎』が通常の歌舞伎と違うところは、なんと言ってもペンライト。アニソンやアイドルのライブではおなじみのペンライトの海が、歌舞伎公演の客席に現れるのだ。また劇中でもこの客席のペンライトが意味を持つなど、通常の歌舞伎公演ではまず類を見ない“観客参加型”という特徴がある。
「幕張でやるときみたいに初音ミクさんのファンがたくさんいて、ペンライトを振るのが当たり前の状態とは、歌舞伎の劇場は違う。歌舞伎ファンの年齢層が高い方たちはそもそもペンライトを振るなんていう経験がないわけですから、今回も初めての土地に行くまでは非常に反応が心配だったんですけど。だから解説でいろいろと説明をして、結果的に博多座ではペンライトが完売しました。圧倒的に持ったほうが楽しいんです!」(中村獅童)
この参加型ならではの一体感と熱狂が、『超歌舞伎』を人気コンテンツにした一因であるのは間違いない。また新橋演舞場は俳優たちとの距離感がニコニコ超会議が行われていた幕張メッセイベントホールよりも格段に近いために、よりその魅力が増す。ちなみに初音ミクファンは法被を着て参戦する人が多く「法被姿の人を見つけると心強い」とのこと。これまでの公演でも、慣れない歌舞伎ファンに初音ミクファンがペンライトの使い方を指南する光景が数多く観られたらしく、このボーダレスな光景も『超歌舞伎』の楽しさだ。
②新しいことをやっていても、きちんと「歌舞伎」である
今回の演目は、まず超歌舞伎の楽しみ方とその魅力を案内する『超歌舞伎のみかた』で開幕し、長唄舞踊『萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)』、そして今年4月のニコニコ超会議で初お披露目となった新作『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』というラインナップ。
まず『萬代春歌舞伎踊』に初音ミクが登場し、見事な舞踊を披露した瞬間、『超歌舞伎』初体験の多くの人が驚くのではないだろうか。「舞台上で再生されている映像」とは思えないその臨場感、踊りのクオリティ……。いつしか、普段歌舞伎を観るときと同じ用に“いち演者”として観ている自分に気がつく。
『永遠花誉功』は、大化の改新のきっかけとなった「乙巳の変(いっしのへん)」における蘇我入鹿討伐を題材とした歌舞伎の作品と、初音ミクの代表曲のひとつ『初音ミクの消失』の世界観をもとに書き下ろされたもの。「乙巳の変」をモチーフにした作品といえば、歌舞伎の有名演目『妹背山女庭訓』が思い浮かぶ。そういった古典歌舞伎の要素をしっかりと取り込みつつ、歌舞伎の様式美をきちんと守りながら、最新技術とともに新たなエンターテインメントとして成立させる……その絶妙なバランスが『超歌舞伎』の凄さと言えるだろう。これは演出・振付を担う藤間流宗家・八世藤間勘十郎をはじめ、歌舞伎の世界でも活躍する第一線のスタッフが揃っているというところも大きい。
「僕らは伝統の古典を守りつつ、革新を追求するというスタイル。『伝統と革新』です。バーチャルとコラボレートであっても、歌舞伎の約束事とかはみ出ないに心がけている。ただ、最後のお客様を煽るところだけは“獅童ちゃんスタイル”になっちゃいますけど(笑)」(中村獅童)
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