7年間葛藤し完成した集大成作品、主演はロドニー・ヒックス
塚本晋也監督が戦争映画のタブーに切り込む『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』9月公開
2026.03.29 10:00
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
2026.03.29 10:00
鬼才・塚本晋也の監督最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(英題: Mr. Nelson, Did You Kill People?)が9月より日本公開されることが決定した。
ベトナム戦争の加害者としての痛みを描く本作の原作は、実際に従軍したアレン・ネルソンが自らの戦争体験と帰還後の葛藤を綴ったノンフィクション。ネルソンはその体験をもとに日本全国で1200回以上の講演を行い「ほんとうの戦争」を語り続け、その姿は多くの聴衆に深い衝撃と学びを与えた。今回の映画化では、その証言をもとに塚本晋也監督が「戦争加害者の傷」というタブーに切り込む。なお塚本監督にとって、国際的な評価を受けた『野火』(2014)『斬、』(2018)『ほかげ』(2023)に次ぐ戦争をテーマにした作品となる。
主人公はニューヨークの貧しい家庭に生まれ、差別と貧困から抜け出すため18歳で海兵隊に入隊したアレン。沖縄のキャンプ・ハンセンを経た1966年、映画のヒーローのように誇り高い兵士になれると信じつつ彼はベトナム戦争の最前線へ送られる。だがそこで待っていたのは栄光ではなく、「村人の中にベトコンが紛れ込んでいる」という理由で老若男女問わず命を奪われていく、“ただ人を殺すことを強いられる”凄惨な現実だった。命を奪う経験を重ねるうち、アレンの心は次第に感覚を失っていく。
23歳で帰国した彼を待っていたのは、戦場の記憶に縛られる日々。大きな音や暗闇に怯え、家族との関係も崩壊しやがてホームレスになったアレンは、孤独と絶望を感じていた。そんなアレンの前に、真正面から向き合い救い出そうとする退役軍人病院のダニエルズ医師が現れる。
アレン・ネルソンを演じるのは、ブロードウェイミュージカル『RENT』のオリジナル・キャストおよびクロージング・キャストを務めたロドニー・ヒックス。また、その他のキャストに『シャイン』(1996)や『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003~)シリーズ、『英国王のスピーチ』(2010)などで知られるオスカー俳優ジェフリー・ラッシュのほかタチアナ・アリ、マーク・マーフィーらが集結しニューヨーク・タイ・ベトナム・日本と国境を越えた異例のスケールで撮影が敢行された。
さらに公開決定に際し、塚本監督からコメントも到着。『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』はこれまで戦争と人間、そして人を殺めることの恐ろしさを描き続けてきた塚本監督にとって集大成とも言うべき作品となる。

塚本晋也(監督)コメント全文
大岡昇平さんの「野火」を映画化するとき、さまざまな資料、書籍を読んだが、そのとき出会った何よりも恐ろしいノンフィクションが『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』だった。アレン・ネルソンさんは、ベトナム戦争で多くの人を殺した。そして戦争後遺症に生涯悩まされ続けた。自分の犯した罪とその後の人生を包み隠さず吐露した本は、いつまでも頭から離れず強烈に自分の心に刻み付けられた。
これがもし映画になったら?と想像すると、今の世の中に絶対必要なことに思えた。戦争がどういうものか。戦争が人をどう変えるか。周囲の人にどういう影響を与えるか。
同時に、そんな恐ろしい考えは持たないようにしよう、と逃げる理由も考えた。
映画化はあまりに難しく、逃げる理由はいくらでも並べることができた。
その物語に近づこうとするたび、人間の暗部がいやというほど浮き彫りになり、苦痛を感じた。しかし、体は、この企画の実現のためにとどまることを忘れ休みなく動き続けた。果たして映画化は困難を極め、作らなければ、でも逃げたい、というせめぎ合う気持ちは7年もの間完成に到るまで続いた。
あちこちで戦火をあげている今の世界。それをますます身近に感じるようになった。これは、アレン・ネルソンというアフリカ系アメリカ人の一人の兵士を描いた真実の物語だ。
今は亡くなってしまったアレンさんを蘇らせ、人々に知ってもらうことが今の世の中にどうしても必要、という考えを捨て去ることができずに、多くの人たちの理解と協力を得て完全なものとして出来上がった。
彼の生きる姿が、皆さんの心に届くことを心から願っています。
塚本晋也